キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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キミのおこした奇跡


フィナーレ


「今テレビ見れっか?」


鉄狸の腹の中から無事ルパンを救出した翌々日、朝っぱらから名探偵から電話が着た。


「俺寝起きぃ…」
「テレビつけろ。日売テレビ」
「日売ぃ?ふぁーあ…」


なんなんだよ、こんな朝っぱらから、って思いつつ、リビングに向かいテレビをつけ日売テレビを写し出した。


「というわけで、今回鈴木財閥相談役の鈴木次郎吉氏が3億という、莫大な金額で購入した世界最古の黒曜石なんですが、」
「……さっ、さんおくっ!?!?」
「目、覚めたか?」


朝の情報番組は、エラい良い笑顔の次郎吉じーさんを映しながら報道していた。


「おいっ!どーなってんだよ!?」
「まぁ聞いてろよ」


名探偵の声にテレビを見たら、


「氏曰く、『これは怪盗キッドを釣るためのものではなく、家族を救ってくれた青年に対する誠意の品。彼の行動はこの額に値するもの。これは直接彼に渡す物故、展示の予定も一切ない』とのことで、」


キャスターがそう言っていた。


「いやいやいやいや、いくらなんでもあのじーさんケタ1つ2つ間違えてつけたんだろ?」
「俺もそう思う」


黒曜石は他のビッグジュエルと比べ、高値ではない。
一般的には提案されたクルーザーやプライベートジェット、ましてや鈴木財閥の株の方が遥かに価値のあるものだろう。
…たった今の、今までは…。


「あおいちゃんのために3億…」
「オメー、絶対成功させろよ?」
「そのつもりだけどさぁ、あおいちゃんがこれ聞いたら、次郎吉じーさんが1番頑張ったとか思わねーか?」
「諦めろ」
「え?」
「アイツはそういう女だ」


ヘッ、と名探偵が鼻で笑う声が聞こえた。
…俺結構頑張ってると思うのに、1番の成果は次郎吉じーさんに持ってかれるかもとか、絶対ぇ黙ってよう。
そうこうしてるうちに12月の頭。
次郎吉じーさんが買った3億の黒曜石は厳重な警備の元、日本国内に運びこまれる。
…はずだった。


「襲撃にあった?」


突然江古田にやってきた名探偵から、まぁ、そうだろうと言う報告を受けた。
出来れば極秘裏に国内に入れたかったけど、あれだけ盛大に報道されちまったんだ。
狙う奴がいても何も不思議じゃない。
ないんだが、ここに来てもたつくわけにはいかない。


「オメーに提案がある」


名探偵がめっずらしく、躊躇いがちにそう言ってきた。


「予告状、出さねーか?」
「黒曜石にか?」
「あぁ。オメーが動けば、パンドラ狙う組織も必ず動くだろう?」
「まぁそうだろうな。元々、候補の1つだったくらいだし」
「て、ことは、だ」
「うん?」
「公安に動いてもらおうぜ」


公安がマークしてる組織だし、と名探偵が言う。


「待って、それ俺めちゃくちゃ危なくねーか?」
「まーそこは頑張ってもらってさ」
「他人事すぎじゃね?」
「オメーの言い方だと、」
「あ?」
「黒曜石がパンドラなら、怪盗キッドはもう、この世からいなくなるんだろ?」


唐突に、やけに神妙な面持ちで名探偵が言ってきた。


「なら、キッドを狙う奴らもまとめて退場してもらえよ」


あぁ、そうか、ということを名探偵は言った。
それは俺の心配というより、黒曜石がパンドラであるなら、それの使い方によっては間違いなく次に狙われるのはあおいちゃん自身になる。
あおいちゃんが戻って来る前に確実にそういう芽を潰せ、ってことだ。


「ほんとに使えんのか?公安」
「心配なら警視庁とFBIも呼んでやるぜ?」
「わーい、オールキャストだぁ」


すっげー恐ろしいことを抜かす名探偵に、顔が引き攣った気がした。
そこからは、本当にあっと言う間だった。
まず次郎吉じーさん宛の手紙を出した。
そこには次郎吉じーさんの好意で黒曜石はキッドの物であるが、狙われてる以上今まで通り「盗む」ことで自分の物にすると書き記した(ちなみに返事は名探偵に渡してくれれば取りに行くと書いた)
つまり犯行予告する前の、予告状を出す予告ってことだ(所有権は俺にあるんだけどな)
あの目立ちたがりなじーさんはこっちの提案に華麗に乗ってきてくれたわけだけど。


さぁ、ショーのフィナーレです。
聖なる夜に
鈴木次郎吉氏所有の
世界最古の黒曜石を頂きに参上します。
怪盗キッド


俺が出した予告状は大々的に新聞の一面を飾った。
「怪盗キッド」が出した「フィナーレ」宣言に、各マスコミは飛びついた。
それはつまり、怪盗キッドの引退宣言とも取れるものだから。
と、いうことは当然、組織の連中も黒曜石に狙いを定める。
今回1番の利は、天下無敵の名探偵が俺についたことだろう。
次点で次郎吉じーさんが「本気で」俺から黒曜石を守ろうとしていないところ。
それはやっぱり、


「あんた、こんな警備じゃまた奴にまんまと」
「ワシの部下を信頼せい!」


中森警部には不審がられることではあるが…。
ちなみになんでクリスマスにしたか、ってのは、名探偵の「アイツが俺のクリスマスは事件まみれになれって言ってたから」っていうどーでもいい理由で決まったからだ。


「おい」


間もなく犯行予告時間、て時にインカムから名探偵の声が聞こえてきた。


「あえてこの日にしてやったんだ。クリスマスの奇跡、って奴を見せてみろ」


随分と偉そうなその言葉は、それでも今の俺には思い切り背中を押してもらっているように聞こえた。


「えぇ、わかってますよ。それでは…コホン…レディース!アーンド!ジェントルメーン!!今宵私のショーのフィナーレを、皆様のその目に焼きつけてくださいますように」


こうして「怪盗キッド」としての最後のショーが始まった。

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bkm

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