キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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天空の難破船


身勝手な願い


「念のため、このダイニングも閉鎖した方がいいだろう」
「うむ。それじゃあ全員、ラウンジの方へ移ってくれ!」


警視庁の人たちがルポライターの人とウェイトレスのお姉さんを抱えて動き出した。
お姉さんは特に、顔が青ざめているように感じた。


「ね、ねぇ!私たちどうなっちゃうのかな!?これ以上感染者出ないよね!?」


園子が言う。
大丈夫、なんて…、私には言えない。
いつ誰がどうなるか、ほんとにわからないから…。
そんなこと思いながら、重い足取りでラウンジに移動した。


「あれ?博士、コナンくんは?」
「あ、ああ、コナンくんなら歩美くん達のところに行ったぞ?」


…そっか。
さっき哀ちゃんがみんなは部屋にいる、って言ってたから…。
ほんとに…、どうなっちゃうのかな…。
その時、


「動くなっ!!」
「誰じゃ!うぬらはっ!?」
「…アンプルは見つかったか?」


あからさまに物騒な人たちがラウンジに入ってきた。
きっと、バイオテログループ、赤いシャム猫だ…。


「この船内に爆弾を仕掛けた。大人しく言うことを聞いていれば爆破したりはしない」


ワンワンッ!!


「これルパン!大人しゅうせいっ!!」


バァン


「きゃあ!?」


拳銃独特の発砲音がラウンジに響く。
…あの人たちが持ってるのは本物の、銃。
無意識に。
ほんとうに無意識に、ウェイターの、快斗くんのいる方に目をやった。


「…」


それに気づいたのか、こちらを見て快斗くんが、まるで動くなと言うかのよう小さく首を振った。


「全乗務員に告ぐ。大至急ダイニングに集まるように!繰り返す!全ての乗務員は大至急ダイニングに集まるように!」


船内放送を聞いて、続々と乗務員が集まってくる。
私たちと乗務員とを左右の部屋に振り分け、乗員乗客が人質となった。
また飛びかかっていきそう、とか、思ったからってわけじゃないけど、隣に立っていた蘭の肩を、無意識に触っていた。


「この飛行船は、我々赤いシャム猫がハイジャックした!全員、携帯電話を出してもらおう!」


その指示通り、テログループの1人が持ってきた袋の中に、携帯を入れた。


「私、持ってない!」


哀ちゃんが博士にしがみつきながらそう言った。
…コナンくんたちは、大丈夫なのかな…。
コナンくんは、たぶん、死んじゃうようなことはない、と、思う。
でも…。
ものすごく危ない目には合うだろうし、死んじゃいそうな思いをするかもしれない…。


「要求を聞こう。金か?それとも服役中の仲間の釈放か?」
「俺達は鈴木財閥に恨みがあるんだ。特にこのじぃさんにな」


赤いシャム猫は、次郎吉さんに恨みがあると言う。


「確かにワシは10年前警察に手を貸した。うぬらの組織を潰すためにな。じゃから人質にはワシがなる。他の者は解放してくれ」
「そういうわけにはいかねぇな」
「何故じゃ!?」
「飛行船はこのまま大阪へ向かう!…警察に連絡しろ。ただし、少しでも妙な動きを見せれば飛行船を爆破する。そう伝えろ!…それと、これは例の殺人バクテリアだ!間違っても俺達を捕まえようなんて思うなよ?喫煙室だけでなく、このキャビン全体に殺人バクテリアが飛び散ることになるからな!」


テログループのリーダーっぽい人が、自分が持っている物をチラつかせながらそう言った。
みんなが黙ったことを受け、もう一度リーダーっぽい人が口を開いた。


「よし、じぃさんだけこっちに来い」
「何?」
「あるんだろう?上に。あの目障りなコソ泥が狙うお宝が。案内してもらおうか」


そう言って次郎吉さんを連れてエレベーターの中に消えて行った。
ビッグジュエルを奪いに行く、ってことは…。
そう思いチラッと快斗くんを見ても、快斗くんは黙って残りのテログループの動向を見ているだけだった。


「何をしてるんですか?水川さん」
「あっ!?」
「…水川さん、まさかっ!」
「な、なんでもないっ!…なんでもないんだって」


そう叫ぶのは、日売テレビのディレクターさん。
あっという間にその人の手はひねり挙げられ、その手のひらは赤く、あのフリールポライターの人と同じような発疹が出ていた。


「違うっ!これはただの蕁麻疹だっ!!」
「そう言えばさっきタバコのにおいがしたわ!喫煙室に行ったのよっ!!きっとそこでっ」
「行ったけど、感染なんかしちゃいない!!現に他のばしゲホゴホッゴホッ!!」


突然咳き込んだディレクターさんに意識が向いているテログループ2人の背後に、蘭と中森警部が近づいた。


バァン


物事にはタイミングというものが存在すると思う。
今は全て、そのタイミングがテログループに向いているようだった。
スカイデッキに行ったはずのリーダーっぽい男の人が戻ってきていた。


「喫煙室に放り込んどけ!」


そう言われ、ディレクターさんを担ぎ上げて、テログループの1人は去っていった。


「…蘭?どうかした?」


私の近くにいた蘭が、珍しく大きなため息を吐いた。


「…なんでもない。大丈夫だよ!」


そうは言うけど、どこか、不安に瞳が揺れている気がした。


「ねぇ、そう言えば子供達がいないんじゃない?」


誰1人、喋ることない静かな空間の中、日売テレビのスタッフのお姉さんがそう口にした。


「子供?」
「ええ…。確かあの子と同じくらいの男の子が3人と女の子が1人いたはず」
「探せっ!!」


テログローブが慌ただしく動き始めた時、哀ちゃんがどこに仕舞っていたのか探偵団バッチを取り出した。


「江戸川くん、あなたたちがいないのがバレたわよ!江戸川くん!江戸川くん!男が2人、探しに行ったわ!あっ!!」
「洒落たことするじゃない」


バチン


「哀ちゃんっ!!」


探偵団バッチを取り上げられ肉を叩かれる、独特な音が響いて。
叩き飛ばされた哀ちゃんに駆け寄り抱き上げた。


「子どもに手を上げるなんて何考えてるのっ!?サイテー!!」


私の声の後、ガチャン、と弾を転送させたような音を鳴らし、銃口をこちらに向け


「今度妙な真似をしたら殺すわよ?」


ウェイトレスの格好のまま、その女の人がそう言った。
抱き上げた哀ちゃんは、まるで動くなって言うかのように、私の腕にしがみついていた。


「大丈夫?ほっぺ…。腫れないといいけど…」
「…うん。お姉ちゃんの手、気持ち良い。ありがとう」


そう言って哀ちゃんが目を細めた。
その直後、リーダーっぽいの人のところに無線が入った。


「ガキ4人、捕まえました」
「連れて来い」


その数分後、コナンくんを先頭に探偵団のみんながテログループに連れて来られた。


「お前らがやったのか!?」
「やったのは僕さ!コイツらは関係ないよ!」


コナンくんの、新一くんの良いところ。
いつでも自信満々で、物怖じしないところ。
でも今はもう少し物怖じした方が、なんて思った直後だった。


「良い度胸だ」


ほんとうに一瞬の出来事。
まるで窓からゴミでも捨てるかのように、コナンくんを掴みあげ、この飛行船の窓から放り投げた。
私は助けるどころか、動くこともできず、ただ、息を飲んだだけ。


「…っ!!」


声にならない声を吐いて、窓際に駆け寄った。


「待て!」


新一くんが放り投げられた先を見ようと、窓から身を乗りだそうとしたら、体を押された。
瞬間、ウェイター姿の快斗くんが、窓から飛び出した。
数秒後、新一くんの瞳のような空の中に、白い白い、翼が広がった。
2人が助かってホッとしたのは事実。
でも…。
…こんなお別れの仕方なんて嫌だ、って。
お願い、戻ってきて…、って。
そんな自分勝手なことを願ってしまった。

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