■あなたがくれた奇跡
死んだ後は、天国とか地獄とかあるのかと思っていた。
でもそういうことじゃなくて、死んだら人はまるで空気のように漂う存在になる。
自分の身体の境界線がなくなって、ただふよふよと漂っている。
それがいつまで続くのか?とか。
そんなことも考えるようなこともなく、痛みも辛さもなく、ただ空を漂っていた。
ーあおいー
そんな時、いつかどこがで聞いたような声を聞いた。
ーキミが本当に望んだ願いを叶えられなかったボクに、それでもその結果を受け入れてくれた人の子ー
どこか懐かしいような、不思議な声。
ーボクが初めて、願いを叶えた人間ー
その人の声が聞こえてから、少しずつ、自分の感覚が戻ってきているのがわかった。
ー目覚めればわかる。これは初めてボクに、願いを叶えさせてくれたお礼だー
少しずつ、少しずつ。
ーさぁ、あおい。彼が待っているー
自分の手が、足が、戻ってくるような、そんな感覚。
ー今度こそ、キミの本当の願いが叶うようにボクも祈ってるよー
バツン、という音が聞こえたような気がした。
…………
………
……
…
「っ、」
ゆっくりと目を開けると、私は横たわってるような形で快斗くんに支えられていた。
「泣い、てる、の…?」
私の言葉に快斗くんはハッとしたかのように、腕で目元を拭った。
そして唐突に快斗くんは立ち上がった。
えっ、と思った私の前に少し身体を屈ませ、
「『大丈夫?立てる?』」
右手を差し出してきた。
それを見て、あっ、と思った。
「『ありがとうございます』」
そう言って、快斗くんの手を取ると、グイッと引っ張られて立ち上がることができた。
快斗くんが言わんとすることを理解した私に、快斗くんも気づいたようで、私から手を離した。
そして、
「『俺、黒羽快斗ってんだ。よろしくな』」
目の前で優しく笑う快斗くんは、右手からお花を出してきた。
片手でその手首を掴んで、片手でお花を受け取りながら、
「『芳賀あおいです』!」
そう言った。
快斗くんは手首を掴んでいた私の手をしっかりと握り締めて、
「『快斗って、そう呼んで』」
優しく笑う。
私の大好きな、あの笑顔で。
「かい……、かい、と」
そう言った私を少し驚いた顔で見た後で、ちょっと照れくさそうに、へへっ、と言いながら人差し指で鼻の下を擦るような仕草をした。
「もう1度、初めからやり直そうぜ」
そう言うと、快斗くんはひどく真剣な顔で私を見てきた。
「あおいちゃんのこと、好きだよ。この地球上の誰よりも。…だから俺の彼女になってください」
「…っ、よ、よろしくお願いしますっ!」
そう言った私を見た直後、ぽろり、と、快斗くんの瞳から涙が溢れた。
「っ、ごめっ、」
快斗くんは慌てて目元を隠す。
「ホッとした、っつーか、気抜けちまって、止まんねぇ…」
私と手を繋いでいない方の手で、目元を隠しているけど、その隙間からは、ぽろぽろと涙が溢れている。
「ハッ!かっこ悪ぃよな、ごめん…」
消えそうな声で快斗くんが言うから、顔を隠してる快斗くんの手を退けて、快斗くんの顔を見た。
快斗くんの星空色の瞳から、綺麗な綺麗な涙が流れている。
「ほら、やっぱり!快斗くんにカッコ悪いところなんてないよ」
「っ、」
「不可能を可能にして、私の人生で1番の奇跡を起こしてくれた。快斗くんはずっと、私のたった1人の王子様だよ」
「あおいちゃん…」
快斗くんはもう1度腕で涙を拭う。
「ただいま!私の王子様」
そして魔法のような奇跡をおこして私を呼び戻してくれた王子様は、優しく柔らかく笑いながら、
「おかえり、俺のお姫様」
私を抱き締めた。
.
bkm