キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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巡る季節


嫉妬


全中弓道関東大会当日。
今年も俺は雑用として参加したわけだけど。


「くっ、黒羽くん、」
「ん?」
「が、頑張ってください…!」
「…おー、サンキュー」


今年は去年以上に知らない子に声かけられる。
ありがたいことではあるけど、大勢できゃーきゃー言いながら来られるとさすがにちょっと困る。
お陰でなかなかあおいちゃんにたどり着けないでいる。
あーあの歩き方あおいちゃんぽいなー、なんて思いながら会場を歩く子を見ていたら、また別の子に呼び止められ、


「黒羽くん!あ、あのっ、これ…!」


可愛く包装された物を差し出された。
…声かけられるのはいい。
でも、


「あー、ありがとな」
「っ!あ、あのねっ、私っ」
「でもごめん、受け取れねーや」


何かを受け取るって言うわけにはいかなかった。


「俺、好きな子いるからその子以外からは受け取れねーんだ」
「…そ、そっか…」
「ごめんな」


泣きそうな顔の女の子を置いていくのもどーかと思うけど、そこでオカシナ期待されても困るからそのまま立ち去った。
それに、ほんとに泣き虫な子知ってるから…。
その泣き虫な子は、さっきそれっぽい姿を見た気がしたけど、なかなか会えずにいて、そろそろ試合だろーし、直接会場で見るかって思って見ていたものの、


「…ウソだろ…」


今日のあおいちゃんはすこぶる調子が悪かったようで、4本のうち1本しか的に当てることが出来なかった。
…これきっと本人が1番落ち込んでるはずだ。
なんとかして見つけて声かけようと、探していたら、すっかり道着から着替え終えてたあおいちゃんが廊下を歩いていた。


「あおいちゃん!会えないかと思ったぜ!…今日調子悪かったみたいで残念だったな」


俺の言葉にいつものなら、そうなの聞いてよ、くらい言ってくるのに、黙ってチラッとこちらを見ただけだった。


「あおいちゃん、どうした?大丈夫?」


何も言わずに俺を見てくるあおいちゃんの頭をいつものように撫でたわけだけど、


「快斗くん」
「なになに?」


頭を撫でている手首を掴まれたかと思ったら、その手をパッ!と払うように頭から退かされた。
……え?


「次の試合、学校の子出るから行くね」
「あ、あぁ…」


そう言って席に戻ろうとするあおいちゃん。
…え?俺今手払われたよな?
えっ!?怒らせるようなことしたか!?
いつも通りにしてただけだけど?
はっ?なんで?
と、思ったところで、さっきの名前も知らない女の子との光景が頭に過ぎった。
…あの直前、あおいちゃんぽい子がこちらに向かっていて。
でもこちらに来ると思っていたその子が現れることがなく。
もしかして、って。
あくまでもほんの僅かな可能性でしかないわけだけど、もしかしてあの現場を見た上での今の態度だった、とか?
いやでもそれはさすがに希望的観測が盛り込まれすぎてる。
とりあえず今はこのまま別れるよりもう1回呼び止めた方が得策だ。
そう思ってあおいちゃん後を追っかけたんだけど…。


「そうですけど?」
「黒羽くんと友達とか?」
「…まぁ、友達…?」
「えっ、すごいね!」


絶賛知らねー男にダル絡みされていた。
…なんで今の一瞬、目離しただけで絡まれてんだよ!
しかも俺のこと話してんじゃねーよ!!


「学校どこ?」
「え?あ、帝丹…」
「帝丹の子か!あ、俺杯戸3年の林って言って、」
「あ、私はムグッ!?」


100歩譲ってもしかしたら俺のファンとか何かの可能性もあるから一瞬様子を見たが、明らかに流れがおかしくなったから止めに入った。
今止めなかったら、完全に自分の名前言ってたなこの子。


「なーんか俺の名前が聞こえた気したけど?」


口元を手で覆った物だから、


「ぷはっ!」


俺の手が離れたらあおいちゃんが勢いよく、息を吐いた。


「俺のいないところで俺の話?」
「あ、この人快斗くんと友達になりたいみたいだよ」
「「へっ?」」


何やってんだよ、くらいな勢いで言った俺に、逆にあんたが何やってんだって顔をしながらあおいちゃんは言ってきた。
コイツが「俺」と「友達」になりたい??


「いやだって私に快斗くんの友達か?って聞いてきたから紹介してほしいのかな、って」


…あぁ、そうだった。
この子はそういう子なんだった。
オメーにそう言われた林?が困ってんじゃねーか…。
ソイツのその顔見たらなんか笑えてきた。


「んー、そうだなー。俺と友達になりてぇなら直接言ってくれればいつでもなってやるぜ?」
「……チッ!」


俺の言葉に盛大に舌打ちして去って行った。
…いや、うん。逆の立場なら俺もきっとそーなってると思う。
だって問題は、


「いたいいたい!!」


人寄せつけちまうくせに、疑うってことを知らねーこの女のせいだからだ。


「あのなぁ、知らねー奴にホイホイ名前教えようとするなよ!」
「し、知らなくないよ!」
「あ?」
「あの人杯戸の林くんて、」
「それさっき言われたんだろ!?それを知らないって言うんじゃねーか!!」
「なんでそんなこと言われなきゃいけないの!私悪いことしてないじゃん!!」


めっずらしくあおいちゃんがプリッと怒った。
もしかしたら本人的にはプンプンと怒っているのかもしれないが、全く恐くない上、そんな上目遣いで怒ってきても、はい、今日も可愛いー、で終わるだろ…。
ズルくねーか?
そんなこと思ったらデカいため息が出た。


「今度知らねー男に名前教えたら、あおいちゃんの食う夕飯全部にタバスコぶっかけるからな」
「それはやめて!!」
「やめるかどーかはあおいちゃん次第だけどなー」


結局、さっきのあおいちゃんの態度が嫉妬から来るものなのかなんなのかあやふやなまま、関東大会が終わった。

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