キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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天空の難破船


きっと今日


「これそっち運んでくれるー?」
「はい、了解でーす」


飛行船内に潜り込み、ウェイターとしての仕事をしていく。
なんでも次郎吉じーさんは大阪到着後、打倒キッドを果たした祝勝会をここで開くようで(しかもテレビ中継つき!)それはそれは高そうな飲み物、食材、食器が運び込まれていた。
乗り込んで来たのはあおいちゃんたちJK3人組と眠りの小五郎、名探偵率いるちびっ子探偵団とその保護者、日売テレビのスタッフ3人とフリールポライター、そして


「キッドが盗聴器を仕掛けていないか念入りに調べておけ!」


中森警部率いる警視庁軍団。
…今回はほぼ知った顔だから、まぁある意味楽。
でもある意味ではこういう時ほど厄介なものだと思う。
それにあおいちゃんは、これがミラクルランドの時並の被害があるかもって言ってたしな。
気を抜けないのは確かだ。


「戻りましたー」
「あ、俺もちょっと今抜けていいですか?」
「え?君もタバコ吸うの?」
「違いますよ!…噂のビッグジュエルを見ときたいな、って、」
「あぁ!うん、良いと思うよ。その代わり10分くらいで戻って来てよね」
「了解っす」


ウェイター仲間にそう声をかけ、スカイデッキに向かった。


「おーおー。『天空の貴婦人』に相応しい場所なわけだ」


見上げれば一面に広がるスカイブルー。
あのじーさん、いつも以上にすっげー金かけて作らせた、って話だけど、このビッグジュエルに見合った作りの船だな。
レディスカイが展示されている前に立つ。
…恐らくこれは読み通り、指紋認証パネルだな。
そこはクリアしてるとして、だ。


チン


これを、どうやって盗むか。
そう思っていた時に、エレベーターが開く音が聞こえた。
振り返ると、あおいちゃんが立っていて。
…さぁて、この子は気づくかな?


「ども」


手をあげ挨拶して俺に、


「ど、どうも…?」


戸惑いながら頭を下げてきたあおいちゃん。
俺が誰なのか戸惑っている、そんな感じだ。


「この船でウェイターやってます。ちょっと仕事を抜け出して、噂のビッグジュエルを見に来たんです」
「あー、なるほど!」
「おっと、ヤバいヤバい。もう戻らないと」


腕時計を見ると、そろそろウェイターの仕事に戻った方が良さそうだった。


「じゃ、ごゆっくり」


そう思った俺は何食わぬ顔であおいちゃんの横をすり抜けようとした。
ところで、


「見つけた」


はっきりとその言葉を聞いた。


「気づかれないと思った?」


声の方に目をやると、ふわり、と、いつものあの笑顔。


「さすがすぎじゃね?俺今、あおいちゃんからの愛を感じちゃったね」
「あはは」


青空の下、黒曜石が輝いて見えた。


「どこでわかったの?」
「そっ、それは内緒だよー」


スーッと俺から目を逸らすあおいちゃん。
…この子、今まで俺の変装に気づいたのはまじで「知っていたから」じゃなく「俺だから」気づいたのかも、なんて。
そんなこと思った。


「あ!そうだ!」
「うん?」
「さっきここの仕掛け見せてもらったんだけど、こう…上に向けて銃を構えると電流がビリッと来る仕掛けが、」
「…まじでぇ…」
「あとあの台座のパネルを操作するとパンチされたり落とし穴落ちたりしてたよ」
「子供のいたずらかよ!」


あのじーさん、ほんっと金かけてくれちゃうよなー。
電流にパンチに落とし穴、ね。
きっとまだなんか仕掛けてんだろう。
予想の範疇だ。


「ま、お楽しみは夕方、だな」
「気をつけてね」


チラッと目をやったら、本当に心配そうに俺を見てくる。
…ほんと、いつでも1番に、俺の心配をしてくれる。


「前も言ったろ?」
「うん?」
「その言葉で俺は百人力だからね」


そう言った直後、


「奴は必ず犯行前に下見にくる」


中森警部はじめ、警視庁の人たちがエレベーターから出てきた。


「俺もう行くけど、あおいちゃんは?」
「わ、私も行く」
「おっけ」


んじゃあ、目立たねーように、さり気なくここを離れるか。
そう思い警部たちに頭を下げ道を開けた。
一度あおいちゃんを見たら俺に倣うように頭を下げて道を開けていた。
そのままエレベーターに向かったらあおいちゃんも俺の後を着いてエレベーターに乗った。
ん、だけど、あおいちゃんの顔が見るからに「ヤバい、バレたらマズい、上手くやらなきゃ、どうしよう」みたいなのが書かれてるような顔になっていて、


「ふはっ」


エレベーターが下に向かって動き出したら、笑いを堪えきれなくなった。


「あおいちゃんは、共犯者には向かねーな」
「…と、突然だったからだよ」


ちょっとムッとした顔であおいちゃんは言った。


「じゃあ俺仕事に戻るから」
「あ、う、うん。私も園子たちのところに戻るよ」
「… あおいちゃん」


エレベーターが完全に下に着く前に、声をかけた。


「明日、会えたら会おうぜ」


それは今言う必要はなかった言葉。
でもなんとなく、そう口にしていた。
俺は本当に悪運が強いと思う。
言うつもりのなかった言葉をあえて今、口にしたことで、


「会えたら、ね」


あおいちゃんのその一言と表情で、確信した。
…今日だ。
きっと今日、あおいちゃんはいなくなる。


「んじゃあ、またな」
「気をつけて」


そう言ってエレベーターから離れた俺は、


to:紅子
sub:Xデー
本文:たぶん今日


一言だけ、紅子にメールした。
直後、了解、とだけ返信がきた。
…全ては今日決まる。
何がなんでも今日、工藤新一に薬を飲ませなければいけない。


「あ、戻ってきた?」
「はい、すみませんでした」
「どうだった?ビッグジュエル」
「んー…ぶっちゃけ普通の宝石よりデケーなくらいしか…」
「ははっ!だよね、きっと私らが見てもそんな感じだよ」
「ほら、戻って来たなら喋ってないで仕事仕事」
「「はい」」


やらなければいけないことはあっても、いかにして成し遂げるか…。
そんなことを思いながら、ウェイターとしての仕事に戻った。

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bkm

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