■ありがとう
工藤新一に如何にして薬を飲ませるか。
最悪、アイツの手足縛って無理やり飲ませるか?
いやでもそれだと吐き出されちまうか。
しかも今後の協力のことを考えて、納得させた上で飲んでもらわねーとなわけで。
さぁどうする、ってなっても答えがでないまま、ベルツリー号乗船の日を迎える。
まぁアイツも乗るだろうし、最悪、あおいちゃんの話をすれば、なんとかなるだろ。
なんて、どこか楽観的にいた。
…そのくらいじゃねーと、焦りに飲み込まれてどーにかなりそうだったのかもしれないって、後にして思う。
ベルツリー号スタッフに紛れ込んで、乗船。
途中、乗り込む直前の階段でコケたあおいちゃんを助けたもんだから、早々とバレたんじゃねーかと、ヒヤッとした。
でもそのままあおいちゃんは飛行船内に入って行ったから、バレてねーと思い、俺もウェイターに変装して船内に潜り込んだ。
ところで、
「げっ」
着信 鈴木のお嬢様
園子ちゃんから電話がかかってきやがった…。
どーすっか、と思いつつも、内容が気になる俺としては、他のスタッフからソッと離れて電話に出た。
「はい?」
「今どこ?」
今オメーのオジサン所有の飛行船の中にいるとは言えるわけがねー…。
「私ら今日飛行船ベルツリー号に乗るんだけど」
「あー、うん、聞いた聞いた」
「今から10分以内にこっち来れる?」
いや、無理だって。
来れる来れないで言うならむしろすでにいるけど、オメーの前に出てけるわけねーって話で。
「何?なんかあった?」
俺の言葉に園子ちゃんは一瞬黙ったけど、
「あおいの様子がおかしいんだけど、」
少し声を震わせながら、
「原因に心当たりない?」
そう言ってきた。
「上手く言えないんだけど、」
「うん」
「ちょっと普通じゃないっていうか、」
「…うん」
「あおい、私らには何にも言わないから、黒羽くんなら知ってるんじゃないか、って、」
そこまで言うと、園子ちゃんは押し黙った。
…もし、俺があの時真実を聞き出さなかったら、あの子はきっと、俺にも本当のことを何も言わずに今この時を迎えたんだろう。
1つ何かが違えば、俺は園子ちゃんと同じ状況だったのかもしれない。
「園子ちゃん」
「なに?」
だからなのか、どこか涙声の園子ちゃんに、
「俺さすがに今日はそっちに行けねーけど…、あおいちゃんと友達になってくれて、ありがとな」
そう伝えずにはいられなかった。
「…何があったか知ってるの?」
「どーだろうなぁ…。全てを把握できてるわけじゃねーけど、」
「でも何かしらは知ってんのね?」
返事をしない俺に、ならもういいわ、と園子ちゃんは言った。
「全部終わったら話聞かせなさいよ?」
「…全部終わったら、な、」
そう言って電話を切った。
全部終わったら…。
それはあの子がここに留まれることになったら、だ。
そのためにはやっぱり、コイツを工藤新一に飲ませるしかない。
胸ポケットに仕舞っていた小瓶を服の上から触る。
効くかどうかはわからない。
もしかしたら、今日が終われば俺も、あの子の全てを、忘れてしまうのかもしれない。
それこそあの子が言っていた、元々ある運命って奴に、戻るのかもしれない。
…例えそうだとしても、何もしないまま、過していい理由にはならない。
ベストは今日のレディスカイがパンドラであること。
次点で工藤新一にコレを飲ませることができること。
最悪なのはそのどちらも失敗に終わること、だ。
「んなことさせるかよ…!」
もう一度、自分の中で気合いを入れ直して、離陸の時を待った。
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bkm