キミのおこした奇跡ーAnother Blue


≫Clap ≫Top

初めてのバレンタイン


出ない答え


「骨に異常はないですが、中等度の捻挫ですね」


痛いわけだ。
捻挫ですって。
私もこれで今日から松葉杖生活だよ…。


「痛み止め出すからそれを飲んで、」


現地の医者や看護師からどう過ごしたらいいかとか説明があったけど、ぶっちゃけあんまり頭に残っていなかった。
…私が怪我した時、やっぱり工藤くんが真っ先に助けに来てくれて。
快斗くんのこと、ずっと内緒にしてるのに、それでも工藤くんは助けに来てくれて。
工藤くんに対してすごく酷いことしてるんじゃないかって思えて、快斗くんのこと話した方がいいのかなとも思うけど、でもやっぱりまだ話すような関係じゃないし…、とも思う。
どうしよう、どうしようと悶々としていた。


「まぁゲレンデで何か事件があったようだから、怪我して先に帰らなきゃいけないお前は逆に良かったのかもな」


病院帰り、そのまま先生が家まで送ってくれることになった(荷物もいつの間にか回収されていた)
…そりゃそうだ。
怪我して松葉杖の生徒をずっと雪山に残すはずもない。
何か事件があったなら、きっと工藤くんはそっちに一生懸命になるだろうし、怪我人の私がいない方が集中できるだろう。
それに今工藤くんに会っても何をどう話せばいいのかわからないし、ちょっと考える時間があった方がいい。
だから家に帰るのは全然いいんだけど…。


「一人暮らしの松葉杖生活ってすっごい大変…」


何をするにも松葉杖が必要で。
あーもう!ってなりながらベッドに入った。
午後からバタバタで、快斗くんと毎日やり取りしてるメールも初めて返信しそびれた。
…雪山から米花町まで帰ってきたらすっかり夜になってたし!
さすがにこの時間は遅いしマズいな、って思って明日の朝起きたら返そうと思っていた。
ん、だけ、ど…。


「…っ…」


夜中に痛み止めが切れて痛くて目が覚めた。
起き上がって薬を飲んで、今何時だろーってケータイを見たら3分前に快斗くんからメールが着てた。


from:黒羽快斗
sub:大丈夫?
本文:楽しんでるだけならいーんだけど怪我してない?


工藤くんに快斗くんのこと、言ってないように。
快斗くんにも工藤くんのこと、言ってないわけで。
もうどうしたらいいのわからないけど、とにかく心配してくれてる快斗くんに連絡しなきゃ、って、返信した。


to:黒羽快斗
sub:怪我しました
本文:予定変更で先生の付き添いで家に帰ってきました


それだけ送ったものだから、すぐ快斗くんから電話がかかってきた。


「怪我って?大丈夫?」


そう言っていつものように優しい声で心配してくれる快斗くん。


「あおいちゃん?」


もしかして私、2人に失礼なことしてるのかな?
でも工藤くんに快斗くんのこと、どう説明していいのかわからないように、快斗くんに工藤くんのこと、どう説明していいのかわからない。
蘭に言ったように「家族みたいな人」って言うの?
でもあくまで「みたいな人」であって、家族なわけじゃない。
そんな説明されて、快斗くんはどう思うの?


「あおいちゃん、ほんとにどーし」
「足、」
「うん?」
「中等度の捻挫だって、」
「えっ!?」


私が快斗くんに思う気持ちと、工藤くんに思う気持ちははっきりと違っていて。
だけどどちらも大事で、どちらも大切にしたい思いで。
調子がいいのはわかってるけど、どちらからも嫌われたくないわけで…。


「快斗くん、」
「どーした?」


「この世界」に来て、工藤くんに出逢えたから、今こうしていられる。
だけど快斗くんがいたから私は「この世界」に来た。
大切な思いの大前提が違っているんだから、どっちの方が大切だとか、そうじゃないとか、そんなこと決められるわけなくて。
どうしていいのかわからなすぎて胸が


「痛いよー」


ちゃんと言った方がいいとは思う。
でも、2人と気まずい関係になりたくない。
そう思うのは欲張りなことなのか…。


「今もう米花町の家なんだよな?」
「え?うん。そうだよ」
「俺明日行くよ」
「え!?い、いいよ、だって快斗くん学校あるじゃん!」
「えー、俺こう見えて優秀だから1日くらい休んだって余裕だし!」
「いっ、いや、ほんとに大丈夫だから、」
「あおいちゃん、松葉杖なんでしょ?」
「それ、は、うん」
「今年あおいちゃんの手作りチョコ楽しみにしてたけど、そんな理由なら仕方ねぇ。俺があおいちゃんに作ってやるから楽しみにしててよ」
「………えっ!?!?」
「そうと決まれば何作るかちょっと今から調べっから。明日行く前にまた連絡する」


そう言って快斗くんは電話を切った。
…快斗くんにも、工藤くんにも、2人の優しさに甘えすぎちゃって、2人に失礼なことしてると思う。
だけど、


「…っ!!」


快斗くんが私のためにバレンタインチョコ作ってくれるって言う事実がとんでもなく嬉しくて。
薬が効き始めたからなのか、快斗くんの優しさが染みたからなのか。
いつの間にか足の痛みも気にならなくって眠りについた。



prev next


bkm

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -