キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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Summer Vacation


初電話


「バカだバカだと思ってたけど、ここまでバカだとは思いもしなかったんだけど…」


夏休み直前、期末テスト返却後の工藤家リビング。
…どうしても。
どうしてもっ!!
黒羽くんからのお誘いが来た時のために日本にいたかった私は、苦肉の策として、期末テストでやや空欄多めで提出した。
…物だから、答えを書いた部分すら間違えてるなんて思いもせず、自分が思っていた以上に(大きな声じゃ言えないけど去年と同レベルな点数)芳しくない点数を叩き出してしまった私を前に、にゃんこが腕を組み青筋を立てていた。


「すみませんでした」
「どーすんだよ、これ!どっから教えりゃいいんだよ」


工藤くんのそれは、私にというよりも「理解しない私にわかるように教えなかった自分」を責めてるようにも聞こえたから不思議だ。


「…わかった」
「うん?」
「俺もハワイ行くのキャンセルすっから、今年は勉強漬けだ」
「待ってっ!!!!」


右手で額を抑えながら言う工藤くんに、思わず声が大きくなってしまった。


「オメーまさかこの点数でハワイ行けるとでも思ってんのか?」
「行こう!ハワイ!!ねっ!?」


ここでにゃんこまで日本に残られ毎日勉強漬けにされてしまったら、黒羽くんから連絡来た時に会いに行けないかもしれない可能性が出てきちゃうじゃん!!


「私は勉強合宿頑張るから!ハワイ行こう!?」


なら工藤くんにはハワイに行ってもらわなければ、と必死だった私に、工藤くんは何か言いたそうな顔をしてこっちを見てきた。


「…はぁ…。んじゃあ、オメーの合宿終わるの待ってやっから、」
「えっ!?工藤くんハワイに行っていいよ!?」
「はぁ?」
「ほ、ほら!私1人で出来るし!ね?行って行って!」


その言葉に片眉を上げて一瞬ビミョーそうな顔した工藤くん。


「わかった」
「う、うん?」
「俺は予定通り行ってっから、オメーはオメーの合宿全部終わったら合流な」
「…えっ!?」


空港まで迎えに行ってやっから、と工藤くんは言う。
…あ、あれ?
私も結局行く感じ…?
え!?なんで!?


「母さんたちには俺から言っとくから、ちゃんと来いよ」


いや私行かなくても…なんて思っても、ここで有希子さんの名前を出されたら言えるはずもなく。


「わ、わかった…」


にゃんこの提案を飲むしかなかった…。
…私!
なんのために!!
赤点取ったの!?!?
夏休みに入ったらすぐにサッカー部と弓道部プラス家庭科部が合宿で。
今年はその後で勉強合宿だから(追試の生徒の部活が被らない日程にされた…)ハワイに行くまでに工藤くんとのタイムラグは長くても1週間くらい?
そんなたった1週間しかないなんて黒羽くんに会えなくならない!?


ピリリリ


なんてことを思っていたらあっという間に終業式も終わり。
明後日から2泊3日の合宿がスタートするって時に、不意に着信音が鳴り響いた。
ディスプレイを見ると


着信 黒羽快斗


と出ていた。


「も、ももももしもしっ!?」


ディスプレイの文字を脳が理解したのが先か、理解の前に身体が動いたのが先か…。
自分でもわからないけど、バッ!とケータイを手に取り通話ボタンを押していた。


「もっしもーし!芳賀ちゃん今何してんのー?」


爽やかな。
マイナスイオン垂れ流しな声が耳から脳に、ううん、きっと心臓に響いて私をまるごと撃ち抜いてきた気がした。
…私っ!
今っ!!
黒羽くんと電話してるっ!!!


「い、今は…荷造り?」
「荷造り?芳賀ちゃんもどっか行くの?」
「あ、いや、うちの学校、夏休みに合宿があって、」
「あー!なるほど、さすが私立は違うねー」


まさか黒羽くんからこのタイミングで電話が来るなんて思ってもみなかったから、ケータイを握る手が汗ばんできたような、そんな緊張感の中、必死に黒羽くんとの会話を繋げていた。


「わ、私『も』って、黒羽くんどこかに行くの?」


テスト勉強の時だってこんなに頭が働いてなかったと思う!
そのくらいフル回転で黒羽くんに会話を拾っていった。


「全中あるから俺明日から鳥取なの」


芳賀ちゃんは鳥取行ったことある?って黒羽くんが聞いてきた。
…そういえば明後日から全中始まるって主将が言ってたな。


「明日出発なのに、電話してて大丈夫?」
「ダイジョーブ!準備も終わってっし、後は寝るだけだから」


はははー、なんて笑いながら言う黒羽くん。
…やっぱり気のせいじゃなくて、今私絶対マイナスイオンに包まれてるっ!
もう涙出てきそう…!


「で、全中終わったら遊ぼうぜって言ってたの思い出したから、先に芳賀ちゃんの予定聞いておこうかと思ってさ」
「いつでも大丈夫です」
「あ、マジで?予定ない感じ?」


私の予定なんて黒羽くんの前にあってないような物です。
なんて恥ずかしくて言えるわけないんだけどさ。


「後半は、ちょっと無理だと思うけど、前半なら…」
「おっけー。じゃあ全中終わったらまた電話する」


その時に日にち決めようぜ、と言って黒羽くんは通話を終わらせた。
い、今、黒羽くんが「また電話する」って…!
また!電話!!するってっ…!!!


「ふっ、ふへへへへへ」


勉強合宿?そんなのちょちょちょっと終わらせるんだから!
だって今の私は無敵だから!!
両手で握りしめたケータイを見つめてニヤける顔を抑えられずにいた。

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bkm

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