キミのおこした奇跡ーAnother Blue


≫Clap ≫Top

奇跡のその先


3億の女


あおいちゃんの名案に乗っかり、疑似2人羽織で自宅に向かうことしばらく。
家に着くのが先か、風邪を引くのが先かっていう寒さの中、なんとか家に着いた。
とにかく直ぐにでも温まりたい俺は、玄関扉に急いだわけだけど。
この時すでに違和感と言う物が存在していて。
バッ!と玄関を開けたら明らかに俺のじゃない靴があったことでリビングに向かった。


「帰ってきてたのか!?」


リビングドアを開けたとほぼ同時にそう叫んだ俺に、


「帰ってきてたのか?じゃないわよ!あなたやらかして警察病院なんかに厄介になったんでしょ!?寺井さんが泣きながら電話してきたんじゃない!」


お袋が呆れたように返事してきた。


「逮捕されたわけじゃないみたいだったけど、こっちからは動きようがないし、どうとでも動けるように戻ってきてたっていうのに、退院しても家に来ないし何やってたのよ!」
「いやー、それにはすげぇ重大な事情があって、」
「あのねぇ、事情があるにせよ、せめて寺井さんにはちゃんと連絡しなさいよ!」


千影さんが盛大にため息を吐いた。
時に、リビングドアが少し開いた音がした。
そちらに目を向けるとあおいちゃんが躊躇いがちにこっちを覗いていて。
あ、これ、ややこしくなる。
そう思った瞬間、


「あおいちゃん!?」
「はいぃ!?」


お袋があおいちゃんの名前を呼んだ。
そう。
「あおいちゃん」と、名前を呼んだ。


「もう良いの!?元気になった!?」
「え?え、えぇー、っと…、も、もうすっかり…?」


俺と名探偵、そして紅子の中では、俺たちは紅子の薬のお陰で記憶を維持できたが、あおいちゃんが戻って来た時、他の奴らの記憶はそのまま消えてるって予想を立てていた。
恐らく戸籍のデータベースもそのまま。
だからあおいちゃんが戻って来てしばらくしたら降谷さんに戸籍を作ってもらえないか交渉するつもりでいた。
その分の労働も覚悟の上で。
でも、お袋のこの口ぶりは…。


「良かったー!快斗と別れちゃったみたいで連絡取るの躊躇ってたんだけど、携帯もお家も解約して入院したって聞いたから心配してたのよ!本当にもう何ともないの?」


…入院?
今、入院て言ったよな?
どういうことだ?
俺たち以外の人間の記憶はどーなってんだ?
これは早急に連絡を取る必要がある。
そう思った俺は、少しの食料とお茶を持って、あおいちゃんを連れ部屋に向かった。


「俺ちょーっと電話するけど、てきとーに座って好きなの食べててくれる?」
「はーい」


あおいちゃんはそう言って持って来たチョコに手を伸ばした。
それを横目に、名探偵に電話をかけた。
一応昨日のうちに、名探偵と紅子には成功、とだけ連絡は入れていたが、あおいちゃんが戻ってきてからの電話は初だ。


「どうした?」
「予想が外れたぞ」
「何?」


俺の言葉に、名探偵が声色を変えた。


「俺たちの予想じゃ、一からまた始まんじゃねぇかってなってただろ?今俺んち来たらたまたま帰ってきてたうちの親と会っちまったんだが、覚えてたぜ、ちゃんと」
「覚えてた、って、あおいのことが記憶にあるってことか!?」
「それどころか入院したとかなんとか言ってやがった」
「入院?」
「だからそっち連れてく前に、そっちの状況確認してくれねぇかな?」
「…そうだな。1度こっちでも確認しておく。それであおいは?オメーの親と一緒なのか?」
「いや、先にオメーと話すためにも一旦俺の部屋に来たけど、オフクロと2人きりには出来ねぇし、今ここにいる」
「そこに?」
「ああ。変わるか?」


そこまで言い、ケータイをあおいちゃんに差し出した。


「え?え、誰?」
「俺の協力者」
「協力者、って、……も、もしもし?」


俺から受け取ったケータイで、恐る恐る話し始めたあおいちゃん。


「新、あ、い、いや、コナン、くん…?」


驚いたように俺の顔を見ながら、あおいちゃんは名探偵の名前を口にした。


「全部知ってた、って……ちっ、違うのっ!!」


突然立ち上がり、大声を出したあおいちゃん。


「そっ、そりゃあ新一くんからしたら怪盗なんて目潰れないようなことかもしれないけど、でもちゃんとそれには言い分があったっていうか好きでなったわけじゃないっていうか快斗くんには快斗くんの事情があったっていうか」
「あおいちゃん、そこら辺は俺もう」


解決済だから、なんて言葉、あおいちゃんには届かなかった。


「ほ、ほら、新一くんは自分から進んで探偵になったかもしれないけど快斗くんもそりゃあ最終的に決めたのは快斗くん自身かもしれないけどそういうことじゃなくてなんていうかやらざるを得なかったっていうかやむにやまれずっていうか、何もいきなり逮捕とかそんなことしないよね!?しないでしょ!?いっくら新一くんが真実を大事にしてるからってその真実は新一くんから見たら1つかもしれないけど私から見たら快斗くんの真実と新一くんの真実の2つあるわけでそんな一方的に意見も聞かないとかさすがにそんなこと、だっ、だいたいさぁ、証拠!ないんじゃない!?状況証拠なだけでしょ!?それか新一くんが推理しただけで証拠なんてな」
「うるせぇっ!!いい加減黙れこのバカ女っ!!」


あおいちゃんのこの暴走も、久しぶりだなぁ、なんて聞いてたら、名探偵がバカでかい声で怒鳴り散らした。


「いいか?オメーの頭でもわかるように説明してやる。そこにいるソイツはもうとっくに司法取引してて罪を帳消しにされてんだよ!今さら俺がどーこうすることはねぇし、他の奴らももうソイツには手出せねぇんだよ!!」


しかも声筒抜けなんだけど…。
まぁ別に今さら聞かれて困るようなもんでもねーし、いいけどもうちょっと声量どうにかしろって…。
そう思った時だった。


「そ、それなんだけどさぁ、新一くんが、泥棒の手伝いした、ってこと?」


言うに事欠いて、天下の名探偵、日本警察の救世主殿に向かってあおいちゃんはキッドの片棒担いだのか聞いた(しかも本人に!)
これが噴き出さずにいれるわけがない!


「こんの、バカ女ぁぁぁ!!!いいか!?耳の穴かっぽじって良く聞けっ!!オメーのために使ったパンドラは次郎吉じーさんの頼み聞いやった礼にって、じーさんがわざわざ3億出して競り落とした奴なんだよっ!!盗んだんじゃねぇ正当に貰った奴だっ!!!ただその時に注目浴びちまったから、俺はパンドラ狙う奴らをまとめて始末するためにソイツのショーにつきあっただけっ!!!わかったかっ!?」
「あはは!」


今ならわかる。
過去、工藤があおいちゃんにどんな感情を抱いていたとしても、この2人のこの関係がどーにかなるわけがねぇ!
なんて思いつつも、あれ?アイツ今3億の話しなかったか?って思った。


「おい、ちゃんと聞いてんのか!?」
「う、うん!次郎吉さんが私のために3億も出してくれたってわかった!」
「あおいちゃん、そこじゃない」


あ、やっぱり…って。
間違いじゃねーんだけど、この子の中で、次郎吉じーさんが「あおいちゃんのために」3億出したことになっちまった…。


「え?な、なに?」


あおいちゃんからケータイを返してもらい、


「もしもし?」
「俺たち早まったんじゃねーのか?」
「ははっ…」


もう1度名探偵と話をした。


「とりあえずこっちはこっちで聞き出せること聞き出すから、」
「おー。俺もこっちの奴らがどう認識してんのか確認してみるわ」
「任せるぜ」
「おー、後でな」


ピッ、と電話を終わらせた俺に、


「しっ、新一くんと、仲良くなったの…?」


あおいちゃんは伺うように聞いてきた。


「てゆーかさぁ…、俺頑張ったんだけどなぁ?」
「え?え?」
「まさか1番の功労者、次郎吉じーさんだとか思ってないよね?」
「えっ!?そ、そんなこと思ってないよ!ただでもそんな私に3億ってだって3億だよ見たことある!?」
「その3億の石が昨日見せた黒曜石だ、って!」
「あれどこ!?私貰えるの!?3億!?!?」
「とりあえず3億から離れよっか?」


久しぶりに俺の部屋で抱きしめるあおいちゃんは、以前と変わらない優しい匂いがした。

.

prev next


bkm

×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -