キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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天空の難破船


奇跡の薬


助けようと思ったのか?と問われれば、自分でもわからないと答える。
冷静に考えてみても、あの場にいた他の誰もが助けることは出来ず、唯一俺だけがその術を持っていたのだから、あの時飛び出して正解だったと思う。
けどそんなこと思うよりも先に、ただあの瞬間に、身体が動いていた。


「っ、」


頭を下にして少しでも早く落下し距離を縮める。
…くそっ!!
手、が、届かねぇ…!
あ、とすこ、し、よしっ!!!


「ふぅ…」


思わず息が漏れた。
雲をつき抜け、体が風を受けて舞い上がる。
あの、独特な浮遊感。


「まぁさか、窓から放り投げるとはなぁ…。どうする名探偵?このまま降参か?」
「んなわけねぇだろ!今すぐ飛行船に戻れっ!!」
「無茶言うな!俺のハンググライダーはエンジンつきじゃないんだ!…俺だってこのまま逃げるわけには行かねぇけど今は仕方ねぇだろ!生きてるだけでもラッキーと思え!!」
「クソったれ!!!」


…くそったれ?
助けてやったのにくそったれ?
オメー、そこはまず感謝くらいしたらどうだ?
っていう言葉をグッと飲み込み、名探偵を抱えたまま、降りれそうな場所を探した。


「おい」
「んー?」
「オメー、あおいに何があったか知ってるか?」


今の高度と落下スピードを考慮して着陸場所を探していた俺に、名探偵はそう聞いてきた。


「何が、って?」
「…アイツ、ここ最近おかしくねーか?」


それは例えばどういう風に?と聞こうとした時だった。


「いや、元々おかしい奴だから、いつもがまともか?って聞かれたらそうでもねーんだけど、」
「お前、喧嘩売ってんの?よくこの状況でんなこと言えんな?落とすぞ、こら」


コイツの言葉に、思わず本音がダダ漏れになってしまった。


「オメーに対してどう接してんのか知らねーけど、」
「あん?」
「…まるで…」
「まるで?」
「…最近のあおいは、まるで1人1人に別れを告げてるみたいじゃねーか?」


その言葉に、咄嗟に返す言葉が出てこなかった。
コイツも感じたこと。
あの子がいなくなる可能性。
それは考えたくない、けれども避け用のない事実…。
そこからしばらくは無言で空を飛んでいて、


「降りるぜ?」
「あー?」


手頃な場所を見つけた俺は、名探偵を抱えたまま浜辺に降りることにした。
直後、名探偵はケータイを取り出し、どこかに電話し始めた。


「なんだ、電話か?」
「んあー。大阪の知り合いに、このこと知らせとこうかと思ってな」


大阪の知り合い…。
ああ、西の高校生探偵か。
ここで、佐久島のヤギが目の前にやってきた。


「三河湾にある佐久島だ。…しゃーねーだろ。降ろされちまったんだから」


めちゃくちゃ人懐っこいヤギで、俺たちの方に近寄ってきた。
コイツほんっとふっわふわっ!
まるであおいちゃんの…いや、その例えはマズいぞ、さすがに引かれる、自重だ自重。


「ははっ!くすぐってぇってっ!」


なんて思ってる時も俺に絡んでくるヤギ。
こんなにヤギとだだ絡みしたの初めてかも!
…あの子もこういうの喜びそうだ、とか。
そんなことを思った。


「既に感染者が2人」
「3人だ」
「え?」
「水川、ってディレクターも右の手のひらに発疹が出た」
「…てことだ」


あぁ、そうか。
コイツ途中で連絡途絶えたから…。
しっかし、どーやって戻るか…。
そう頭を抱えた時、ヘリの音が聞こえてきた。


「…あれは警察のヘリだな。飛行船を追ってんのか?」
「警視庁…、悪ぃ!またかける!」
「名案でも浮かんだか?名探偵」
「…ああ。もうこれしかねぇよ!」


ニヤリと笑う名探偵・工藤新一。
…つきあいの短い俺でもわかる。
この顔は無茶ぶりしやがる例のアレだ。
嫌な予感しかしねぇ…。


「目暮警部、工藤です」


コイツ警視庁の目暮警部に電話してんのか。


「今、愛知県の佐久島にいるんですが、飛行船を追って警視庁のヘリが…。…ハイジャックの件は知っています。そこで警部にお願いしたいことが…僕もそのヘリに乗せてほしいんです。この工藤新一を」


…はあ?


「おい、どこに工藤新一がいるんだよ。オメーだろ、工藤新一は!」
「だーかーらー!俺に化けてくれって言ってんだよっ!」


俺の嫌な予感大的中。
でも、


「俺に貸し作りてぇんだろ!?」


その言葉に口角が上がった。


「いいや、今回は貸しじゃなく、条件をつける」
「条件?」
「俺の目の前で、コレを飲み干してくれ」


そう言って、紅子から預かり胸ポケットに入れていた小瓶をコトリ、と音を立てて置いた。


「なんだこれ?」
「奇跡の妙薬さ。たぶんな」
「奇跡ぃ?」


ものすげー胡散臭そうな目を俺に向けてくる工藤新一。
…わかる。
俺もオメーの立場ならそういう顔すると思う。
なまじ顔が似てる分余計その顔に腹立つ。


「知りてぇんだろ?」
「あ?」
「あの子が別れを告げてる理由」
「…」
「これはその謎が解ける、唯一の薬さ」


俺の言葉に、その小瓶を睨みつける工藤。
…ま、そうなるよな。


「俺としてはオメーが納得した上で飲ん」
「まっず!!!なんっだ、これ!?どこをどうしたらこんなマズいもん作れんだよっ!!!」


俺の話の途中で、工藤は一気に小瓶を飲み干した。


「は?え?飲んだの?」
「あ?オメーがこのマズいもん飲めっつったんだろ?」
「あ、いや、うん、そう、なんだけど、」
「あー…まだ口の中が苦ぇ…、そこらへん自販機ねーか?」


口元を手で拭いながら、そう言う。


「俺やっぱオメーと親友になれんじゃねーかって思う」
「くだらねぇこと言ってんじゃねぇよ。飲んでやったんだ、なってくれんだろうな?工藤新一に!」


ジロリ、と俺を睨みながら言ってくるソイツは、あの子がずっと言い続けていた、「ここ」でのあの子の家族なんだと思った。


「…手を貸すのはいいが、俺の仕事の邪魔すんじゃねーぞ?」
「ソイツは保障できねぇけど…なるべく努力するよ!」
「へー…」


絶対ぇ嘘だな、と思いつつも工藤に変装した。


パラパラパラパラ


「お、戻ってきたか!オメーじゃあ俺に」
「なんか言ったか?コナンくん」
「…変わり身の早ぇヤツだな」
「やぁ、工藤くんお待たせ!…ってコナンくんもっ!?」
「うん!よろしくね!高木刑事!」


…オメーの変わり身の早さよりもマシだと思うのは俺だけか?
語尾にハートついてんじゃねぇか?
さっすが元女優の息子。
演技力がハンパねぇ…。
うっわ、俺鳥肌立っちまった。


「久しぶりね、工藤くん」
「ども」
「でも驚いたわ!コナンくんも一緒だなんて!」
「えへへへ」
「佐久島に何か用でも?」
「…話は後で。飛行船を追ってください」
「ええ。飛行船を追って!」


さて…、これで近づけはするが、邪魔がはいらねーかが問題だな。


「いました!飛行船です」
「近づいてください。犯人たちに気づかれないよう、十分高度を取って」
「了解」


いいぞ…。
このままうまく近づいてくれよ…。


「風向きと今のヘリのスピードは?」
「東南東、時速200キロ」
「このまま進んで追い抜いたあたりで飛行船にスピードを合わせてください」
「工藤くん?」
「…ふんふん…」


ヘリの窓から風向きを確認。
よし、これなら飛び移れる。


「工藤くん、一体何を…?」
「それじゃあ僕たちはこの辺で失礼しまーす!」
「「…ああっ!!?」」


ヘリから名探偵を抱えて飛び降りる。
風が少し強い気もするけど…1発勝負だぜ !
そういうの俄然萌えるしな!


「…っと…おぉっ!?と、と、と、」
「あ、あ、あ、あ、」
「うわぁぁぁぁ」
「翼、翼!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「翼を仕舞えっ!!早く翼を仕舞えっ!!!」
「オメーが邪魔でスイッチが押せねぇんだよっ!!!」
「くっそー!」
「ああっ!お、おいっ!どこ触ってんだうはははっ!やめろーっ!!」
「じっとしてろっ!!スイッチ押すからっ!!」
「そんなこと言ったって、くすぐってぇ!」
「我慢しろっ!!」
「お、おい!そこはっ!!!」
「「う、うわぁぁぁぁ」」


風で体が舞い上がった。
瞬間、工藤新一が俺の懐からワイヤー銃を奪ってワイヤーを船体に繋げることに成功した。
あ、あぶねぇ…。
助かった…。
なんとか飛行船に飛び移ることが出来た。
ここから反撃開始だ。


「ほんじゃまぁ、グットラックってことで!」


飛行船上部までなんとか上がって、名探偵と一旦離れることにした。


「オメーは行かねぇのか?」
「俺はここでしばらく様子見だ!」


俺は探偵じゃない。
俺の領分はそこにはない。
そういう場所で焦って動くと良いことがねぇ。
様子見ながら機会を待てばいい。


「宝石はリーダーの手に渡っちまったし!おお、そうだ、ほーれ!」
「お、お、おい!!」


名探偵なら有効活用してくれんだろ。


「なんだコレ?」
「次郎吉さんの指紋シールだ」


ま、俺も万が一のためのスペアを1枚持ってんだけどな。


「今回は指紋認証式のガラスケース、って読みはズバリあたったんだが…。もう用ねぇからオメーにやるよ」


上手く使えよ、名探偵。


「にしてもお前の幼馴染。気をつけてやった方がいいぜ?」
「え?」
「今日オフショル着てただろ?あの藤岡って男に肩が出てる部分を掴まれてさ。けどすぐ飛びのいたし、咳やくしゃみをしたわけじゃねぇから移っちゃいねぇと思うけどな。一応、知らせとくぜ?」


蘭ちゃんに何かあったら、あおいちゃんが悲しむしな…。
ハッチを開けて工藤新一が飛行船の中に入っていく。
さぁて、俺はどうすっかなぁ!
あおいちゃんたちはきっとあのままダイニングだろうし。
中森警部や警察関係者が一緒だからいきなりなんかされるってこともねぇだろうし。
あおいちゃんのことは一旦あのままダイニングに置いとくとして、問題はレディスカイだ。
あのリーダーが持ってんだよなぁ…。
あのガタイや銃の扱い、テログループはテログループでもかなりしっかりした組織みてぇだし…。
俺が下手に手出して船内に細菌ばら撒かれても困るし。


「どー攻めっかなぁ…」


とりあえず俺も船内に…ん?煙…?
これは発炎筒か?
…このままの方角で飛び続ければ、奈良、ね。
なるほど?そういうことか。
これもまた貸し1つ、ってところじゃね?
…お、なんだまだあんなところに…って、爆弾解体中なわけね。
次から次にご苦労なこった。


「おい」
「っ!?…なんだ、脅かすな!」
「おもしろいもんが見えるぞ」
「え?…悪ぃ、またかける」


もう一度、飛行船の上部へと名探偵を連れてきた。


「なんだよ、おもしろいものって、っ!?」


さて、探偵くんはこれをどう推理するかな?


「どういうことだ!?」
「…この山を越えれば奈良だ。飛行船が煙吐いてるんで奈良の人たちぶったまげるだろうな」
「たまげるだけじゃない!パニックだっ!」
「パニック?」
「奴らがネット上で細菌のことや爆弾のこと、公表したんだよ!今頃、街中の人が避難させられて」
「まあ、奈良がそうなったとしたら?泥棒にとっちゃ大ラッキーだけどな!」
「バーロォ、人がいなくなっても今はどこでもセキュリティが…」


気づいたか。


「まさか!?だから奈良に!?」
「かも、しれねぇな」


でもそうだとしたら腑に落ちねぇのが、生物研究所から盗み出したあの細菌。
こんなことのために、自分の命取りにもなりかねねぇもん盗み出すか?


「電話は終わったか?」
「ああ…。服部を奈良に向かわせた。アイツがなんとかしてくれんだろう」
「で、オメーはどうする?」
「このまま船内に戻る。どうも腑に落ちねぇことが」
「細菌、か」
「…オメーは?まだここにいるのか?」
「いいや。奴らの目的がわかったし、やられた分はやりかえさねぇとな」
「…」
「本物の銃いくつも持ってる集団。お互い気つけようぜ?」
「おい」
「あー?」
「…死ぬんじゃねぇぞ」
「オメーに貸しを返してもらう日までは何がなんでも生きてやるよ」


そう言って名探偵と別れた。
…とりあえず、1度ダイニング付近がどうなってんのか確認するか。
マントを翻し、飛行船内部へと身を投じた。

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