キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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キミのおこした奇跡


名探偵たる由縁


俺は怪盗キッドが犯罪者であることを重々理解している。
だから全て自分の手でやり遂げようと思った(そりゃあジイちゃんの手も借りてるけど)
だから怪盗キッドであることの目的を、こういう形で、しかも名探偵の協力を得ることになろうとは、キッドを継承すると決めた時には考えもしないことだった。
でもそれもこれも全てあおいちゃんのためだ。
あおいちゃんがここに戻って来るなら、なんだってしてやる。


「キッド待てぇ!!」


名探偵と話し合いをした翌日、名探偵から「少し時間をくれ」と連絡が来た。
それはそうだろう。
いくら日本警察の救世主と言えど、そう簡単にパンドラを割り出されたら誰も苦労しねぇし、俺の今までは何だったんだ、って話になる。
アイツはアイツでやってくれてんなら、俺は俺で宣言通り、国内のビッグジュエルを片っ端から狙っていくことにした。
次郎吉じーさんのところじゃないってのもあり、名探偵は現場には姿を見せない。
…って、ことは、チョロい仕事なわけで。
着実にパンドラ候補を潰していった。
それから1ヶ月ちょっと経ったある日。
国内に点在するビッグジュエルもあと数えるほどになった頃のこと。
久しぶりに名探偵から連絡が来た。


「少し会えるか?」


俺は元々、盗聴を警戒して電話じゃ具体的なことは話さない。
それはコイツも同じようで、何故会いたいのか?ということは言わない。
けどコイツが俺に連絡を取ってくるなんて、理由は1つだ。


「オメーがこっち来るか?それとも俺がそっち行こうか?」


その言葉に、


「あー…、そうだな、俺がそっち行くわ」


再び名探偵が江古田に来ることになった。
恐らく、俺の家の防犯を見越してのことだろうと思う。


「よぉ、待ってたぜ」


翌日、阿笠博士の車で江古田にやってきた名探偵。
俺んちの前で博士とは解散(完全にアシに使ってやがる)
家には俺と名探偵だけになった。


「オメーから貰ったパンドラの情報が少なすぎて手こずっちまった」
「いやー、それはさすがに紅子に怒られっから」


名探偵がパソコン使わせろって言うものだから、えっ、とか思いつつも俺んちには他にねーし、俺の部屋のパソコンを使うことになった。


「俺が探しても、パンドラの情報はさほど出てこなかった」
「だろうな」
「だから視点を変えた。『パンドラを狙ってそうな組織の動きを知る』ことにしたんだ」


俺の部屋に入り、パソコンを起動してる最中にそう言ってきた。


「パンドラを狙ってそうな組織、つまり不老長寿の薬なんてーのを本気で狙うような狂った連中、日本国民にとって脅威だろ?」
「日本国民?」
「あぁ。だから公安に力を貸してもらった」
「…はっ!?公安、て、公安警察か!?なんでっ!?」


思わず名探偵を見た俺を、あれっ?て感じに驚いた顔で見ていた。


「言わなかったか?公安なんだよ、安室さん」
「…安室、って、俺をベルツリー急行ごと爆破させようとしたバーボンか!?」
「あー、いや、それは、」
「待て待て待て待て、何がどーなったらアイツが公安て結びつくんだよ!」


動揺する俺に、デカいため息を吐いた名探偵。


「安室さんの本名は降谷零。警察庁警備局警備企画課、通称ゼロ。そこの警部やってんだよ」
「え、ええー…。列車爆破しようとする奴が警部なのかよ…」
「あー、それもちゃんと理由があって。オメーっていうか、灰原を爆死させようとしたのはベルモットで、安室さんは保護しようとしてたんだよ。公安の仲間使ってな」
「…あー、そーいや『僕の仲間が待ってる』だなんだ言ってたな…」
「ちなみに安室さんがバーボンとして動いてるのは、組織の情報を得るためのスパイだからだ」


あおいちゃんから聞いて知っていた。
知ってはいたけど、マジで周りキャラ濃すぎだろ…。


「んで、その安室さんからの情報と、あとFBIにもちょっと協力してもらってさ」
「FBIにもお仲間がいるのね…」
「おー、いつでもお縄にできるんだぜ?国際指名手配犯さん?」


ニヤッ、と笑ってパソコンが置いてある机の前に来た名探偵。
…怖っ!
コイツとの関わり、マジで気をつけよう…。


「んで、そのパンドラ狙ってそうな組織の連中が狙うビッグジュエルに共通点がねーか調べてって、」


イスに座ったかと思ったら、持っていたUSBメモリを挿してカタカタとキーボードを打ち始めた名探偵。


「2つ、怪しい組織が引っかかったんだよ。で、そこから更に調べてって、」
「っ!これは…」
「オメーが調べた世界中に散らばるビッグジュエルの中からパンドラ候補を7つに絞った、ってわけ!」


まぁ灰原にも手伝ってもらったけど?なんて言いながら、名探偵が俺の方を見たのがわかった。
でも俺はパソコンの画面に目が釘付けになっていた。
7つ。
あれだけあったパンドラ候補のビッグジュエルが、たった7つに絞られた。


「ちょっと時間食っちまったけど、俺にかかればこんなもんだぜ?って、おい!」


思わず、名探偵の頭をわしゃわしゃと撫でていた。


「オメーはほんっと、俺が唯一認めた『名探偵』だよ!」


そう言った俺に珍しく、少し照れくさそうにしていた。


「あと問題なのは、」
「あぁ。日本国内には7つの内、1つだけ。後は全て、国外だ」


アメリカ、ドイツ、ロシア、イギリス、トルコにインド…。


「あと1ヶ月半で国外にある6つのビッグジュエルを確認か…」


正直時間がねぇ。
盗むとなるとそれ相応の下見も必要になってくるってのに、国内ならなんとかなっても国外、しかも複数国は厳しすぎる。


「この中から1つ2つなら、日本に呼べると思うぜ?」


黙った俺に、不意に名探偵は口を開いた。


「いるだろ?日本に。金に糸目をつけず、お前のためなら喜んで競り落としそうな人が!」
「…次郎吉じーさんか!」
「ああ。あの人ならこの中の1つ2つくらい、競り落とすと思うぜ?」


確かに、次郎吉じーさんならやってくれるだろう。
でも問題はどれを競り落とさせるか、だ。


「どーするか1度考えさせてくれ」


俺の言葉に、名探偵もそうだな、とだけ言った。
7つに絞られたパンドラ候補。
ベストは国内にあるビッグジュエルだ。
でもそれが違った場合、どれを日本に呼ぶか…。
また新しい、そしてきっと最大の難関に差し掛かった。
その翌日。
どのビッグジュエルを日本に呼ぶかを考えても名案が浮かばない。
ここまで来て当てずっぽうな賭けに出ることは避けたい。
でも手堅く行こうにも決め手に欠くものだから、決断を躊躇わざるを得ない。
どーしたもんか…。
そんなこと思いつつ、学校でもiPadに落とした名探偵が調べあげたビッグジュエルの情報を眺めていた時だった。


「随分と熱心ね」


紅子が声をかけてきた。


「んー…、熱心っていうか…、決めかねてんだよな、今」


画面に写し出されるビッグジュエルは、どれもそうだと言えばそう見えるし、違うと言われれば違うように見える。


「あの子、言ってたわよね」


そんなこと思っていた俺に、紅子が不意に口を開いた。


「『ここ』はあなたが主人公の世界だと」


突然のその言葉に紅子を見ると、紅子はイスに座る俺を見下ろすように見ていた。


「でも私には彼女こそが主人公に見えるわ」
「え?」
「画面越しでもはっきりわかる。他のビッグジュエルとは桁違いのエネルギーを放っている」
「…え、」


紅子は俺の手の中のiPadに目線を移し、


「あの子の瞳の色のこれがパンドラよ」


画像を指刺しながら、はっきりとそう言った。
直後、バッ、と画面を見る。
ルビー、サファイア、ダイヤモンド。
7つの宝石の中で唯一、あおいちゃんの瞳の色の、


「世界最古の黒曜石」


夜の闇より深い、それでも決して光を失わない俺のたった1つの宝物。


「ビッグジュエルの中では価値が低いでしょうけど、黒曜石は太古の昔から存在する、歴史的価値の高い物よ」
「1万年に1度のボレー彗星の伝承があっても不思議じゃない石ってわけか」
「前回のボレー彗星が最接近した時から存在していたのかもしれないわね」
「帰ってきたらオメーの親友になってやってくれって口添えしてやるよ」


そう言うが早いか、


to:名探偵
sub:無題
本文:黒曜石だ


名探偵にメールした。
5分もしないうちに「了解」とだけ返信が着た。
あと1ヶ月半。
俺の人生で恐らく1番の、気の遠くなるほどの、短くて長い時間が始まった。

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