キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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キミのおこした奇跡


日本警察の救世主


飛行船から降りて、ジイちゃんと合流し、ジイちゃんが乗ってきた車に滑り込んだ。
その時に一応、確認してみた。


「なぁ、ジイちゃん。あおいちゃんのことなんだけどさぁ、」
「…あおい様、ですか?青子様ではなく?どちらのお嬢様でしょう?」


ついこの間だ。
俺のいない間にすっかり打ち解けて、ジイちゃんなんて呼ばれて、ジイちゃん本人も楽しそうに話していたのは。


「あー、いや、俺の勘違いだ」
「左様でございますか」


ジイちゃんの記憶から、あおいちゃんに関することがなくなっている。
ジイちゃんに預けてた俺のケータイを見ると、


「ねぇな…」


電話帳のところには、あおいちゃんはもちろんのこと、あおいちゃん経由で知り合った園子ちゃんの番号も消えていた。
それまで散々撮りだめしていた、2人で写った写真も、いつの間にか俺1人だけが写っている写真に変わっていた。
…本当に、消えている。
もし、あの時名探偵に声をかけられなかったら、俺もあの瞬間に記憶を失くしていたのかもしれない。
目の前で消えた。
そのことに驚きのあまり、頭が真っ白になったあの瞬間に、全てを失っていたのかもしれない。
たまたまあのタイミングでスカイデッキにやってきた名探偵がいなければ、俺もジイちゃんのようになっていたかもしれない。


「ジイちゃん、俺ちょっと電話していーか?」
「えぇ、どうぞ」


けど、俺は大丈夫だった。
そして名探偵も、大丈夫だ。
ならばもう1人の協力者はどうか。
紅子はクラスメイトだからか、電話帳に名前が残っていた。


「どうしたの?」
「黒曜石の子猫。覚えてるか?」


紅子が電話に出た直後、不躾にそう尋ねた。
電話越しの紅子がフッと笑ったのがわかった。


「対価を考えないとね」
「…オメーは今世紀最高の魔女だよ」
「褒めたって対価は払わせるわよ」


それでもどこか嬉しそうに聞こえるから不思議だ。


「詳しくは学校で話す」
「了解」


そう言って通話を終えた。
…これで俺含めて3人だ。
3人があの子のことを覚えてる。
大丈夫だ。
俺のこの記憶は夢なんかじゃない。
次の日、あおいちゃんに関する、パソコンで調べ上げられることを調べた。
…違うな。
以前調べたあおいちゃんに関することを、もう1度調べ直した、が、正しい。
けど…。


「これも消えてんのか…」


どのデータベースにも、あおいちゃんは存在していない。
いつも行っていた、マンションのあの部屋は、全く違う男が住んでいた。
そして月曜日の朝。


「快斗、おっはよー!」
「んあー、はよー」


家から出るといつものように青子がいて。


「なんか元気ないね?ちゃんと食べてないの?」
「んー…食ってはいるけど、」
「どうせコンビニ弁当でしょ?」
「毎回ってわけじゃねーし、いーだろ」
「そんなだと思った!快斗、料理出来るんだからコンビニ弁当ばかりはダメだよ。はい、これ!」


はい、と、青子から袋を渡された。


「何これ?」
「は?何、って、いつものお弁当だよ」
「え?『いつもの』?」


そう言った瞬間、記憶が蘇る。
俺がパンやコンビニ弁当ばっかだからって、青子が毎日のように弁当作ってくれてそれをもらっていた、それまでの俺にはないはずの記憶が…。


「なによぉ、この前魚入れたこと、まだ怒ってるの?」
「え!?あ、いや…」
「今日は入ってないから安心して!」


遅刻するから行くよ、と青子が言う。
…あおいちゃんは言ってた。
「ここ」は俺と青子がくっつく世界なんだ、と。
もし、あの日、あの時、あおいちゃんに話しかけていなければ…。
そもそも出逢っていなければ、俺は本来、この状況だったのだろうか?


「おー、おー、黒羽、今日も愛妻弁当か?」
「…愛妻でもねーし、そもそもつきあってもねぇって話で」
「いいよなー、あんな可愛い子が隣に住んでるとか」
「そりゃあつきあってなくても俺の感だすよなぁ」
「出してねーし」
「はいはい。そーですねー」


教室に着いたら更にあからさまになっていた。
いつもの、と言っていただけあり、その弁当袋は周知の物だったようだ。
クラスメイトのみんながみんな、「そういうものだ」と思って接している。
…嘘だろ、なんでだよ。
俺連れて来てたよな?
オメーらにも紹介しただろ?
俺の彼女だ、って言っただろ?
手繋いで校内歩いてたじゃねーか。


「随分と顔色が悪いようだけど、大丈夫?」


そう言って俺の机に片手を置いたのは、紅子。


「ちょっと来い」
「え!?快斗、紅子ちゃん連れてどこ行くの!?もうすぐ始めるよ!?」
「サボんだよ!」
「快斗っ!」


音を立てて立ち上がり、紅子の腕を掴んで教室を出た。
空いてそうな教室に適当に入って紅子の手を離した。


「オメーもちゃんと、覚えてんだよな!?」


そうなるものだと知ってはいた。
だからこそ、名探偵に助言をした。
でも実際に自分がその状況に合うと、本当に自分のこの記憶は正しいのかと思ってしまう。


「黒羽くん、あなた思ったよりも打たれ弱いのね」
「そんなんじゃねーだろ!?自分以外の全ての人間が誰1人覚えてねーんだぞ!?『ここ』にいた記録そのものも全て消えてる!おかしいだろ、こんなの…」


ジイちゃんに確認した時から覚悟はしていた。
けど、ただいなくなっただけじゃない。
まるでその穴埋めかのように、青子との距離が近くなっている。
周りもみんな、それを当然と受け入れている。


「こんなんが『当たり前』になんのかよ…。気狂いそうだ…」


吐きそうになる。
なんで人1人いなくなったことに、誰もおかしいと思ってくれねぇんだよ…。


「言ったはずよ。『覚悟と力があなたにあるのか』って」
「…」
「たった数日で根を上げるような大した覚悟だったようね」


紅子は呆れたように言う。


「なんでオメーはそんなに平気なんだよ」
「当然でしょう?私はさほど関わっていないもの。クラスの子たちと」


そう言われて、腑に落ちた。


「あぁ、うん。そうだな。つまりはそういうことなんだよな」


深く関わりがある奴ほど、俺はあおいちゃんの話をしていた。
でも今は、深く関わりがある奴ほど、あおいちゃんがいた穴埋めかのように、青子といることに納得している。
…俺はそれが、耐えられないんだ。
あの子がずっと気にしていた事が、こうも当たり前に周囲に推し進められることが、今の俺には苦痛でしかない。


「今は10月の中旬」


頭を抱えた俺に、紅子は独り言のように口を開いた。


「あと3ヶ月以内に見つけなければ、ボレー彗星の恩恵を受けれないわよ」


紅子の言うことは最もで。
不老不死すら叶えるそれは、ボレー彗星が最接近する今、効果が表れる。
つまりはボレー彗星が地球から離れたら、手遅れになるってことだ。


「時間がねぇ…」
「目星をつけて行動するしかないでしょうね」
「簡単に言うんじゃねぇよ。だいたい目星をつけるなんて、」

ーもし、今この世界で『怪盗キッド』の力になれる人がいるとしたら、それは新一くんだと思うー

「…だからか」
「え?」


名探偵に言った1週間後。
アイツと会って、あおいちゃんに何があったのか話すつもりでいた。
何をする協力者なのかを考えさせるためにも、全て打ち明けるつもりだった。
でもあおいちゃんも言ってたじゃーか。
アイツが「キッド」の力になれる存在だと。


「紅子、頼みがある」
「タダ働きは嫌よ」
「全部ツケにしていーから、オメーはパンドラについてどんな些細な情報でもいい。調べてくれ」
「あなたは何をするの?」
「世界中のあらゆるビッグジュエルの情報を調べ上げる」


貸しを返してもらおうじゃねぇか。


「得意分野なはずだぜ?限られた情報から真実を見抜くのはな!」


日本警察の救世主に、パンドラの可能性のあるビッグジュエルを導き出してもらう。


「てわけで、俺2〜3日学校休むから」
「中森さんどうするつもり?」
「あー、そこもオメーに任せるわ!」
「嫌よ」
「そう言うなって!成功したらあおいちゃんの友達に、なんなら親友になっていいからさ」
「…あなた何様のつもりなの?」
「俺?俺はあおいちゃんの王子様!」


盛大にため息を吐いた紅子に見送られ、学校を後にした。

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