キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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恋の受験戦争


「トクベツ」


俺はいったい何に腹を立ててるのか。
あおいちゃんが嘘を吐いていたから?
いや、あの子は嘘を吐いてなんかいない。
言葉の裏を勝手に読んだ気でいて思い込んだのは俺だ。
あの男のことを隠されているように感じたから?
でも元々「保護者のような友人」として話していた以上、あの子は隠そうとしていたわけじゃない。
明からさまに向けられた、殺気と呼ばれるようなあの視線に対して?
確かにあれは不愉快だったが、目を逸らすほどのものでもなかった。
なら俺は…。


「は、はい、」
「あおいちゃん、今大丈夫?」


帰宅後、風呂に入って頭から水を浴びて1度頭を冷やしてからあおいちゃんに電話した。


「あ、う、うん!ちょうどお風呂も終わったところだから」
「それで今日いた奴、誰?」


自分で言って驚いた。
頭から水浴びたのに全く冷えていない。


「か、彼はですね、工藤新一くんと言って、近所に住んでるクラスメートで、」
「あおいちゃん」
「う、うん?」
「そういうこと聞いてない」
「あ、うん…」


この子はこういう子だ。
今さらはぐらかそうとしてるわけでもないだろう。
でも今はそこに少し苛立ちを覚えた。


「新一くんは、」
「え?」


あおいちゃんはアイツのことを「新一くん」と呼んだ。
学校で会った時は確か「工藤くん」て言ってなかったか?
…あんにゃろー、この短時間で牽制兼ねて呼び名変えさせやがったな?


「いや、続けて」
「う、うん…。新一くんは、私が米花町に来た日に出逢った人で、」


そこからあおいちゃんは「工藤新一」の話しをした。
今から約2年前、1人で米花町に来たこと。
その時困っていたあおいちゃんに1番最初に手を差し伸べたのがアイツだってこと。
直ぐに打ち解けたこと。
家の事情を話したからか、それからずっと、アイツの親も含めて、目をかけてくれること。
…そこにとても、感謝していること。


「だから友達、っていうよりも…家族、みたいな感じで、」


口篭もりながら言うあおいちゃん。
それは俺に対して悪いとでも思っているからか?


「家族、ね」
「そ、そうなの!だから保護者って言い方して、」


少なくともアイツはカケラもそんな風に思っちゃいない。


「それであおいちゃんは、好きなの?ソイツのこと」
「…………………えっ!?え?いや、だから今私、家族って、」
「うん。それは聞いた。でも本当に家族なわけじゃねぇじゃん。好きなの?ソイツのこと、男として」


話していて気がついた、苛立ちの理由。
それはきっと、俺が工藤新一に、あおいちゃんがこっちに来て1番最初に手を差し伸べた人間にはなれないから。
それはつまり、工藤新一との間に築いた物を、俺が横から掻っ攫えるわけではないということで。


「ちっ!違うよっ!?そりゃあ良くしてくれるし、友達としては好きだけど、別にそういう意味で好きなんてこと絶対ないから!」
「あおいちゃん」
「なに!?」
「この世に絶対なんて言葉、それこそ絶対にないんだぜ?」


あのヤローの顔が脳裏に浮かぶ。
小賢しい、人の裏まで見ようとするようなあの視線。
そんな男があの子の側にいることが許せなかった。
…「許せない」?
あぁ、そうか、って。
ここにきてようやく気がついた。
…いや、認めた、が、正しいのか?
俺の中であの子はとっくに「トクベツ」になっていたんだ。


「まぁ、これ以上アドバンテージやるつもりはねぇからいいけど」


ただでさえ距離のアドバンテージはアイツにあって。
その他にも出逢い、今の信頼度、知名度、親との関係性諸々今の俺は負けている。


「俺さー、今年本気で全中優勝目指すわ」


けどな、負けっぱなしは性に合わねーから。


「応援してくれるでしょ?」
「そ、それはもちろん!」
「今年どこだっけ?岐阜だったかな?」
「…いや、わっかんない、けど、」
「一緒に行けるといいね」
「えっ!?いや、うん、まぁ、えっ?」


俺がアイツに勝っていること。
それは今のこういう時間を確保できるだけの親密さ。
…お袋が言ってた「あんた苦労するわよ」って言葉、こんなに早く身にしみて感じるなんて思いもしなかったけど。


「あっれ?快斗今日早いねー!おはよー」


けどまぁ俺は、苦労というよりも、好敵手がいた方が燃えるタイプだ。


「あー、青子。オメーの勝ちだわ」
「え?なに?青子なんか勝負してたっけ?」
「…オメーが言う通り、出来ちまったよ『トクベツ』が」


その言葉に青子は珍しく俺を茶化すわけでもなく、


「青子、快斗限定の預言者になろうかなー」
「言ってろ」
「素直に認めた快斗に帰りにアイスでも奢ってあげよーか?」
「チョコアイスな」
「きっと今日のアイスは美味しいよ!」


ヒヒッと良い笑顔で笑っていた。

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bkm

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