■違い
「あおいちゃん、怪我の具合ど?」
翌日、言っていた通り快斗くんがうちにやってきた。
「ご、ごめんね、わざわざ、」
「これくらいどーってことねーよ!」
そう言って快斗くんは買い出して来たものをテーブルに置いた。
直後、
「熱は?出てねーか?」
「え?えっ!?」
私のおでこにヒヤリとした快斗くんの右手が触れた。
………えっ!?!?!?
「うん、大丈夫だな。まぁ、折れてるわけじゃねーし、大丈夫か」
良かった良かった、と、快斗くんは買ってきた物を冷蔵庫に仕舞いはじめた。
…………こういうところぉぉぉ!!!
「あおいちゃんは座ってていいぜ?」
「い、いいいいや、そんなわけにはっ、」
「…………」
快斗くんの手のひらの冷たさが気持ち良かったな、とか思う間もなく座るように言われたけど、快斗くんがわざわざ来てくれたのにそんな私座ってなんかいられるわけって、
「えええええ!?!?」
快斗くんはなかなか座らない私にため息を吐いた直後、松葉杖を取り上げまるで荷物を持ち上げるかのように片手で私を担ぎあげ、イスに座らせた。
「いいからあおいちゃんは座ってて」
そこにいること!と、快斗くんはイスを指差して言った。
「か、快斗くん、て、」
「うん?」
「結構、力持ちなんだ、ね…」
そう言った私に、
「オトコノコですからー」
ニヤリと笑って、シンク台に向かった。
…は、初めて快斗くんにあんなに近づいた気する(お正月のあれは寝てたからよくわからなかったし!)
な、ななななんか、ほんとに思った以上に身体が…がっしり?しっかり?しててだってそんな快斗くんあんなに軽々持ち上げるなんて持ち上げる!?快斗くんに私持ち上げられた!?
「っ、」
快斗くんに担がれたことに、ひーー!!ってなってる私はきっと今顔真っ赤で。
「あー。あおいちゃんもしかして俺のこと意識しちゃった?」
「そんなんじゃっ、っ!?!?」
「あ!バカ!!」
赤い顔の私を見てからかうように快斗くんが言うから、そんなんじゃない、って立ち上がってしまった。
そう…、捻挫してることをまるっと忘れて立ち上がってしまったものだから、右足に激痛が走った。
その痛みに蹲るのが早かったのか、快斗くんが駆け寄ってきたのが早かったのか…。
右足の痛みに悶える私の前に快斗くんもしゃがみこんだ。
「大丈夫か?」
「…もん」
「え?」
「そんなんじゃ、ない、もん」
私の言葉に快斗くんは珍しく目を見開いてフリーズした。
そして目を閉じ、大きく1つ息を吐くと、
「わかった」
と今度は私を「お姫様だっこ」で抱き上げた。
「ぅえええええ!?!?」
「あおいちゃんはイスに座ってんじゃなくて、ベッドで寝ててくれ」
「ちっ、ちょっちょっ、」
そう言って快斗くんは強制的に私をベッドへ連行して寝かせた。
「俺がフォンダンショコラ作り終わるまで起き上がるの禁止!わかったな?」
「えっ、いや私、」
快斗くんは私の返事を聞かずに去って行った…。
快斗くんフォンダンショコラ作ってくれるんだー、とか。
珍しく快斗くんが強い口調だったなー、とか。
そんなことよりもまず、「あの」快斗くんにお姫様抱っこされてしまったという現実に顔と言わずに身体全体が熱を持った気がした。
…昨日、工藤くんにも同じことされたけど、やっぱり違う。
同じことでも、快斗くんがするともっとずっと…涙が出そうになる。
「うー…」
パタパタと熱を帯びた顔を手のひらで仰ぐけど、あまり効果がなくて。
だんだんと甘い匂いが漂ってくる部屋に早く熱が引けって思っていた。
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bkm