キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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卒業、そして


鬱憤


あの後、受験1ヶ月前ってこともあって、快斗くんとちょっと…連絡が減っていた。
寂しいって思いもあるけど、それと同じくらい、今連絡が減って良かったかも、って思っている。
快斗くんはきっと、幼馴染の中森さんが大事で。
私がこんなモヤモヤしてるなんて、知られたくなかった。
そんな日々を過ごしていたある日、


「おぅ。オメー、暇だろ?準備しろ」


新一くんがうちに襲撃しにきた。


「準備?準備ってなんの?」
「出かける準備!下に博士の車止まってっから、着替えたら降りて来いよ」
「え?あ、ちょ、」


そう言ってインターホンの画面から去って行った新一くん。
…なんか久しぶりに新一くんの俺様工藤様を目の当たりにした気がする。
まぁ時間あるしいいや、って着替えてお出かけバッグを持って下に降りた。


「じゃあ出発するぞ」


言ってた通り博士も車で来ていて。
運転席に博士、助手席に新一くん、そして後部座席に私が座って車は発進した。


「どこに行くの?」


少し身を乗り出して聞いた私に、新一くんはニヤリと笑って


「トロピカルランド!」


テーマパークの名前を上げた。


「は?え?なに、何で!?」
「ワシがちょっと、トロピカルランド内の施設の人間から依頼を受けてのぉ。同行者も良いと言われたんで君らを誘ったんじゃよ」
「え?で、でも、」
「リニューアルしたらしいし、タダで楽しめんだから便乗させてもらおうぜ」


そう言って新一くんは窓の外に目をやった。
…軽い気持ちで家から出たらトロピカルランドに連行されました、なんてことある!?おかしくない!?おかしいよね!?いや好きだけどさ、テーマパーク!!久しぶりだけどさっ!!!


「じゃあワシは用を済ませてくるから、君らは好きなところ周ってなさい」


そんなこと思ってたら、あっ!!と言う間にトロピカルランドに到着して。
フリーパスチケットをもらって博士とは解散になった。
…え、私これ新一くんと2人でトロピカルランドなの?え、それはさすがにどうかと思うんだけど、え、それ大丈夫なの、だって私


「おい」
「いだぁ!?」


ぐるぐる考えていたら、新一くんが頭をチョップしてきた。
…この痛みもなんだか久しぶりだ…!


「せっかく来たんだからアトラクション全制覇なつもりで行くぞ」
「は?いやいやいやいや、だってそんな」
「ほら行くぞ!」
「ぐえっ」


新一くんは何を思ったのか私の襟首を引っ張って歩き出した。


「ち、ちょっ、苦しいって!」


なんなのこの人今日変じゃない!?いつもわりとちょっと変だけど!!変じゃない!?
なんて思ったら、


「オメーが他の男と手繋ぐとか、すっげー気にしそうだからそこ掴んだんだけど」


新一くんがちょっと困ったように言ってきた。
…え?何それ今の気遣いなの?おかしくない?襟首掴むが気遣いっておかしくない??


「オメーさー、」
「なに!?」
「…」


キッ!と新一くんを見ながら答えたら、やたらと大きいため息を吐かれた。


「なに」
「…何があったか知らねーけど、オメーに今必要なのは気晴らしだ。ここじゃどんだけ叫んでも誰もなんとも思わねーよ」


だから行くぞ、って新一くんは歩き出した。
…それってつまり、私のためにここに来たわけで。


「まさか博士の仕事も嘘!?」
「それは本当。たまたまここだったから便乗させてもらったんだよ」


ジェットコースターの待ち時間の中、そんなことを話してた。
新一くんは何故私に気分転換が必要なのかは聞いてこなかったけど、気づいてそうだな、なんて思いながら黙っていた。


「だいたいさ、叫んでもいいって言われてもそんな叫んだところで、」
「試してみりゃいいだろ。…っ、ああああああああああ!!!」
「きゃああああああああああああ!!」


まんまと思いっきり叫んでしまった私の声が枯れるのも、時間の問題だった。


「あー…さすがに喉痛ぇな…ケホッ」
「ケホケホッ…ちょっと叫びすぎちゃったね」


いくつかアトラクションを堪能した頃にはすっかり声が枯れはじめていた。


「でも楽しかった!ありがと!博士にもお礼言わなきゃ」
「いーや、まだ早ぇよ」


そう言うと新一くんは腕時計を見た。


「10、9、8、7」
「え?な、なになに?」


徐にカウントダウンを始める新一くん。


「6、5、4、3」
「え、え、え?」


周りを見渡すと、人が少し距離を置いているのがわかる。


「2、1、0!!!」


その声と同時に噴水が噴き上がった。


「う、わぁぁぁ!!!」


そこには一面、水の壁が出来ていて。


「オメー、こういうの好きだろ?」
「…うん!すごいよ!!ありがとう!!」


その中心に私たち、2人だけがいた。


「あおい」
「うんー?」


サァァと音を上げて噴き上がる水はまだ春には早いこの季節にはちょっと、冷たく感じる。


「何されたのか知らねーけど、オメーにそんな顔させるような男、止めろって。オメーには合わねーよ」


新一くんを見ると、冗談を言ってるようなわけでもなく、真っ直ぐ私を見ていた。


「オメーにはもっと良い奴いるから」


真っ直ぐ私を見る瞳は、快斗くんよりももっと、鮮やかな青色をしている。


「いないかなー」
「いる!」
「いや、そうは言うけど、控えめに言って世界良い男選手権があったらトップ3に入るくらいの人だからいないと思うよ?ちなみに新一くんは米花町代表の予選敗退」
「オメー、俺にケンカ売る度胸あるならアイツに売ってくりゃいいだろ?」
「…だって嫌われたくないもん」
「おい待てこら、じゃあ俺はなんだ?」
「え?新一くんが私を嫌いになるなら、そもそもとっくに嫌いになってると思う」


私の言葉に今日1番、大きなため息を吐いた新一くん。


「オメーさぁ、アイツにもそのくらいの気持ちでぶつかりゃいいだろ」
「…だから私は、」
「それで逃げ出すような奴ならその程度なんだよ。やめとけそんな口だけなキザヤロー」
「…嫌い?快斗くんのこと」


私の言葉に新一くんはもう1度私に向き直った。


「知らなかったのか?俺は王子面した花背負ってるようなクソ野郎大ッキライだ!」


フン!と新一くんが顔を逸したところで、噴水が止まった。


「快斗くんとももっと、新一くんみたいに言い合えたらなー」
「だから合わねーんだって、ソイツと!」
「もうちょっとさ、オブラートに包んでほしい」
「向いてねーんだよ、ソイツといるのに」
「わりとダイレクトになった」
「オメーには違う男がいる」
「んー…オブラートなような、違うような」
「いいか?よく考えろよ?そもそもオメーをそこまで悩ませてる段階でアイツに価値はない」


私の鬱憤を感じ取って言葉にしてるかのように、ものすごくアンチ快斗くんを訴えてくる新一くんに、枯れた声でちょっと笑いが漏れた。

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bkm

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