■「この世界」のお母さん
to:鈴木園子
sub:緊急事態
本文:彼の家に泊まることになりました
「どーいうこと!?」
じゃあ明日江古田駅で待ってる、って言って快斗くんは爽やかに帰宅。
直後テンパった私は園子にメール。
10秒もしないで園子から電話がきて今に至ります。
「そ、それがね、」
園子にさっきの快斗くんの話しをした。
「手ぶらでいいって言われたけど、でもどうなのかな、って思って園子に連絡したのね」
普通に考えたら中学生のお泊り。
本当に手ぶらでいいのかもしれない。
でも泊まりは泊まりでも大晦日と元旦ていう日常とは違う時にしかも異性のお友達の家に!お泊りさせてもらうわけで(おせち料理とかもあるし!)
まさか本当に手ぶらで…!?ってなった私は園子に助けを求めた。
園子もやっぱり手ぶらはちょっと、って言うから、話し合いの結果近所の洋菓子店のマカロンを買って行くことで着地した。
「いろいろありがと!」
「何言ってんのよ!私の方こそありがとう、だわ」
「うん?」
「アイツと違ってちゃーんと報告くれるし、こっちのアシスト100%で返してくれるから私もやり甲斐があるってもんよ!」
「…うん?」
「まぁ、明日楽しんで来なさいよ!」
そう言って園子は電話を切った。
…よくわからないけど、園子がヤル気出して協力してくれることに感謝しかない。
お泊りセットもカバンに詰め(自分の持ってるパジャマの中で1番可愛い物をチョイス!ちなみに下着も1番可愛いのチョイス。念のため…念のため…)明日が来るのを待った。
そしてマカロンも購入して電車に乗ること少し。
「あおいちゃーん!」
江古田駅の改札の向こうで爽やかに手を振って私を待ってる快斗くんを見つけた。
「電車空いててびっくりした!乗り間違えたかと思っちゃった!」
「年末年始とか、お盆とかは人減るからなー」
合流したらナチュラルゥに私のお泊りセットが入ってるカバンを快斗くんが持ってくれた。
えっ、悪いよ、って言ったら、だって俺何も持ってねーから!って笑いながら持ってくれた。
…こういうところっ!!!
「な、なんか緊張してきた…」
快斗くんちが見えてきたら、うわぁ私ほんとに快斗くんちに泊まるんだ!なんて思ってドキドキしてきた。
「だーから、大丈夫だって!そこら辺のオバサンよりちょっと自由奔放なオバサンなだけだから」
快斗くんはそう言って笑った。
「自由奔放なオバサン」で脳裏に浮かぶのは有希子さんの顔で(有希子さんは決してオバサンじゃないけど!)
どんな人かなー、って思いながら、快斗くんに続いて黒羽家に入った。
「たっだいまー」
「おかえりなさーい!…あなたがあおいちゃん?」
「は、はははははじめましてっ!!!お世話になりますっ…!!」
リビングドアから出てきた綺麗な女の人に深々と頭を下げた。
「あ、あの、これっ、うちの近所で人気あるお店のマカロンなんですが、」
「やだ、ありがとう!気使わせちゃってごめんね。…あんた、手ぶらで来てって言わなかったの?」
「えっ!?俺言ったよ、そんなん気にしなくていーって」
「いっ、いやっ、そういうわけにはっ…!」
後でみんなで食べましょう、とお母さんはマカロンを受け取ってくれた。
とりあえず入って入って、と、リビングに通されて紅茶を出されたんだけど…。
「ん?なぁに?私の顔に何かついてる?」
目の前に座る快斗くんのお母さんをジーッと見てたら、見すぎてしまっていたようでそう聞かれた。
「あ!いえっ、すみません…!さっき快斗くんが言ったこと思い出して、」
「え?俺?」
「快斗に何言われたの?」
私が「この世界」で知っている「お母さん」て存在は、工藤くんのお母さんである有希子さんだけで。
有希子さんはそりゃあ元女優って言うだけあって、今もめちゃくちゃ綺麗な人で。
次に見た快斗くんのお母さんは一般人なわけだけど…。
「さっき快斗くん『ちょっと自由奔放なオバサン』て言い方してたけど、」
「え゛っ!?」
「…へぇ、そんなこと言ってたの?」
「でも実際はそんな『オバサン』どころか、すごく綺麗なお姉さんみたいな人だったから驚いちゃって…」
「「……」」
なんで「この世界」の「お母さん」はこんなに綺麗なの!?
ってレベルの一般人代表なはずの快斗くんのお母さんも、有希子さん並みにめちゃくちゃスタイルよくて綺麗な人で。
もしかして「この世界」にはうちのお母さんみたいな三段腹は存在しないの!?
いやでも博士とかなかなか立派な三段腹だし、存在はするのか…。
でもじゃあなんでそんなみんなスタイルいい美人さんなの!?!?
「あおいちゃん」
「は、はい!?」
「今日は自分の家だと思って、ゆっくりして行ってね!」
ニッコリ、と音が出るんじゃないかな、ってくらい綺麗な顔で快斗くんのお母さんは笑った。
…やっぱり、有希子さんも綺麗だけど、快斗くんのお母さんもすごく綺麗!
同じ女だけど、綺麗すぎて微笑まれた私が照れちゃう!!
うわー、うわー、ってなっていたら、隣に座っていた快斗くんが頭を抱えていた。
「快斗くん、どうしたの?」
私の問いに、
「いや…うん、わかった」
って言うわけのわからない言葉を口にした。
えっ、何が?って言ったら、何でもない、って。
「とりあえず客間に案内するから着いてきて」
そう言って立ち上がった快斗くんについて、リビングを後にした。
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bkm