キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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天空の難破船


今度こそ


時間だ

そう言われたのがわかった瞬間、心で思っていた。
まだちゃんと、お別れできてない、って。
最後にもう1度だけ、会いたい、って。
そう思った。
瞬間、


「っ!?」


目の前が光って、眩しくて目を瞑った。


「本当に、これで最後だ」


光の中でたった一言だけ、そう聞こえた。
閉じていても瞳の奥に感じていた光が弱まったから、ゆっくり目を開けると、


「…」


何かの儀式のように、ビッグジュエルを月にかざしているキッドの、快斗くんの姿あった。
かざしていたビッグジュエルを、俯きながらぎゅっと握りしめ肩を落とした快斗くん。
…最後にパンドラが見つかるところまで見れたら良かったんだけど、現実はそう上手くいかないらしい。


「それも、違った?」


そう言って近づく私に、淡い月明かりの下でもはっきりとわかる、優しい笑顔を向けてくれた。


「もうそっちは落ち着いたの?」


快斗くんが聞いてくる。
「そっち」っていうのはきっと、ダイニングにいたみんなのこと。
…でもたぶん、もうみんなの記憶は…。


「ほんとはね、今日の、この宝石が、パンドラだったらなぁって思ってたんだ」


そう言った私に、快斗くんは、そうだな、とだけ答えた。
…何か言わなきゃ。
最後にこれだけは、って奴、言わなきゃ。
…でも。


「覚えてる?初めて会った時のこと」


思い出すのは、快斗くんと過ごした楽しかった日々のことばっかりで。


「あの日、ほんとに王子様って存在するだって、そう思ったんだよ」


快斗くんの近くまで行くと、快斗くんは私の前に跪いて、私の左手を取った。


「俺が王子って言うなら、あおいちゃんはお姫様だよ」


そう言って、私の左手の薬指あたりに、ちゅっと口づけた。


「これ…」


今のほんの一瞬で、私の左手の薬指には私にはちょっと大きいサイズのレディスカイが嵌められていた。


「俺が必ず、あおいちゃんの望む奇跡を起こして、いつかちゃんとした奴を贈るから。あおいちゃんはそれまで良い子に待っててくれる?」


立ち上がりながらそう言って、私にウィンクしてきた快斗くん。
…やっぱり快斗くんは、気づいてたんだ、って。
すごく頭が良くて、いろいろ考えてしまうから、きっと気づいてしまったんだ。


「ねぇ、快斗くん」
「うん?」
「私、快斗くんのこと大好きだよ」


初めて会った時に、優しく手を差し伸べてくれたこと。


「誰より優しいところも、」


次に会った時に、友達になろうって、言ってくれたこと。


「柔らかく笑う顔も、」


その次は、2人で初めて出かけたあの日。


「魚が嫌いなところも、拗ねて不機嫌になるところも、すぐ痩せ我慢しちゃうところも、」


きっとあの日が、全てのはじまりだった。


「どんな時でもカッコよくて、全部全部、大好きだよ」


後悔はないか?って聞かれたら、ない、とは、答えられないけど…。


「だからさ、快斗くん」


だけど快斗くんと一緒にいれて、すごく楽しかったから。


「今度こそ、快斗くんが本当に大好きな子と、幸せになってね」


その時にはきっと、私とのこの会話も、忘れているから。


「快斗くんは絶対、世界一のマジシャンになれるよ!」


私の言葉を聞いた快斗くんが、こちらに向けて手を伸ばした。
瞬間、


バツン


と景色が途絶えて、



「〜〜」
「〜〜!?〜!!」


誰かの叫び声のような音が、聞こえた。
指先1つ、動かせない。
話し声の認識もできない。
目も開けられないまま、あぁ、私ほんとに死ぬんだ、って。
最後の瞬間に見た姿が、快斗くんでほんとうに良かった。


ヒューッ


そう思った直後、快斗くんへの全ての思いを自分の中に留めるかのように息を大きく吸い込んで、私は死んだ。

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bkm

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