キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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キミのおこした奇跡


司法取引


「…っ、」


やけに重く感じる身体の中、なんとか目を開けると、


「目が覚めたかな?黒羽快斗くん」


病院独特の臭いの部屋で寝かされていた。
声の方に目をやると、


「あー…っと、安室さん?それとも降谷さん?」


いつぞやのバーボンが立っていた。


「コナンくんから聞いてるんだね。はじめまして、ではないけど、降谷零です」


ニッコリ、と笑うソイツは、バーボンの時の顔でも、ましてコイツの記憶にはないであろう、みんなで行った夏祭りの時に見た顔でもない顔で笑っていた。


「ここは警察病院だ」


身体が重くて思うように力が入らない俺に、まず現状把握をしてくれと、降谷さんがベッドの横の椅子に座りながら一方的に話し始めた。
…病院は病院でも、警察病院とか、俺捕まっちまったのかって、そう思った時だった。


「君は僕たち公安警察が注視していた組織の抗争に巻き込まれ、銃弾を受けてしまった一般人」
「!?」
「と、いうことになっている」


そう言った降谷さんの顔を驚いて見ると、降谷さんは横になる俺をひどく真剣な顔で見ていた。


「公安のあんたが国を裏切るとでも?」
「僕たちの使命は『この国を守ること』だ。君は何かこの国の脅威になるような存在だったのか?」
「お、れは…」
「コナンくんに呼ばれて駆けつけた先には、怪盗のような格好をしたまま倒れていた1人の高校生がいただけだ」


ちなみに君が着ていた服は勝手ながら処分させてもらった、と、降谷さんは言う。


「っ、てぇ…」
「おい!まだ起き上がらない方が、」


軋む身体に鞭打って起き上がれば、点滴やら何やらが身体中に着いていた。


「あんたそれでいいの?国際指名手配犯だぜ?十分日本の脅威だろ」


腹部には大分仰々しく包帯が巻かれているし、本当に完璧に治療されたんだろう。


「君もコナンくんを知ってるんだろう?」


降谷さんは飽きれたような顔で俺を見てきた。


「彼に言われたんだ。『僕の家族の大切な人だから、今は何も聞かずに助けてあげて』ってね」
「…アイツが…」
「君の処置が全て終わった後で、君には悪いが事情を聞かせてもらったよ。君のお父さんが、組織の手に堕ちることを命を賭けて阻止しようとしていたパンドラのことを」
「口軽ぃ奴だな」
「苦渋の選択と言ったところさ。君の正当性を説いてきた。頭の良い子だよ」


そこまで言って、降谷さんは大きく1つ、ため息を吐いた。


「君の正当性は理解は出来る。だが、君も言った通り、国際指名手配犯だ」
「ソーデスネ」
「だから僕と司法取引するのはどうだい?」
「…………えっ?」


降谷さんは、ニヤリと笑って俺を見た。


「君が公安の…いや、『僕の』協力者になってくれることを条件に、君の罪は全て不問にしよう」
「…あんた正気か?」
「もちろん。君のような優秀な、そして裏切る心配のない協力者は喉から手が出るほどほしいからね」
「……………それ断ったら、」
「もちろん、この場に捜査二課の人間を呼ぶだけだ。日本では未成年の君も、その罪状だと、終身刑の国もあるかもしれないな」


ニッコリと笑いながら言う降谷さん。


「あんたも大概どーかしてる」
「彼が言っていただろう?」
「え?」
「君は彼の家族の大切な人だから助けたいと。…それと同時に君は、僕の大切な人の大切なお嬢さんを、守ってくれた恩人だ。微力ながら力になりたいと思うのは嘘ではないよ」


それはきっと、哀ちゃんのことで。
…夏祭りの時に、園子ちゃんが蘭ちゃんにと用意したのがなんでこの人だったのか考えたこともなかったが(顔で選んだだけだと思ったし)あの女やっぱり男見る目だけはあるようだ。


「世の中どー転がるかわかんねーもんだな」
「捨てたものじゃないだろう?それでどうするんだい?」
「拒否権ねーんじゃ、頷くしかねぇだろ」
「それは良かった。よろしく頼むよ、黒羽快斗くん」


そう言って握手を求めてきた降谷さんの手のひらに、パチン、と、手のひらを当てた。


「それより組織とパンドラは、」
「あぁ、組織は無事壊滅。今は数名の残党処理というところかな?でも逃げた奴らは大して脅威にならないから安心してほしい。パンドラはあの爆発で粉々に砕けたとコナンくんが言っていたよ」
「…え?」


最後の言葉に、声が裏返ってしまった。


「コナンくんから渡された、欠片は間違いなく黒曜石の物だったし、もうパンドラもこの世に存在していないよ」
「…アイツは?」
「うん?」
「コナンはどこに?」
「君が目を覚ましたら連絡することになっていたから、明日にはここに来ると思うよ」


今すぐ呼んでくれ。
そう思ったが、でも降谷さんの中では組織のこと、パンドラのこと、全て片づいたことになってる今、それを蒸し返すように事を荒立てるような迂闊なことは言えない。
逸る気持ちを抑え、名探偵が来ると言われた翌日を待った。

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bkm

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