キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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卒業、そして


期限


快斗くんと喧嘩して、心がポッキリ折れた私はケータイの電源をオフにして日がな一日ゴロゴロとしていた。
何もやる気も起きないし、かと言って眠る気も起きなくて。
なのにお腹は空いてくる。
ご飯を作る気力もないから、スーパーかコンビニでテキトーに何か買おう。
そう思って家を出た。
スーパーのお惣菜コーナーを見ても食べたいなーって思うのがなくて、結局飲み物とプリンを買って帰ることにした。
このまましばらく、誰とも連絡を取らないで引き篭もっていようか。
そんなことを考えていた時だった。


「あおい」
「え?」


急に名前を呼ばれたから声のした方を向くと、見知らぬ男の人が立っていた。


「久しぶり、あおい」
「…え?」


久しぶり?
でも私、この人のこと見たことな


「ボクのこと、忘れちゃった?…キミの最期の願いは、叶ったかい?」
「…もしかして、」


ニコニコと笑う目の前の男の人。
顔は見たことがない。
でも、この声は、


「キミに話があって来たんだ」


私をこの世界に導いた人の声だった。
少し話しがしたいって言うその人を連れて、マンションに戻ってきた。
…だって、この人にはじっくり聞いてみたいことがあったから。


「こちらの生活には慣れた?」


微笑みながら言うその人の顔は、どこか日本人離れしていた。


「…はい、だいぶ」
「そう、良かった」


ニコニコニコニコ。
微笑むこの人を見て、疑問に思っていたことを一気にぶつけることにした。


「あの、聞きたいことがあるんですけど…」
「うん、どうぞ?」
「あなたは誰、ですか?どうしてこの世界に、連れてこれたの?元の私は?…お父さんと、お母さんは?」


一気にまくし立てる私に彼は微笑みながら答えてくれた。


「一つずつ、答えるよ。まずボク。ボクはキミたちが言うところの…天使、ってところかな?」
「天使?」
「そう。ボクたちの中にもランクがあって、上に上がるためにはどうしてもクリアしなければいけないことがある。それが、」
「最期の願いを叶えること…?」
「その通り。地上に生きる物の願いを叶える力をボクたちは与えられている。だからキミをここに連れてこれた」


んな非現実的なこと、あるわけねーだろ!って、新一くんなら言いそうだ。
でも、私という存在がすでにそれを体験している。


「そしてここからが本題」
「本題?」
「キミは今、向こうの世界でも生きている」
「…え?」
「正確には魂が抜け、覚めない眠りについている」
「覚めない、眠り…」
「キミのご両親がつききりで看ているよ。…こちらの世界で言う1年があちらでは1日という短さだけどね」
「…」
「でもキミのその肉体も限界がきている。キミの肉体はあちらの世界で言う2日。それを過ぎればあちらの世界のキミの身体は機能停止し、肉体は滅びることになる」
「…ふつか…」


すごく、不思議な感じがした。
自分の肉体の限界って言われても、なんだか他人事みたいで…。


「そしてあちらの世界の肉体が滅ぶと言うことは、」
「滅ぶと言うことは?」
「…こちらの世界の、つまり今のキミの消滅を意味する」
「…ぇ…」
「キミの最期の望みはこの世界に来ること。でもこの世界でキミは本来存在しない人物。そのキミがここで生きていられるのは、あちらの世界のキミのエネルギーを利用しているから」
「…エ、エネルギーとか、そんな意味わからないこといきなり言われても」
「…つまり、今のキミとあちらの世界のキミはヘソの緒で繋がっていると考えれば、1番わかりやすいかもしれない」
「ヘソの、緒…」
「だから、あちらの世界のキミに限界が来たら、必然的にこちらの世界のキミにも影響がでる」


意味がわからないことばかり言われて、すぐには言葉が出てこなかった。
ただ1つわかったこと。
それは、


「今ここにいる私も死ぬ、って、こと?」


今この人から聞かされた話の中でも1番、現実味がない、実感のわかないことだった。


「半分YESで半分NO」
「半分?」
「キミがいなくなると言う意味でなら、死とも言える。でもキミはこの世界の人間ではない。今のキミの死はイコール、キミという存在の消滅を意味する」
「…」


消滅、なんて言葉、本とかゲームの中でしかしらない。
存在が消滅する?
今、私は、ここにいるのに?


「今キミにこれを伝えたのは、残りの期間、キミの生きたいように生きてほしかったから」


私の生きたいように?
だって今は快斗くんと喧嘩してて、誰とも会いたくなくて。
そんなこと思ってたのに、この世界にいれるリミットはあっちの世界で言うあと2日って言われて。
こっちの世界では後2年だ、って。
…ちょうど、原作の高校2年生が終わる頃。


「…どうして帝丹中だったの?」


どうしても疑問だったこと。
それは何故、ここだったのか。
あの時私は快斗くんに会いたがってたのに。
でも連れてこられた場所がここだったから、新一くんに出会えたんだけど。


「気に入らなかった?」
「…気に入らない、っていうか、」
「キミのここでの人生に必要な出逢いが、ここにはあると思ったから、ってところかな?」
「…なんで今会いにきたの?」
「今キミに会いにきたのは、あちらの世界のキミの身体の期限がはっきりとしたからだよ」


ごめんね、とその人は困ったように笑う。
…私のここでの人生に必要な出逢い。
それはきっと、新一くんであり、蘭であり、園子のことだと思う。
もし私があの時江古田に行っていたら、きっと快斗くんとこうはならなかったと思う。
目の前で毎日、中森さんと仲良く話す快斗くんを見て、友達になるどころか、近づけなかったと思う。
帝丹だったから。
新一くんがいて、蘭がいて、園子がいる場所だったから。
きっと今こうしていられるんだと思う。
…でもそれでも私は快斗くんを好きになって、快斗くんの彼女になることもできて。
それら全てが、あと2年で終わりを迎える…?


「…顔色が優れないね。今日はもうゆっくり休むといい。キミが望む時を過ごせるように」


頭の中がぐるぐるぐるぐる。
2年後、私は何を思うんだろう。
いなくなる私は、どうしたらいいんだろう。
ずっとそんなことを考えていたから、その日もあまり眠ることが出来ずにいた。

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bkm

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