キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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キミのおこした奇跡


最強金庫・鉄狸の褒美


如何にして次郎吉じーさんに黒曜石を日本国内に持ち込んでもらえるか。
名探偵と共にそれを考え始めた2日後、


観念めされ
鈴木相談役
無駄な抗いは止めて
赤子が如く神妙にし
月が闇に呑まれる中
当家に伝わる大金庫を
我が凌駕するのを待て
怪盗キッド


予想外のことが起こった。


「どーいうつもりだ?」
「こっちが聞きてぇよ!」


新聞にデカデカと俺の偽予告状が載った。
もちろん出してない俺としては寝耳に水どころの話じゃない。
案の定、その日の放課後、ちょっと米花町に来てくれと呼び出された俺は名探偵に会いに久しぶりに米花町へ行った(ちなみに1番安全だから、って、工藤邸に呼ばれた。隠す気ゼロすぎんだろ)


「オメーじゃないってことは、」
「次郎吉じーさん本人じゃねーか?文体的にも…」
「何のために?」
「何の、って言われてもなー…この文面…あっ」


こんな言い回しで俺予告状出さねーだろ、って思いつつ、偽予告状を眺めていたら、気づいちまった。


「なんだよ?『あ』って?」
「あー…、いや、この文章の最後の文字を、逆から読んでみてくれよ」
「最後の文字?えぇーっと………良かったじゃねぇか」
「んー?良かった、のか?」


思わず腕を組み天井を見上げた。


「次郎吉さんからのご指名だぜ?恩売ってくりゃあいいだろ?で、黒曜石、買ってもらえばいいんじゃねーの?」
「…でもさぁ、んな上手い話あるか?」


名探偵が言うのは最もなんだが、どうしても疑っちまうのは仕方ないことだと思う。


「オメー、言ってたよな?ここはあおいが読んだ俺たちが主人公の本の中の世界だ、って」


不意に名探偵がそんなことを聞いてきた。


「正直なところ、俺は非科学的なことは信じないから、もちろんその話も、眉唾ものだと思ってる」
「まぁ、だろうな」
「けど…」


名探偵が俺に向き直り、


「あのバカ女が主人公の世界だ、っつーなら、少し信じるぜ?」
「え…?」
「考えてもみろよ。日本警察の救世主と言われた俺と、天下の大怪盗と言われたオメーが、いいように振り回されてんじゃねーか。んなこと出来る人間、他にいねぇだろ」
「そりゃあ、まぁ、確かにな」
「アイツは俺たちが主人公って言ったみたいだけど、その2人を振り回せるような奴が真の主人公じゃなかったら何だよ?ラスボスか?」
「あおいちゃんはラスボス感ねぇかなぁ」
「じゃあやっぱ、消去法で主人公だろ。…ソイツの帰還を、世界が望んでんじゃねぇの?」


俺にそう言ってきた。


「ははっ!」


笑った俺に、あからさまにムッとした顔の名探偵。


「お前も案外、可愛いこと言うじゃねぇか」
「悪ぃなぁ、オメーの専売特許取っちまってよ」
「んー、俺ならそうだな。『お姫様の不在に世界が耐えられない』ってとこだな」
「お姫様ぁ?あのバカ女のどこがお姫様だよ」
「オメーさぁ、あおいちゃんの可愛さ舐めてね?あの子めちゃくちゃ可愛いぞ?」
「あー、そーいや前に中道が言ってたな?尻フェチがどーのって」
「違う。それ違う。それ俺のことじゃない。断じて尻フェチじゃない」


そんな話のあとで、十中八九罠じゃないと言う名探偵の言葉を信じて次郎吉じーさんの家にメイドとして潜入(だって無いだろうけど、万が一罠の場合を考えて慎重に行きたい)
あんなデカデカと新聞に載せたものだから、中森警部もベッタリ貼りついていた。
しばらく様子を見るに、どーもあの馬鹿でかい金庫の中に次郎吉じーさんの、それこそ何より大切なお宝が入っちまったらしかった。


「用ってなんですか?」
「用?」
「あれ?言ってませんでした?手を貸してくれ、って」


ならまぁ、手貸してやるかと、自ら声をかけた。
俺の言葉にハッとした顔をした次郎吉じーさんは、部屋に来てくれと言ってきた。
それを聞いてじーさんの後をついて部屋に入った。
部屋に入る時、部屋の左右を確認するのも忘れずに。
そして突然の侵入者を防ぐため、念のため鍵をかけた。


「それで?手を貸してくれってのは」
「お主を男と見込んで頼みがあるっ!!」


俺が話しを切り出した直後、ちょっと泣きそうな顔しながら次郎吉じーさんがそう言ってきた。


「金庫の中に、あなたの何よりも大切な宝が潜り込んでしまったのでは?」
「…気づいておったか」
「まぁ、予想はつけれましたね」


最強金庫・鉄狸に入り込んでしまった、次郎吉じーさんの愛犬・ルパンを助けてほしい、ってことだった。


「開け方はルパンが巻いてるバンダナの中に入っておって、どーにも手が出せん」
「なるほど、なるほど」


あの金庫の中に杖を使って食事を入れてるとはいえ、救出は早ければ早いだけいい。
だから俺を呼んだ、ってことらしい。


「でもそれ、私が動くメリットがないですね」


俺としてはルパンは助けてやりたいし、ルパンじゃなくとも金庫の中に閉じ込められてるとか、いつもなら普通に手を貸していたと思う。
が。
今の俺にはおっかねー参謀がいて、ソイツから、そこで同情すんじゃねーくらいに言われちまったら交渉するしかない。


「ルパンを助けてくれるならば、ワシのクルーザーをやろう!」
「要らないです」
「何!?…ならば、ワシのプライベートジェットを、」
「要らないです」
「ぐぬね…、そうじゃ!ならば鈴木財閥の株を」
「要らないです」


正直な話、あおいちゃんのことが無かったら、鈴木財閥の株には揺れたと思う。
でも俺の第一優先事項はあおいちゃんだ。


「ならば何がほしい!?お主がほしいものをくれてやる!」


そう言ってきた物だから、心の中でガッツポーズをした。


「それは何でもいいんですか?」
「無論だ」
「男に二言は?」
「あるわけなかろう!お主は何を望む?」


次郎吉じーさんの言葉に口角を上げた。


「現在アメリカにある世界最古の黒曜石を1つ、私に頂けませんか?」


俺の言葉に次郎吉じーさんはピクリと眉を動かした。


「あなたが普段私を呼ぶ餌にしているビッグジュエルよりは値は張りません」
「それをどうするつもりじゃ?」
「差し上げるんですよ、私の命よりも大切な方に。どうしてもそれが必要なんですが、その方に盗品は相応しくない。出来ればあなたから私に進呈された物であってほしい」
「…おなごか?」
「この世のどの宝石よりも光を放つ方です」
「ほぅ…」


次郎吉じーさんはニヤリ、と笑い、


「相わかった!この鈴木次郎吉に二言はない!お主がルパンを助けてくれた暁には必ずやその黒曜石をくれてやろうぞ」


そう声高に宣言した。


「ならば、交渉成立ですね。ではまず、中森警部たちを、」


こうして次郎吉じーさんから盗むことなく、目当ての黒曜石を手に入れる算段が整った。

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bkm

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