■組織壊滅
「キッド!逃さんぞ!!」
肩透かしなレベルでまんまと黒曜石を手にした俺(当然だけど)
その俺を追っかけてきたのは中森警部。
「あなたとの追いかけっ子はなかなか楽しかったですよ」
「…貴様、まさか本当に引退するのか!?」
俺の言葉に動揺が隠せない中森警部。
「勝ち逃げするようで申し訳ありません。ですがこれで、私のショーは幕を下ろします」
「お、おい、待てっ」
「ごきげんよう、中森警部!」
そう言ってハンググライダーで現場から飛び立った俺に、
「名演技、名演技」
小馬鹿にしたような批評をしてくる、インカムからの声。
「おい、これ予定通り飛んでていいんだろうな?」
「大丈夫!そのまま予定してた汐留のビルまで行ってくれ。そこに公安と、FBI切っての凄腕スナイパーが先回りしてっから!」
「…ほんとに捕まんねーだろうな」
「そこはオメーの運次第だな」
軽く言いやがって、なんて思った時だった。
ハンググライダーの翼を撃ち抜かれ、地面に急降下。
始まった、と思うよりも早く、次の射撃が来た。
「クソッ!」
翼をしまって急遽地上に飛び降りたため、予定していた場所よりだいぶ手前で降りちまった。
「どっから狙われたかわかるか?」
「たぶん8時の方向だな。そっちから弾が飛んできた」
「8時だな?ちょっと待ってろ」
そう言って名探偵は俺と通信を続けたまま、
「赤井さん!スナイパーは2時の方向だ!」
誰かに指示を出した。
「オメーはそのまま予定地点を目指してくれ」
インカムで俺に指示飛ばし、
「安室さん!予定変更、敵が予想よりも早く動いたよ!」
再び誰かに指示を出した。
…やっぱラスボスはコイツだと思う。
そんなことを思った瞬間だった。
数発の銃声が辺りに響いた。
「おいおいおい、イヤホンからも銃声聞こえたぞ!?」
「だろうな」
「だろうな、ってオメーまさかこっち来てんのかよ!?」
「俺だけ安全なところにいれるわけねーだろ」
馬鹿じゃねーの?
オメーにそこまでしてもらう義理は、なんて思っても、コイツは俺のためじゃない。
コイツの行動原理もあおいちゃんだ。
あの子のために、コイツもここまでしている。
「言っとくけど、礼は言わねーからな?」
「期待してねーよ!それよりオメーのその場所から、」
公安の連中と凄腕スナイパーは姿を隠しているらしいから、俺ら2人は言わば囮だ。
俺らのところに集めて一気に叩き潰す作戦。
だから何よりこの銃撃戦を抜け出して、名探偵と合流を目指した。
「こっちだ!」
当初指示されていた場所と離れたが、名探偵と合流できた。
あとは公安に任せてここから逃げ切るだけ。
それはあってはならないこと。
でも一瞬。
ほんの一瞬、この緊迫する状況の中、コイツの顔を見たことで「なんとかなる」と思ってしまった。
その気の緩みを突かれたと、後にして思う。
「後ろだっ!」
「っ!?」
すぐ近くまで来ていた敵の気配に気づくのが遅れた。
一発、腹に喰らって動きが鈍る。
それまで以上に銃声が耳を引き裂くように響き渡った。
ほんの一瞬、音が止んだことで敵の位置を確認しようとした時、
「危ねぇっ!!」
爆弾が爆発、近くにいた名探偵諸共、今まさに巻き込まれんとしているのがわかった。
なんで助けたのか?なんて聞かれたら、きっとこう答えるだろう。
人が人を助けることに、まして大切な人の大切な家族を助けることに理由なんかねーってな。
「キッド!おいっ!!しっかりしろっ!!」
咄嗟に名探偵を突き飛ばして身代わりになった俺。
弾喰らった腹も、もろに爆風浴びた背中も、身体のあちこちが痛ぇ。
頭から頬にかけて血が垂れてんのが、見なくてもわかる。
「おいっ!今人を、」
「名探偵、」
「っ!?」
言葉の途中で、名探偵の腹に拳を突き立てた。
黒曜石が握られている拳を。
「これがパンドラだ。オメーがこれを持って行け」
「馬鹿言うな!いいか?今から人を呼んで」
「聞けっ!」
「っ、」
「…もし、ここで俺に何かあったら、江古田高の小泉紅子のところに行け。ソイツがパンドラについて協力してくれるはずだ」
「おいっ!オメーこんなところで死ぬなんて許さねぇからなっ!?」
「バーロー。この姿で死んだら、怪盗キッドの正体がバレちまうじゃねぇか」
「軽口叩けんなら、ここを抑えてろ!」
「なぁ、名探偵」
「なんだ!?」
「…あおいちゃんのこと、頼んだぜ」
「おいっ!!キッ、…黒羽っ!!しっかりしろっ!!」
悲鳴に近い名探偵の声をバックに意識を手放した俺が、次に目を覚ましたのは4日後の暮れも差し迫った頃だった。
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bkm