キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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卒業、そして


口論


3月。
無事に卒業式を終え、長い春休みに入った。


「快斗くん、合格おめでとう!」
「あっりがとー!これでやっと普通にあおいちゃんに会えるな」


新一くんの策略が功を奏したのか、誰を気にするわけでもなく、叫ぶだけ叫んだあの日。
ちょっと心のモヤモヤが晴れて、今まで通りに快斗くんとお話できていた。


「来月からもう高校生だよ。早いね」
「帝丹はブレザーだっけ?」
「そう。江古田は?」
「相変わらず学ランでーす」


合格発表当日の夕方。
快斗くんと久しぶりに長電話をしていた。


「高校行ったら部活はどうするの?弓道部?」
「あ、俺弓道やめるよ」
「えっ?弓道やめるの!?」
「うん。もう1番取っちゃったしなー。だから別の何か見つけようかと」


なんかあるかなー、と言う快斗くん。
言ってることはわかる、けど。


「ちょっ、と、もったいない、ね」
「何がー?」
「え?うーん…、弓道やってる快斗くん、もう見れないのか、って思っちゃって」
「ははっ!なんだそれー」


俺はいつでも見れるよ、なんて言うけど、あの快斗くんはもう見れないから、やっぱりちょっと、残念だと思う。
快斗くんはバイクの免許を取ろうと思うんだ、って教えてくれた。
え、いいな、って言ったら一緒に取る?って聞かれたけど、私絶対時間かかるから取るなら1人で取ろうと思った。


「あおいちゃんとこ、卒業パーティーとかすんの?」
「パーティー?」
「あー、パーティーってか仲間内の打ち上げ」
「あぁ…。うーん、どうだろ。するのかなー?快斗くんのところは?」
「うちは青子が張り切ってっから週末にな」


快斗くんが不意に名前を出した。


「…中森さん」
「そ!アイツそーいうの好きでさー。よく企画立てんだ」


この前もさー、とそのまま中森さんの話をする快斗くん。
…おかしいな、トロピカルランドでモヤモヤを吹き飛ばしてきたんだけどな。


「春休みは?あおいちゃんどーすんの?」
「あ、春休みは有希子さんがニューヨークに連れてってくれるって、」
「…有希子さん?」
「うん。新一くんのお母さんが、私と蘭も卒業のお祝いに遊びにおいで、ってニューヨークに」
「は?何それ工藤新一と旅行するってこと?」


快斗くんがワントーン声を落として言った。


「新一くんと、ていうか、新一くんと蘭と私の3人で、」
「行っちゃだめ」
「えっ!?」


快斗くんはあからさまにムッとしたような声をしている。


「行かないで」
「…………なんで?」
「それ本気で聞いてんのか!?」


私の言葉に快斗くんは声を大きくした。


「あのなー、オメーは家族って思ってるかもしれねーけど、アイツはそんなことこれっぽっちも思っちゃいねーよ!」
「…なんでそんなこと言うの」
「なんでも何も事実だろ」


電話の向こうで快斗くんが何かを飲んで、コトリとテーブルに置いた音が聞こえた。


「そんな下心ある奴と旅行なんて絶対ダメ」
「…快斗くんは新一くんを知らないからそう言うけど、」
「知ったら余計反対するぜ?アイツと行くのはダメ」


聞く耳を持たないって、こういうこと言うと思う。
快斗くんは私の意見を全く聞こうとしなかった。


「なんで快斗くんがそういうこと言うの」


そのことに、モヤモヤも一気に膨れ上がった。


「なんでって俺は」
「快斗くんだって中森さんと遊ぶじゃん」
「え?青子?」
「自分はよくて私はダメってそんなのおかしい!」
「ち、ちょっと待て!…なんで今青子の名前出てくんの?」


快斗くんは本当にわからないって感じで私に聞いてきた。


「それこそさっき快斗くんも言ったじゃん」
「うん?」
「『それ本気で聞いてるの』?」


モヤモヤは放っておくとチクチク、トゲトゲになるらしい。


「…ごめん、俺マジでわかんねーんだけど、」
「そうだと思うよ。快斗くんには普通のことなんだよね」


モヤモヤチクチクトゲトゲ。
…私今きっと、すごく可愛くないと思う。
でも1度口から出たものは取り消せないし、何よりも止まらないと思う。


「あおいちゃんが何を誤解してんのかわかんねーけど、青子は幼馴染で別にそんなんじゃねーし、何ていうかもう兄弟みたいなもんなんだって!」
「それと一緒だよ」
「え?」
「そ、りゃあ、幼馴染じゃない、けど、でも新一くんは」
「だからアイツはあおいちゃんのことそーいう風に見てねーって言ってるだろ!?」
「だからなんで私だけそんなこと言われるの!?」
「だからも何も事実だって言ってんじゃねーか!アイツはあおいちゃんを家族なんて思っちゃいねーし、実際家族なわけじゃねーんだからダメだって言ってんだろ!?俺が青子と遊ぶのと、工藤新一と旅行するのとじゃ問題のレベルが違うだろ!?」


快斗くんは優しい。
いつでも笑って話を聞いてくれる。
…だから今までこんな風に怒鳴られることなかった。


「わかった」


上手く伝えられないことが悲しかったのか、快斗くんに声を荒げられたことが悲しかったのか…。


「もういい。もう知らない」
「は?え、何言っ」
「快斗くんは快斗くんの好きにしてよ。私もそうする」
「おい!ちょっと待てって!」
「ばいばい」


中森さんのことでモヤモヤしてたところに追い打ちをかけるように快斗くんに怒鳴られた私の心はポッキリと折れた。

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bkm

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