キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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奇跡のその先


全ては夢物語


目の前に現れたあおいちゃんは、ベルツリー号で最後に見た時と同じ服を着ていて。
あの日は10月でも温かく、現在1月の冬真っ只中なこの気温には誰が見ても寒そうで。
ならこのビルの一室、キッドのセーフハウスとして使ってた部屋に行こうと2人で足早に向かった。


「どーぞ」
「お、おじゃましまーす…」


室内の灯りや暖房をつけて顔を向けると、


「ち、ちょっと殺風景?だね」


キョロキョロと辺りを見回してるあおいちゃんがいて。
…あぁ、あおいちゃんだ。
本当に…、本当にあおいちゃんだ。


「わっ!?」
「……ごめん、ちょっとこのままでいてい?」


あおいちゃんを抱きしめながら、倒れ込むようにベッドに2人、横になった。
この感触も、匂いも、あの日と何も変わらない、全てあおいちゃんだ。


「い、今、って、」
「うん?」
「ほんとに1月なの?」
「うん。ベルツリー号に乗ってからもうすぐ3ヶ月になる、ってとこ」
「そっか。…快斗くん、ありがとう」


寒空の下、屋上にいたからかどこか冷気を帯びているような身体を抱きしめた。
その体制のまま、ぽつりぽつりと、この3ヶ月のことを話した。
…ここがあの日見たあおいちゃんが存在する唯一の未来だと言うなら、あおいちゃんも知っておく必要があるから、こんな感じではなくちゃんと話さないといけない。
未来のあおいちゃんが、10年前の俺にどうやって呼び戻せたのかヒントを与えるためにも。
だからそれはそれでまたきちんと話すだろうけど、きっとこの子も気になっているだろうと、簡単に話しをした。


「大丈夫?眠い?」


腹を撃たれて倒れたあの日からそのまま4日間寝込んではいたけど。
けどそれ以外は眠れて2〜3時間。
寝なかったわけじゃなく、長い時間眠っていられなくなっていた。
原因は明白。


「ずっといてくれる?」


頬を触りながらそう言った俺に、


「『ここ』に?いるよ、ずっと。だから寝ていいよ」


この子が決して今まで、言うことのなかった言葉。
「ずっとここにいる」と。
あおいちゃんはそう言った。


「寝るの下手になっちまったみたいなんだ…」
「…そっか。じゃあ快斗くんが眠るまで、こうしてるよ」


そう言って俺の頭を撫でる手があの頃と同じように優しくて。
すっかり安心しきって眠りに落ちた。


「…っ、」


ものだから、物音がしたような気がして目が覚めた瞬間、ここがどこで何をしていたのかの状況把握が遅れた。
…そうだ、昨日やっと、パンドラを使ってあおいちゃんを


「っ!?」


そこまで思った時、隣で寝てたはずのあおいちゃんに目を向けると、そこはまさに「もぬけの殻」で。


「…は?え?なん、で…」


口を吐いて出たのはそんな間抜けな言葉。
…昨夜、確かにここに連れてきた。
抱きしめて、確かめた。


「…ふ、ざけんじゃねーよ…!」


まさかアレが全部、夢だと言うのか?
それこそ、パンドラが見せた幻だとでも?
慌てて起き上がってイスの背にかけられていたコートのポケットを探す。
そこには間違いなくあの黒曜石が入っていた。
…あれが夢?
だってオメー、紅子の話を信じるのであれば、昨日はパンドラの力を借りれるラストチャンスになり得る満月だったんだぜ?
それが夢でしたなんてじゃあ俺はどうやって


カチャ


目まぐるしく頭の中を駆け巡る思いに押し潰されそうになった時、ユニットバスのドアが開いた音がした。


「あ!おはよう、よく寝れうおっ!?」


脳があおいちゃんの姿を認識したと同時に抱きしめていた。
…大丈夫だ。
抱きしめられる。
ちゃんと、今ここに、存在している。
そう思ったら、知らず知らずに腕の力が強くなった気がした。


「あ、あの、さ、」


しばらくそのままでいたら、腕の中のあおいちゃんが躊躇いがちに口を開いた。
少し腕を緩めてあおいちゃんの顔を見ると、


「シャワー、借りようかと思ったんだけど、着替えがなくてさ…。それに着替えよりも…ち、ちょっとなんだけど、ちょっと、お、お腹空いたかなぁみたいな感じもしなくもなく?」


言うだけ言って、恥ずかしそうに顔を赤くして、下唇を噛んでいた。
…あぁ、本当にあおいちゃんはここにいる。


「じゃあさー、ここ何もねぇから、とりあえず俺んち行ってコート着てから買い出し行こうぜ?」
「う、うん!」


同意したあおいちゃんに昨日俺が着ていたコートを着せた。


「え!?快斗くん着るのなくない!?」
「ダイジョーブ!ここからバイクで飛ばせば10分くらいだから!」
「だっ、だめだよっ!風邪引くって!」
「ヘーキヘーキ」
「わ、私ここで待ってるから」
「駄目っ!」
「えっ?」


普通に考えれば、俺が1人でバイク飛ばして自宅からコート持ってここに戻ればいい話なんだろう。
…けど本当に「今」離れて大丈夫とは限らない。


「とにかく俺はダイジョーブだから行こうぜ」
「あ、ちょっ、」


駐輪場に止めてあるバイクのところまで行くと、


「やっ、やっぱり快斗くんが着て!」


あおいちゃんが徐にコートを脱いで俺に渡して来た。


「だから俺は」
「名案思いついたからっ!!」


えっ?と思ったけど、とりあえずその名案に乗っかってみるかとコートを着てバイクに跨った。
のは、いいけど…。


「さすがにそれ、息苦しくねぇか?」
「大丈夫ー!10分くらいなら余裕だよ!」


くぐもった声であおいちゃんは答える。
あおいちゃんの名案、それは俺にコートを着せ(前は閉めない)自分は後部シートに座り、コートと俺の身体の間に潜り込み後ろから抱きつく、ってことだった。
なんか…、うん。
あおいちゃん還ってきた感ようやく出てきた気する…。


「じゃあ動かすぜ?」
「はーい!」


コートに潜り込み、俺の背中にべったりとくっついてるあおいちゃんの体温を感じながら、自宅へと急いだ。

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bkm

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