キミのおこした奇跡side S


≫Clap ≫Top

高校生活スタート


密かな誓い


「どういうことかしら?」
「…何が?」
「私が知らないとでも思ってるの?」
「だから何が?」
「新ちゃん、あおいちゃんと喧嘩したんでしょ?」


久しぶりに母さんから連絡来たと思ったら、いきなりこんな話題だった。
…なんで知ってんだよ。


「別に喧嘩なんかしてねぇよ」
「嘘おっしゃい!」
「嘘じゃねーし。喧嘩じゃなくて…もう一緒にいなくていいって言われただけだ」


改めて自分で言うのもなんだかな…。


「なんで!?どうしてそんなことになっちゃったのよっ!!?新一、あおいちゃんに何したの!!?」
「なんもしてねーよっ!!」
「してないわけないでしょ!?何かしたからもう一緒にいたくないって言われちゃったんでしょ!!?」
「いたくないじゃなくて、いなくていいって言われたんだっ!!間違うんじゃねーよ!」
「同じでしょ!?」
「全然違うだろっ!!?」


「一緒にいたくない」と「一緒にいなくていい」じゃ大違いだってのっ!!
その後もぎゃーぎゃーと母さんの小言を聞かされ(電話切らなかっただけ優しい息子だよ、俺は)その日は終わった。


「母さんから連絡行ったか?」


園子幹事のパジャマパーティ改め酔っ払いパーティの後日。
蘭をうちに呼んだ。


「うん、来たよ。木曜出発の便だってね?」
「おー」


うちで昼飯を作ってもらってそのまま一緒に食うことにした。
…あおいとメシ食わなくなってから俺カップラかコンビニ弁当ばっかだったしなぁ。
誰かに作ってもらうのがすげぇ久しぶりな気がする。


「…」


てきぱきと料理する蘭。
なんで呼び出されたか知ってんだろうに、言いやがらねぇ…。
俺から切り出すのもなぁ…。
チラッと蘭を見る。
慣れた手つきで料理と使った調理器具の片付けを同時進行にしてる。
…あおいだったら絶対がっしゃーんとかベタな音立てて大惨事になってる状況だよな。


「何笑ってんの?」
「へ?」
「…ニヤニヤと気持ち悪い」
「オメーなぁ…」


気持ち悪ぃってなんだ、気持ち悪ぃって!


「そうそう、この間のパーティね」


ピクッと体で反応したのが自分でもわかった。


「私部活行ってから行ったんだけど、」
「おぅ」
「行った時には2人とも酔っぱらって寝てたよ」
「はぁぁ!?」
「だからな〜〜んにも話さなかった」
「おまっ、何しに行ったんだよ!」
「泊まりに行ったんだけど?」


いや、そうかもしれねぇけど、もっとなんかできただろ!?
淡いどころかどっぷり濃い期待をしていたからがっかり度がハンパない。
蘭ならどうにかしてくれるに違いない。
そういう思い込みっつーか、長年の信頼っつーかがあるからしゃーねぇんだろうけど。


「新一ってさ、あおいと一緒にいることが当たり前になってるんじゃない?」
「え?」


テーブルに綺麗に盛り付けられた皿を並べながら蘭が言う。


「照れ隠しなのかなんなのかあおいのことあんまり女の子扱いしてないよね?」
「べ、別に女扱いしてないわけじゃ」
「そぉおー?よくあおいのほっぺ引っ張ったりデコピンしてるじゃない」
「い、いや、最近は、」
「この間なんてあおい襲うのはよほどの物好きしかいねぇとか言っちゃってさぁ。あれ結構傷つくと思うよ?」


な、なんで俺今こういう内容で責められてんだ?


「新一とあおいつきあってるわけじゃないのに、一緒にいること『だけ』当たり前になって女の子扱いもロクにされない」
「…」
「新一みたいに無神経に接する人より、他に女の子扱いしてくれる人が現れたらそっちに行っちゃうんじゃないの?」
「…はっ!?」


ほ、他に現れたら!?


「な、何だソレ!誰かいるって言ってたのかよ!?まさかクロバか!?アイツとなんかあったのかっ!!?」


やっぱあの時メールしてて、春休みに2人でなんかあったのか!!?


「一般論よ、一般論!女の子扱いもしない推理オタクよりも、女の子扱いしてくれる人の方を選んでも不思議じゃない、って言ってるの!」
「だ、だから別に女扱いしてないわけじゃ」


蘭が盛大にため息を吐いた。
え?俺のせい?


「それに新一、気づいてないかもしれないけど、」
「え?」
「あおいのこと、小さくて可愛いって言ってる人結構いるんだよ?」
「な、なんだよ、ソレ…」


アイツのこと好きな物好きなんて俺くらいじゃねーのかよ!?


「何その心底意外!って顔…」
「へ!?あ、いや、…意外?」
「…あのねぇ、新一。新一も言ってたでしょ、あおいは猫っぽい、って。顔も可愛いし、小さくて女の子ーってスタイルで、くるくるくるくよく表情が変わって見てて飽きないし。それでいて掴み所がなくすり抜ける。…ああいう猫っぽい子はハマると夢中で追っかけたくなるタイプって、空手部の先輩が言ってたよ?」
「んなっ!?」


お、追っかけたくなるタイプ!?


「てことはつまり、少なからずハマってすでに追っかけてるような人がいても不思議じゃないってこと」


何だソレ!
は!?
アイツ、モテんのかよ!?
クロバだけじゃなくて!!?


「…一緒にいる『だけ』の新一じゃあ、あっという間に連れ攫われちゃうよね」


一緒にいる「だけ」を強調すんじゃねーっての!


「新一もさ、もっとあおいに対して感謝や気遣いを見せたら?」


いや俺アイツに十分優しくなったと思うんだけど!
ぐるぐるぐるぐる、自分の今までの言動を振り返る。
…いや、マジで俺昔に比べてアイツに優しくなったって!
そう思い至った時、蘭の右手が目に飛び込んできた。


「まぁ、なんでもいいけど、」


蘭のヤツ、もしかして…。


「自分の環境に胡坐かいてた結果が今、って言われても仕方ないんじゃないの?」


蘭は昔から、嘘をつく時に右手を握り締める癖がある。
そして今も、しっかりと握り締めていた。


「とにかく!新一は新一で、今自分にできることをする!あおいがなんで距離をおこうとしたのか探ることも大事だけど、自分の言動を見直してもっと男を磨く!これしかない!」
「…オメーさぁ、」
「何?」
「園子に似てきたな」
「…」


蘭はたぶん、嘘を吐いてる。
あおいたちが酔っ払って先に寝ていて何も聞いてないって言ってたが、コイツたぶん原因を知ってる。
俺が探偵、ってのもあるかもしれない。
でもそれ以前に15年一緒にいたコイツの嘘を、俺が見抜けないわけがない。
蘭が俺にほんとのことを言わない。
俺に気を遣って言えない。
ってことは俺に気遣わなきゃなんねぇような内容。
蘭からの最大のヒント。


−一般論よ、一般論!女の子扱いもしない推理オタクよりも、女の子扱いしてくれる人の方を選んでも不思議じゃない、って言ってるの!−


それイコール全てではないだろう。
でも蘭の言動から考えるにつまりあおいは『女扱いしてるどっかの馬の骨』を選ぼうとしてる可能性が俺が思ってる以上のかなり高い確率である、ってこと。


「…おもしれぇ」
「え?」


どこの馬の骨か知らねぇが、ぜってぇ阻止してやるっ!!
人の女横からコソコソ掻っ攫うような真似するヤロー見つけ次第蹴り殺してやらぁ!!


「(あ、あれ?なんか火つけちゃった?)ま、まぁ私もできるフォローはするからさ。旅行はやっぱり、3人で笑って過ごしたいしね!」


そんな蘭の声なんか聞こえることなく、ここ最近の底なし沼から這い上がったかのようにヤル気スイッチが入った俺は、この連休の旅行で何が何でも元に戻ってみせると心に誓った。

.

prev next


bkm

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -