キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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奇跡のその先


協力者


私にはベルツリー号のスカイデッキから、昨日の屋上までの時間は本当にほんの数分くらいな感覚だった。
でもきっと、快斗くんには全く違っていて…。
数字で言うなら2ヶ月とちょっと。
でももしかしたら感覚としてはもっと長い時間を、私のために頑張ってくれていたのかも、って。
例え少しの時間だとしても、私と離れることにすごく敏感に反応する快斗くんを見て、そう思った。


「あおいちゃん、大丈夫?寒くない?」


バイクで走り出してちょっとしてから快斗くんが聞いてきた(たぶん信号で止まったから)
ぶっちゃけコートの中に潜り込んでも、快斗くんのお腹の方に回してる腕にモロ1月の風が当たって寒いって言うか痛いんだけど!だから私部屋で待ってるって言ったじゃん!
…って、言いたいところだけど、寒がりな快斗くんもブルッと身体を震わせたのがわかったから親指をグッと立てて答えた。
快斗くんがちょっと笑って、ここ抑えてて、って、コートの端っこを持たせて腕があんまり出ないようにしてくれた。


「とーちゃーく!」
「………ぷはっ!」


それから無言で走り続けてしばらく。
快斗くんの声が響いたから、潜り込んでいたコートの中から顔を出した。
開けた視界に写ったのは、かつて来ていた快斗くんのお家。
なんだか久しぶりだなぁ、なんて思っていたら、とにかく寒いから1度家の中入ろうと促された。


「…あ、れ?もしかして、」


呟くように快斗くんが言った直後、バッ!と玄関扉を開けバタバタと中に入っていった。


「帰ってきてたのか!?」


リビングに行った快斗くんの声が響いた。
…私、中に入っていいかな…寒いし…帰ってきてたのか、って快斗くんのお母さんのことだよね?
…なら知らないわけでもないからいいかな…。
そう思ってリビングをこっそり覗いた。


「あら?」


スッと音もなく顔を出したつもりだったけど、覗いた瞬間にお母さんと目が合った。


「あ、あー…、これは、」
「あおいちゃん!?」
「はいぃ!?」


快斗くんが何かを言いかけた瞬間、お母さんに勢いよく名前を呼ぼれた。


「もう良いの!?元気になった!?」
「え?え、えぇー、っと…、も、もうすっかり…?」


お母さんが言う、もう良いの、ってのは快斗くんとの仲のこと、かな?
…でも元気になった…とは…?
なんて思いつつも軽く返事をした。


「良かったー!快斗と別れちゃったみたいで連絡取るの躊躇ってたんだけど、携帯もお家も解約して入院したって聞いたから心配してたのよ!本当にもう何ともないの?」


私は自分でも頭がちょっとアレだって思ってるけど、今のお母さんの言葉で理解できたのは「快斗くんと別れたから連絡取ろうか迷ってた」ってのと「もう何ともないのか?」ってところ。
途中ちょっと意味ふぅなこと言ってる気がしたけど、


「何ともないです!」


とりあえずわかるところだけ返事した。
て、ところで、


「あー、ほら、とりあえずあおいちゃん部屋に連れてくから!てきとーに食いもん持ってくぜ?」
「は?ちょっと快斗!退院したばかりの子にそんなお菓子なんて食べさせたら、」
「あ!じゃあ千影さん何か作ってよ。あおいちゃん腹減って死にそうだって言うからとりあえず部屋行って食べれそうな奴で小腹満たしてるから」
「そ、そうね…。あおいちゃん何か食べたい物ある?」
「お母さんの料理なら何でも食べたいです!」
「あらぁ。じゃあ消化に良さそうな物作るわね」
「んじゃあ、俺たち部屋行ってっから」


そう言って快斗くんからお菓子の袋を手渡された私は、片手にカップ、片手にお茶のボトルを持った快斗くんに目で合図され、快斗くんの部屋に向かった。
もう何度も来たことある(なんなら泊まったこともある)快斗くんの部屋は、すごく久しぶりな気がした(たぶん気のせいじゃない)


「俺ちょーっと電話するけど、てきとーに座って好きなの食べててくれる?」


快斗くんにそう言われて、頷いて答えた。
お母さんが何やら作ってくれる雰囲気だったから、あんまり食べない方が良さそうだ。
だからちょっとだけ、と、快斗くんに渡されたチョコのお菓子を一つ口に入れた時だった。


「予想が外れたぞ」


快斗くんは私の目の前で誰かに電話した。


「俺たちの予想じゃ、一からまた始まんじゃねぇかってなってただろ?今俺んち来たらたまたま帰ってきてたうちの親と会っちまったんだが、覚えてたぜ、ちゃんと」


会話の内容からそれはさっきのお母さんのことで。


「それどころか入院したとかなんとか言ってやがった。だからそっち連れてく前に、そっちの状況確認してくれねぇかな?…いや、先にオメーと話すためにも一旦俺の部屋に来たけど、オフクロと2人きりには出来ねぇし、今ここにいる…ああ。変わるか?」


快斗くんはそこまで言うと、ケータイを私に差し出してきた。


「え?え、誰?」
「俺の協力者」
「協力者、って、」
「…」


何にも言わない快斗くんからケータイを受け取り、


「も、もしもし?」


誰かわからないまま話しかけた。


「…あおい?」


その声を、間違えるはずなかった。
私がこの世界に初めて来た時、最初に聞いた人の声。


「新、あ、い、いや、コナン、くん…?」


この世界での、私の家族。


「…やっぱり、」
「え?」
「本当にオメーは、最初から全部知ってたんだな」


きっと新一くんは、困ったように、呆れたように笑ってる。
電話越しで表情はわからないはずなのに、なぜかそう思った。


「全部知ってた、って…」


快斗くんはさっき「協力者」って言った。
協力者ってのは昨日聞いた言葉で。
それは私を呼び出すにはパンドラが必要で、パンドラを探し出すために手を貸してくれた人のこと。
…「パンドラを探し出すために手を貸してくれた」!?


「ちっ、違うのっ!!」


何それもしかして新一くんにキッドのことほんとのほんとにバレたってこと!?


「そっ、そりゃあ新一くんからしたら怪盗なんて目潰れないようなことかもしれないけど、」
「え?いや、俺は、」
「でもちゃんとそれには言い分があったっていうか好きでなったわけじゃないっていうか快斗くんには快斗くんの事情があったっていうか」
「あおいちゃん、そこら辺は俺もう」
「ほ、ほら、新一くんは自分から進んで探偵になったかもしれないけど快斗くんもそりゃあ最終的に決めたのは快斗くん自身かもしれないけどそういうことじゃなくてなんていうかやらざるを得なかったっていうかやむにやまれずっていうか」
「…おい」
「何もいきなり逮捕とかそんなことしないよね!?しないでしょ!?いっくら新一くんが真実を大事にしてるからってその真実は新一くんから見たら1つかもしれないけど私から見たら快斗くんの真実と新一くんの真実の2つあるわけでそんな一方的に意見も聞かないとかさすがにそんなこと」
「おい、あおい」
「だっ、だいたいさぁ、証拠!ないんじゃない!?状況証拠なだけでしょ!?それか新一くんが推理しただけで証拠なんてな」
「うるせぇっ!!いい加減黙れこのバカ女っ!!」


キーン…と、新一くんの、今はコナンくんの声が耳に響いた気がした(これも気のせいじゃない)


「いいか?オメーの頭でもわかるように説明してやる。そこにいるソイツはもうとっくに司法取引してて罪を帳消しにされてんだよ!今さら俺がどーこうすることはねぇし、他の奴らももうソイツには手出せねぇんだよ!!」
「そ、そう、なの…?」
「そーなんだよっ!…オメーのためにそれこそ命賭けてパンドラ使ってやったんだから、ちったぁ俺たちに感謝して、」
「そ、それなんだけどさぁ、」
「あ?」
「新一くんが、泥棒の手伝いした、ってこと?」


私の言葉に、私たちの様子を見守っていた快斗くんが噴き出した。


「…んの、」
「え?」
「こんの、バカ女ぁぁぁ!!!いいか!?耳の穴かっぽじって良く聞けっ!!オメーのために使ったパンドラは次郎吉じーさんの頼み聞いてやった礼にって、じーさんがわざわざ3億出して競り落とした奴なんだよっ!!盗んだんじゃねぇ正当に貰った奴だっ!!!ただその時に注目浴びちまったから、俺はパンドラ狙う奴らをまとめて始末するためにソイツのショーにつきあっただけっ!!!わかったかっ!?」


快斗くんのケータイ割れるんじゃない?って声量で、コナンくんが怒鳴り散らしてくた…。


「おい、ちゃんと聞いてんのか!?」
「う、うん!次郎吉さんが私のために3億も出してくれたってわかった!」
「あおいちゃん、そこじゃない」


快斗くんはぱちん、と額に手を当ててため息を吐いた。


「馬鹿は死んでも治らねぇって本当なんだな…」


電話越しの新一くんも、きっと同じような顔をしてる。
そんな声が部屋に響いた。

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bkm

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