■最後の記憶はあなたであってほしい
スカイデッキに到着したエレベーターは、チン、と、音をたてて扉を開けた。
レディスカイが展示されている前に、誰かいる。
近寄ると、その人も私に気づいたのかこちらを振り返って
「ども」
手をあげ挨拶してきた。
「ど、どうも…?」
その人がこっちに向かって歩いてくる。
え、えぇーっと…?
「この船でウェイターやってます。ちょっと仕事を抜け出して、噂のビッグジュエルを見に来たんです」
「あー、なるほど!」
「おっと、ヤバいヤバい。もう戻らないと」
そう言ってウェイターのお兄さんは嵌めていた腕時計を見た。
その肘のところには絆創膏が貼ってあって…。
「じゃ、ごゆっくり」
お兄さんは私の横を通ってエレベーターに向かおうとしたけど…。
「見つけた」
私の言葉にウェイターのお兄さんはピタッと足を止めた。
「気づかれないと思った?」
そう聞いた私に、
「さすがすぎじゃね?俺今、あおいちゃんからの愛を感じちゃったね」
ウェイターのお兄さんはニヤリ、と笑いながらもう一度、私の方を振り返った。
「どこでわかったの?」
「そっ、それは内緒だよー」
まさかその絆創膏、よく見ると「快斗love」って書いてあるんだなんて言えるわけがない。
「あ!そうだ!」
「うん?」
「さっきここの仕掛け見せてもらったんだけど、こう…上に向けて銃を構えると電流がビリッと来る仕掛けが、」
「…まじでぇ…」
「あとあの台座のパネルを操作するとパンチされたり落とし穴落ちたりしてたよ」
「子供のいたずらかよ!」
ハハッ、と苦笑いする快斗くん。
「ま、お楽しみは夕方、だな」
「気をつけてね」
私がそう言ったら、快斗くんとは全然違う顔をしているのに、快斗くんがよくする柔らかく、優しい顔で、
「前も言ったろ?」
「うん?」
「その言葉で俺は百人力だからね」
お兄さんは笑った。
その時、エレベーターの扉が開いて、
「奴は必ず犯行前に下見にくる」
中森警部はじめ、警視庁の人たちが出てきた。
「俺もう行くけど、あおいちゃんは?」
中森警部たちが話しながら歩いてる最中、ボソボソッと快斗くんが話しかけてきた。
「わ、私も行く」
「おっけ」
快斗くんが警部たちに頭を下げて道を開けたから、それに真似するように私も頭を下げて道を開け、そのまま入れ違いになるように、2人何食わぬ顔でエレベーターに乗った。
…私何にもしてないけど、めちゃくちゃ悪いことしてるような気分なんだけどっ!!!
「ふはっ」
エレベーターが下に向かって動き出したら、快斗くんが笑い声が響いた。
「あおいちゃんは、共犯者には向かねーな」
そう言って、また柔らかく笑った。
「じゃあ俺仕事に戻るから」
「あ、う、うん。私も園子たちのところに戻るよ」
「… あおいちゃん」
エレベーターが完全に下に着く前に、快斗くんは声をかけてきた。
「明日、会えたら会おうぜ」
なんでそんなことを言ってきたのか、ほんとのところはわからないけど。
「…会えたら、ね」
それだけ伝えた。
じゃあ、と、エレベーター到着と共にお互いそれぞれの方に歩き出す。
自分でなんとなくわかる。
今日、の、きっと夜が、ギリギリだ。
キッドの犯行の成功を見届けて、それで…。
「お!あおい来たわね」
「今ちょうどお茶しようかって話してたとこなんだ」
「ケーキもあるわよ!」
「ほんと!?楽しみっ!」
今夜のキッドの犯行が…、キッドのマジックショーが私の「ここ」での最後の記憶になる。
…そうなればいいな、って、思っていた。
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bkm