キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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卒業、そして


翌日


眠れたのか、眠れなかったのか、よくわからない朝。
昨日、あの人が淡々と話したことが悲しかったわけじゃない。
だって後2年で消えます、って言われてもピンと来ないもん。
どこかが悪いわけでもなければ、どこかが痛いわけでもないんだから。
朝になって部屋を見回してもあの人はいなかったし、どこか夢を見ていたような感覚で実感がわかないのかな?
悲しい、よりもどこか不思議で、ほんとにそうなるのかって、疑う気持ちの方が大きかった。
部屋を見回した時、買ってそのままにしていたプリンを見つけた。
あんまり食欲が沸かなかったけど、なんとなくプリンに手を伸ばした。
つるんとプリンが喉を伝うのがわかる。
…今、ここでこうしているのに。
何かを飲み込む感覚だってはっきりわかるのに。
私は確かに、ここにいるのに。
消滅なんてするのかな…?


ピンポーン


インターホンが鳴って、ピッとボタンを押すと快斗くんが写し出されていた。
…2年。
今私は快斗くんの彼女だけど、その2年の間に快斗くんは中森さんを好きになるのかな。
今でも仲良いのに、もっと仲良くなるのかな。
…逆に2年で良かったのかもしれない。
だんだん中森さんのことを好きになっていく快斗くんをずっと見るのはさすがにちょっと、ツラいもん。


「あおいちゃん。ちゃんと会って話しがしたいから、開けてくんねーかな?」


あと、2年。
悲しかったわけじゃない。
だって生きていればみんな必ず死ぬんだもん。
ゆっくり亡くなるか、突然亡くなるかの違い。
それが私の場合たまたま2年後に来る、って前もってわかっただけの話だ。
2年なんて、まだ先の話だし。
だから悲しかったわけじゃない。


「ありがとな、開けてくれて」


部屋に入ってきた快斗くんは、いつもの快斗くんで。


「お、プリン食べてたの?」
「昨日買ったけどそのままにしてたから」
「…他にご飯は?」
「あんまり食べたい感じしないし」


よく見たら一昨日の夕方のまま、部屋が汚い。
…あーあ、こんなんじゃほんとに快斗くんに嫌われちゃうな。
そう思ったけど、


「ごめんな、俺のせいで」


快斗くんは頭を撫でてくれた。


「俺、幼馴染がいて当たり前だったから、あおいちゃんの気持ちに気づかなかった。ほんとごめん」


快斗くんの手は、優しくて温かい。
快斗くんが触れるたびに、涙が溢れてくる。


「私、も、」
「うん?」
「ワガママでごめんね」


そう言ってソファの上で膝を抱えて顔を隠すように俯いた。


「ぜーんぜん!あおいちゃんのはワガママのうちにも入んねーよ!」


そう言って快斗くんは笑う。


「ほんとにごめん」
「だから大丈夫だって言って」
「でも、あの子は、ちょっとやだ」
「…」
「ごめんね、快斗くんの幼馴染なのに、でもっ」
「もういいよ。言わなくて、いいよ」


膝に顔をつけるようにして座っているその体ごと、快斗くんは私を抱きしめてきた。


「大丈夫。もう十分伝わったから。あおいちゃんが謝ることなんかねーよ」


快斗くんと中森さんが幼馴染なのは変わらない事実で。
こんなこと言ったら快斗くんを困らせるのも十分わかっていて。
だけど言わずにはいられなくて…。
いつか、快斗くんはほんとに中森さんを好きになるのかもしれない。
いつか、私より中森さんを選ぶ日が来るのかもしれない。
でもそのこと以上に、2年後にはこうやって抱きしめてくれる快斗くんとお別れなんだ、って。
それがとても、寂しくて、悔しくて、涙が止まらなかった。

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bkm

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