キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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奇跡のその先


10年後の真実


「あのっ!」
「うん?」
「快斗、くんは、今、幸せ?」


不安そうな顔で俺を見つめる10年前のあおいちゃん。


「毎日がちょー幸せ!」


そう言った俺に、何かを言おうとしたのか口を開いた瞬間、姿を消した。
そして、


「お帰り、ハニー」
「…んっ…」


それまで16歳のあおいちゃんがいた場所に、俺の大事な奥さんの姿が現れた。


「…あ、れ…?私、寝てた…?」


ぼんやりとした顔でゆっくり目を開けながらあおいちゃんは言う。


「もーお、久しぶりに2人きりなんだからイチャイチャしよって言ったのに、まだ寝ちゃダーメ」
「んー…、でも夢の中でも快斗くんいた気がする」
「マジで?どうだった?」
「あんまり覚えてないけど…、わー、快斗くんだーって思った気する」
「ふはっ!」


目を擦るような仕草をするあおいちゃんは、10年前の俺に無事会えたようだった。


「夢の中でも俺を好きでいてくれた?」


その言葉にふふっと柔らかく笑い、


「もちろん!」


あおいちゃんはそう言った。


「じゃあ今度は現実の俺をもっと好きになってもらおうかなー」
「毎日がこれ以上好きになれないってくらいなのに?」
「毎日好きを更新してもらえるよう俄然張り切っちまうもんねー」


くすくす笑うあおいちゃんに何度も唇を落とす。
そのうち口づけが深くなってきた。
そう思った時だった。


ピリリリリ


「…ね、ねぇ、」
「気のせい気のせい」


ピリリリリ


「や、やっぱりこれさ、」
「聞こえない」


ピリリリリ

「やっぱりちょっと待って!!」


鳴り止まない着信音に、あおいちゃんが俺の身体を押し退けてケータイに手を伸ばした。
…この時に覚悟はした。

ピッ


「も、もしも」
「マァァマァァァァァ!!!!」


…終わった…。
スピーカーにしてるわけでもないあおいちゃんのケータイから、我が子の泣き叫ぶ声が室内に響き渡った…。


「も、もしもし!?お母さん、どうし…はい、…はい、そうなんですね…わかりました、今から行きます」


やっぱりな…。
あおいちゃんは電話相手でもあるお袋に今から向かうと告げる。
…そんな気はしてたんだよ!
あんなバカデカい泣き声聞いて放置できるような子じゃねーし!!
でもな?
今日は俺たちの結婚記念日だから子ども預かるって言ってくれたお袋たちに甘えて、すっっっげぇぇぇぇ久しぶりに2人っきりにってなってたのにそれもこれも紅子のせいで


「そういうことだから、迎えに行こう?」


心の中でぶちぶち愚痴ってた俺にあおいちゃんはサッサと出かける準備を始めた。
…けどまぁ、これは他の誰でもないあおいちゃんと俺の子のためなわけで。
どーーーしても惜しむ気持ちはあるものの、サクッと俺も出かける準備をした。
今日は可愛い孫のためにキッズスペースのあるホテルの一室を予約したお袋。
…なんだけど。


ビーー


ブザー音が鳴った数秒後にドアが開き、


「ほら!ママ来てくれたわよ!」
「マァァマァァァァ!!!」


娘があおいちゃんに向けて突進してきた。
…うっわぁ、顔ぐっちゃぐっちゃで泣いてんだけど、これ何があったんだよ…。


「おや?快斗も来たのか?」


…あおいちゃんがいる未来ルートに入った恩恵とでも言えばいいだろうか。
あおいちゃんが俺の傍にいることともう1つ、予想外の出来事。


「親父!」


親父が生きていたという事実に辿り着くことが出来た。
親父が死んだと思ったあの日、元々あれは親父の計画のうちだったそうだ。
ジイちゃんにすら黙って表の自分の存在を消し、裏で思う存分組織と対峙すること。
それが親父が選んだ未来だった。
でもそれを勘づかれ、罠にハマった親父はジイちゃん以外の第三の協力者の手で瀕死の状態で助け出された。
意識は取り戻しても、脱出の際に負った火傷や怪我でとても表に出れる状態じゃなかった。
そしてそれから丸6年。
そう、本来7回忌をするはずの年に、ある程度復活した親父は再び千影さんの前に現れた。
…親父死んでねーってわかった時点で息子に言えよ、って話だったが、死んだことにしてた方が組織相手には都合が良かったと言われたら、そうか、としか言えなかった。
本来親父は自分でカタをつける予定だったようだが、保険のため用意したあの部屋を見つけた息子が思いの外成長してくれてたため出番もなく、無事俺の前に出てこれたらしい。
俺は俺で、このままコソコソ生きるの辛くね?って思い、降谷さんに親父の戸籍を戻してもらうことで話をつけた(その後からしばらくの間降谷さんの無茶ぶりが酷かったが)
で、無事親子3代、ここでご対面、てわけだ。


「親父がいるのにこんなに泣いてるって何があったんだよ?」
「逆よ、逆!」


俺の言葉に答えたのはお袋。


「最初はすごくご機嫌だったの!それで盗一さんもマジック見せ始めたんだけど、マジック見たらパパ思い出しちゃったみたいで、」
「えっ」
「パパからママに移るのはあっという間だったな」


親父とお袋は苦笑いした後、ため息を吐いた。


「な、なんかすみませんでした」
「ううん、私の方もごめんなさいね。気を利かせたつもりがかえって手間かけさせちゃったわね」
「てゆーかすっげー静かになったんだけど、」
「あ、うん、寝たみたい?」
「早っ!!」


俺の子だけあってあおいちゃん大好きっ子なようで、ママに飛びついたと思った直後寝落ちしたようだ。
しっかりとあおいちゃんの服を握りしめながら…。
…我が娘ながらさすがすぎる。


「せっかくここまで来たんだし、あなたたちで泊まっていきなさいよ」
「え?で、でも、」
「この部屋の子供用ベッドは天蓋付きでお姫様って大喜びしてたぞ」
「私たちからの結婚記念日のお祝いだと思って」
「そんなそんな、悪いですよ」


あおいちゃんは遠慮するけど、キングサイズのホテルのベッドに、泣き疲れて爆睡する娘。


「親父、お袋」


これはもう、ありがたく乗っかるしかない。


「孫2号は任せてくれ!」
「ななななななに言って、」


顔を赤くするあおいちゃんに、楽しみにしてると親父もお袋もそそくさと部屋を出て行った。
…10年前のあおいちゃんは、きっとこんな未来があるなんて、考えられなかったはずだ。
でも俺が必ず、キミのためならどんなことをしてでも、この未来を手繰り寄せてみせる。


「もー、何が孫2号なの」
「まぁまぁ、とりあえずルームサービスで何か食おうぜ?」


10年後も変わらず俺がキミの隣にいるんだと。
例え記憶は消えたとしても、僅かでもその思いだけは残っていてほしい。
そう思いながら、娘を抱く最愛の妻を抱き寄せた。

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bkm

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