キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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奇跡のその先


贔屓のおこぼれ


「つまりね、俺たちの予想だと、あおいちゃんの記憶はみんなから消えたまま、って奴だったの!」


あおいちゃんの3億騒動が落ち着いて、そもそも今どういう状況なのかの説明に入ることにした。
昨日の夜話したことよりももっといろいろ踏み込んで。


「なんで?」
「え?なんで、って、」
「だって私が戻れたんだからみんなの記憶も戻るんじゃないの?」


の、だけど。
オメー何言ってんだ?くらいな顔で俺を見てくるあおいちゃん。
…いや、うん、そー、なのかもしれねぇけどさ?
そーなのかもしれねぇけど、そうじゃねーこともあるんじゃねぇのか、って言葉をグッと飲み込んだ。
たまにすごく思う。
この子みたいに深く考えずに生きてみたい(きっと無理)


「そうだ!お礼だよ!」


さてどうしたものか、と思った時、あおいちゃんが声を上げた。
…お礼?って何?


「言われたんだよね、これはお礼だ、って!目が覚めたらわかる、って!」
「…誰に?」
「んー…、声しか聞こえなかったけど、たぶん最初にここに連れてきてくれた人!そっか、そうなんだよ、お礼だお礼!」
「ちっ、ちょっと待って!」


1人納得するあおいちゃんを静止した。


「なぁに?」
「え!?いや、何、っていうか、…なんでその人があおいちゃんにお礼するの?」


俺の疑問は至極普通なことだと思う。
だってあおいちゃんをこの世界に連れてきた、ってことは、普通の人間じゃない「何か」なわけだろ?
そんな奴がお礼?


「前も言ったけど、その…天使?は、『最期の願いを叶えること』で出世?する仕組みみたいでさ、」
「うん」
「その人が初めて願いを叶えた人間が私だから、『願いを叶えさせてくれたお礼』って言われたの!目が覚めたらわかるよ、って!だからきっと、快斗くんたちが疑問に思ってることが、その人からのお礼だよ!」


グッ!と親指を立てて自信満々に言うあおいちゃん。
…待ってくれ。
あおいちゃんの話を信じるとするなら、ソイツいわゆる天使ってことだろ?
そんな奴が「初めて願いを叶えることができたから」って礼してくんの?
天使が?人間に??
え?もしかしてこの子、天使からも贔屓にされてんの??
さすがにそれはどうなの???


「とりあえず、工藤からの連絡を待とう。あっちではどういう状況になってんのか把握してから米花町に行った方がいい。で、俺たちは俺たちでお袋から聞ける情報聞くけど、あおいちゃんはテキトーに相槌打ってくれるだけでいいから」
「え?でも」
「相槌だけでいいから」
「う、うん…」


…わけわかんねぇ。
元々常識からハズレた、わけわかんねぇことではあったけど、ますますわけわかんねぇ…。
とにかく周りがあおいちゃんをどう認識してんのか早急に確認しねぇとだ…。


「あおいちゃん、美味しい?」
「はい!このうどん、ダシが効いてて美味しいです!これ何使ってるんですか?」
「それはねー」


なんて思いながら、お袋の作った身体に優しいうどんを食べることになった。
その途中で、


「あおいちゃん、それで住む場所はどうなったの?」


不意にお袋が聞いてきた。
テーブルの下であおいちゃんに喋んなくていいって合図を送った。


「それなんだけどさー、千影さん、何か良い案ない?」


さっきお袋は携帯も住む場所も解約した、と言っていた。
だからこそのこの会話になったんだろう。
でもまぁ、こっちから下手に喋り出すよりお袋からの話を聞こうと思い、促すように見遣った。


「良い案、て、あおいちゃんが住む場所の、ってこと?」
「うん」
「そんなのうちに住めばいいじゃない。ねぇ?そう思わない?」
「いやいやいやいやいやいやいや」
「え?嫌なの?」
「えっ!?いっ、嫌って、だってそんな私たちまだ高校生で、」
「高校と言えば確か休学中って話だったわよね?ならいっそそのまま江古田高に転校手続きしたら?」
「大賛成!」


お袋の話をまとめると、あおいちゃんは退院の目処も立たない長期入院だったため、住んでいたマンションを本来の持ち主の親戚に返し、現在は住所不定なようだ(強いて言うなら入院先が住所)
そして高校にも休学届を出して休学中、だと。
…なんて細かいこと今はどーでもいい!
このままうちで暮らせば、またいなくなるんじゃとかの心配も減るし好都合じゃねぇか!


「このまま一緒に暮らそ」
「いっ、いやいやいやいやいや」
「嫌なの?」
「っ、嫌、って、わけじゃ、なくさ、」
「んじゃあ決まりね!」


あおいちゃんは俺を「王子」なんて言うだけあって、俺の押しに弱い。
このままなし崩しに同棲させりゃあいいだけだ。
そんなこと思いながら飯を終わらせた。


「千影さん、頼みがあるんだけど」
「なに?」
「あおいちゃんさぁ、全部処分したから今服とかも持ってなくてさ。でも退院後で連れ回すわけにはいかないし、俺1人で買いに行くわけにはいかないから、母さんの趣味でいいから服や下着買ってきてほしいんだけど」


そう。
お袋にはあおいちゃんは退院直後の住む場所もない子なわけで。


「そうね。いいわ、適当に見繕ってきてあげるから文句言わないでよね」


そう言ってお袋はいそいそと出かける準備を始めた。
…これであおいちゃんの当面の衣食住の心配はねぇな。
そしてそれから2時間後、工藤から連絡が着た。


「じゃあそっちも、」
「あぁ。みんな覚えてたぜ?学校も休学中ってことらしい」


やっぱりお袋が言ってた通り、長期入院による休学ってことになってるようだ。


「これまでのこと覚えてたのはいいとして、でも『長期入院』てどういうことだ?」


工藤は当然の疑問を口にした。
…そうだよな、普通そう思うよな。


「なんかさー、あの子天使?に贔屓されてるみてぇだぞ?」
「はぁ?」


顔を見なくてもわかる。
工藤は今、バカかオメー?って顔をしてるのだろう。
俺も逆の立場だったら、そういう顔すると思う。


「いやだからな?確証はねーんだけど、あおいちゃんが言うには」


そして工藤にもあおいちゃんから聞いたことを伝えた。
そしたらバカでかいため息を吐いた後で、


「ほらな。俺の言った通りじゃねーか『ここ』は俺たちじゃなく、あのバカが主人公の世界なんだよ!」


そう言った。


「今ならそれにすっげー同意出来る」
「だろ?」
「とりあえず明日にでもそっち連れてくわ」
「おー」


ここはきっと、あの子が主人公の世界で。
だからあの子は天使的な何かからも贔屓されてる。
俺もアイツもそのおこぼれをもらってるだけ。
そんなことに思い至って、苦笑いしながら電話を切った。

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bkm

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