キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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天空の難破船


事件発生


「お待たせしました。お飲み物とケーキです」


ウェイターに戻った俺の最初の仕事は、あおいちゃんたちに給仕することだった。


「あ、ありがとう、ございます」


ジーッと俺を見てくるあおいちゃんに少し吹き出しそうになった。
そんなガン見してたら怪しまれんだろ、なんて思いながらも、少しだけ口角が上がっているのが自分でもわかった。


「あーあー、私も客として飛行船に乗りたかった!」


ウェイター仲間のねーちゃんがそうボヤいた。


「まぁまぁ、今回時給のわりに楽だからいいじゃないですか」
「まーそうなんだけどさぁ」
「あなたたち、喋ってないでこっち手伝って」
「「はい」」


そんな楽な仕事の中でも働け、働け言う奴はいるもんで。
てきとーにウェイターの仕事をこなしつつ、今後の作戦を脳内で練っていた時だった。


「何?何をたわけたことを!」


次郎吉じーさんの怒鳴り声が俺がいたところまで聞こえて来たから何事かとダイニングに出た。


「なんでもない。ただの悪戯電話じゃ」


とか言いつつも、じーさんと中森警部と警視庁軍団はどこかに消えて行った。
あ、これ何か事件始まったな、って。
あおいちゃんに聞いてたってのもあったが、ただならぬ空気にそう感じた。
その証拠に、


「くつろいでいるところ悪いが、こっちに集まってくれんか」


しばらくして中森警部が俺たちもダイニングに集まるようにと言ってきた。
そして聞かされたのは、


「残念ながら今本庁に確認したところだ」


殺人バクテリアの話。
飛行船と殺人バクテリア。
わかっちゃいたけど、ここではっきりとあおいちゃんが存在は知っている、あおいちゃんの知らない物語に突入したと思った。


「とにかく、さっきも言ったようにBデッキの喫煙室は封鎖」
「うわぁぁぁ」
「え?」


突然、ダイニングにうめき声が響いた。
…あれは、発疹、か?


「た、助けてくれ…」
「ほ、発疹!?」
「まさか感染したのか!?」
「そう言えばあの人、さっき喫煙室に」
「たすけてくれぇ…おねがいだぁ…なんだかぐあいがわるいんだぁ…」
「落ち着け!落ち着きなさい!」
「しにたくないんだぁ…」


パッ、とあおいちゃんの方に目を向けると、盾になるかの如く、名探偵があおいちゃんの前に立っていた。
そして、


「一撃かよ…」


蘭ちゃんが一撃で感染者の動きを止めた。
ほんとおっかねー女だ。


「す、すまん」
「いえ…」
「蘭くん!すぐに手を消毒した方がいい!」
「こっちに!配膳室に消毒用アルコールがあるわ!」
「はい!」


蘭ちゃんがバタバタと配膳室に向かった。


「…この船から感染者を出してしまうとはっ!」
「他に喫煙室に入った者は?」
「きゃー!」
「ちょっと!大丈夫!?…ほ、発疹が!!右手と、左腕にっ!」


これで感染者2人。
しかもこのねーちゃん、さっきまで俺と話してたじゃねーか…。
けどまぁ、そこまで接近してたわけでも、咳されたわけでもねぇし、たぶん大丈夫だろ。
っていう謎の自信の元、


「念のため、このダイニングも閉鎖した方がいいだろう」
「うむ。それじゃあ全員、ラウンジの方へ移ってくれ!」


とりあえずは警部たちの指示に従うことにした。
さて、どうしたもんか。
そう思ったのもつかの間、名探偵がいないことに気づいた。
そういや探偵団の子らもいねーな…。


「ふむ…」


子どもへの感染力がヤベーらしいし、アイツ今ガキだし、下手に動き回らねー方がいいんじゃねーかと思うが…。
そんなこと思った時だった。


「動くなっ!!」
「誰じゃ!うぬらはっ!?」
「…アンプルは見つかったか?」


あからさまに物騒な輩がラウンジに入ってきやがった。
バイオテログループ、赤いシャム猫、か。


「この船内に爆弾を仕掛けた。大人しく言うことを聞いていれば爆破したりはしない」


ワンワンッ!!


「これルパン!大人しゅうせいっ!!」


バァン


「きゃあ!?」


拳銃独特の発砲音がラウンジに響く。
…ヤベーな。
飛び道具に殺人バクテリア、か…。
…でもコイツら、なんで乗り込んで来たんだ?
こんな飛行船に乗り込んできて逃げ場がねーだろ(しかも単体ならまだしも大人数で)
なんて思った時、フッとあおいちゃんと目が合った。
今は動く時じゃない、という意味を込めて首を振ったら、


「…」


あおいちゃんは小さく、それでもはっきりと首を縦に振った。


「全乗務員に告ぐ。大至急ダイニングに集まるように!繰り返す!全ての乗務員は大至急ダイニングに集まるように!」


船内放送を聞いて、続々と乗務員が集まってくる。
左右の部屋に振り分け、乗員乗客が人質となった。
…ところでもまだ、名探偵が戻ってこない。
て、ことは、だ。
アイツが裏で動いてる可能性があるなら、この状態も長くは続かないだろう。


「この飛行船は、我々赤いシャム猫がハイジャックした!全員、携帯電話を出してもらおう!」


その指示通り、テログループの1人が持ってきた袋の中に、携帯を入れた(もちろんダミー携帯)


「要求を聞こう。金か?それとも服役中の仲間の釈放か?」
「俺達は鈴木財閥に恨みがあるんだ。特にこのじぃさんにな」


次郎吉じーさんに恨みかぁ…。
なら飛行船乗り込んで来るのも納得できるっちゃーできるけど…。


「確かにワシは10年前警察に手を貸した。うぬらの組織を潰すためにな。じゃから人質にはワシがなる。他の者は解放してくれ」
「そういうわけにはいかねぇな」
「何故じゃ!?」
「飛行船はこのまま大阪へ向かう!…警察に連絡しろ。ただし、少しでも妙な動きを見せれば飛行船を爆破する。そう伝えろ!…それと、これは例の殺人バクテリアだ!間違っても俺達を捕まえようなんて思うなよ?喫煙室だけでなく、このキャビン全体に殺人バクテリアが飛び散ることになるからな!」


…大阪に向かう必要があるように聞こえるな。
現地になんかあるのか…?


「よし、じぃさんだけこっちに来い」
「何?」
「あるんだろう?上に。あの目障りなコソ泥が狙うお宝が。案内してもらおうか」


その言葉にピクリの反応した。
…まぁ、じーさんから盗るかテログループから盗るかの違いになるだけだけどな。
でも、はい、そうですか、で従うのは癪に障る。
さぁどうするか。


「何をしてるんですか?水川さん」
「あっ!?」
「…水川さん、まさかっ!」
「な、なんでもないっ!…なんでもないんだって」


脳内フル稼働させて考えていた時、叫び声に近い声が聞こえた。
叫んだのは、日売テレビのディレクターの水川。
その手のひらは赤く、藤岡やウェイトレスのねーちゃんと同じような発疹が出ていた。


「違うっ!これはただの蕁麻疹だっ!!」
「そう言えばさっきタバコのにおいがしたわ!喫煙室に行ったのよっ!!きっとそこでっ」
「行ったけど、感染なんかしちゃいない!!現に他のばしゲホゴホッゴホッ!!」


突然咳き込んだディレクターさんに意識が向いているテログループ2人の背後に、蘭ちゃんと中森警部が近づいた。


バァン


物事にはタイミングというものが存在する。
今は全て、そのタイミングがテログループに向いているようだ。
スカイデッキに行ったはずのテログループのリーダーが戻ってきやがった。


「喫煙室に放り込んどけ!」


そう言われ、水川を担ぎ上げて、テログループの1人は去っていった。


「ねぇ、そう言えば子供達がいないんじゃない?」


誰1人、喋ることない静かな空間の中、唐突にテレビスタッフのねーちゃんが名探偵たちの事を口にしやがった。


「子供?」
「ええ…。確かあの子と同じくらいの男の子が3人と女の子が1人いたはず」
「探せっ!!」


…マズいぞ。
ここでアイツまで捕まったら、厄介なことになる。


「江戸川くん、あなたたちがいないのがバレたわよ!江戸川くん!江戸川くん!男が2人、探しに行ったわ!あっ!!」
「洒落たことするじゃない」


バチン


「哀ちゃんっ!!」


哀ちゃんが名探偵に連絡を取ろうとしたところが見つかって、ウェイター仲間の1人だったはずの女が哀ちゃんを叩き飛ばした。
その哀ちゃんにあおいちゃんが駆け寄る。


「子どもに手を上げるなんて何考えてるのっ!?サイテー!!」


片手で哀ちゃんの頭を抱え、もう片手で身体を抱き締めながら、そう叫んだ。
…蘭ちゃんのように強いわけでもなければ、園子ちゃんのように相手を言いくるめ話術があるわけでもない。
紅子のように魔法が使えるわけでもなければ、青子のようにその場をまとめあげるスキルがあるわけでもない。
でもこの子はこういう子だ。
弱い者には必ず手を差し出す。
それに、多くの人間が救われる。


「今度妙な真似したら殺すわよ?」


そう言ってテログループのお仲間だったねーちゃんが銃片手に仲間の方に消えていった。
…哀ちゃんの連絡を名探偵が聞けたかどうかで変わってくる。
どんどんマズい展開になって来やがる。
直後、リーダーのところに無線が入った。


「ガキ4人、捕まえました」
「連れて来い」


マジかー…。
捕まったのかよ、アイツ。
正直もう少し粘ってほしかったけど、「ガキ4人」てことだし、他の子たちを盾にされたら捕まらざるを得ない、か…。


「お前らがやったのか!?」
「やったのは僕さ!コイツらは関係ないよ!」
「良い度胸だ」


本当に一瞬だった。
ガキのアイツを軽々と持ち上げ、飛行船の窓から放り投げやがった。
反射的に窓に駆け寄ったあおいちゃん。
そう認識するよりも早く俺も窓に駆け寄り、


「待て!」


あおいちゃんを静止し、窓から飛び出した。

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bkm

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