キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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天空の難破船


Xデー


ベルモットと対峙して数日。
ベルツリー急行で不名誉に終わった次郎吉じーさんは、どーしても腹の虫が収まらなかったらしく、今度は飛行船からの挑戦状が(これまたデカデカと)朝刊の見開きを使って出してきやがった。

飛行船のご招待、喜んでお受けします。ただし72歳のご高齢のあなたに6時間も緊張状態を強いるのは忍びなく 夕方飛行船が大阪市上空に入ってからいただきに参ります それまでは存分に遊覧飛行をお楽しみ下さい 怪盗キッド

つくづく元気なじーさんだと思いつつも、そこはやっぱりご老体。
優しい俺は(何せ園子ちゃんの親戚のおっさんだし)配慮という言葉を振りかざした。
でもぶっちゃけこのじーさんくらいわかりやすくビッグジュエルの宣伝してくれると探しやすくて助かるのは確かだ。
そして予告状(というか挑戦状の返事)を出した週の週末、あおいちゃんちに向かった。
一応、キッド関連のことだし、相談だ相談(決してやましい気持ちはない…わけでもない)


「いらっしゃい」


一言だ。
たった一言聞いただけで、この子にいつもとは違う空気を感じた。


「あおいちゃん、なんかあった?」


あおいちゃんと一緒に過ごすようになって4年。
誰より濃い時間を過ごしてきた、って思うからこそ、だ。


「んー…、今テレビで殺人バクテリアのことやってて、」
「あー!あの研究所爆破事件だろ?怖ぇよなぁ…」


そんなことを言いながら、部屋に入ったものの…。
本当にそれだけ、か?


「じゃあ俺のニュースも見た?」


とりあえず空気を変えてみようと、話題を変えた。


「飛行船の挑戦状でしょ?」
「そそ。次郎吉じーさんから誘われちまったから、快く受けたんだけどさ。俺飛行船て初めてかもー。あおいちゃんは?乗ったことある?」
「飛行船に?ないよ」
「えー、じゃあ楽しみだな。2人で初体験じゃん!な?」


そう言った俺の目には、黒曜石が揺れているように見えた。
…これもしかして、って。
確信はないけど、直感的にそう思った。
その後少し、何気ない会話。


「昨日園子と蘭と放課後ボーリングに行ったの」


日常のこと。
別におかしなことじゃない。
それはいつも話していたこと。
…でも。


「また何か悩み事?」
「なんで?」


何がいつもと違うのか?
そう聞かれたらやっぱりこう答える。
あの、楽しそうに笑ういつものあおいちゃんの笑顔じゃない、って。


「ほんとにどーした?」
「…たぶん、だけど、」
「うん?」
「さっきのバクテリアの話、」
「え?あー、殺人バクテリア?」
「うん。…たぶんだけど、あれもお話になってた奴だと思う」


…「たぶん」「お話になってた」…?
つまりその存在は知ってても、読んでない、ってことか?


「たぶん、だけど、映画になったお話だと思う」
「なんでそれは見なかったの?」
「見る前にトラックに轢かれちゃったから」


あぁ、そうか…。
肝心なところが、俺は抜けていた。


「あの映画は確か、飛行船とバクテリアの話。…だった気がする」
「次郎吉じーさんの飛行船か」
「たぶん」


新しいパターンだ。
あおいちゃんが存在を知っている、あおいちゃんの知らない話。
…いや、違うな。
それは考えたくない可能性。
でもこうとも捉えられる。


「もし、映画のお話だったなら、ミラクルランドの時みたいに、すごく大変で…危ないと思う」
「なるほど」


あおいちゃんが「最期を迎える前に見ることが叶わなかった物語」だと。
あおいちゃんは向こうの世界にいないはずの俺と会うためにここに来た。
それはつまり、「向こうの世界では叶えられなかったことを叶えるためにきた」ってことで。
こちらの世界での最期を迎える前に、向こうの世界で見ることのできなかったベルツリー号の事件を体験する、…とも、捉えられる。
て、ことは、だ。
ベルツリー号乗船の日、もしくはその直後にあおいちゃんがいなくなる可能性がある。
そして恐らく、あおいちゃん本人はそれを知っている。


「ま、今回も俺が華麗に盗んで行くから楽しみにしててよ。あおいちゃんも乗るんだろ?飛行船ベルツリー号に」
「…誘われてるけどね」
「じゃー、俺が誰に変装してるか、当日当ててよ」
「とうじつ」
「そ!あおいちゃんのキッド愛が試されんね」


黒曜石が揺れる。
どんな時でも、夜の闇より深い、それでも光を決して失わなかった黒曜石が、不安げに揺れている。


「私は園子よりも年季入ってる、筋金入りのファンだよ」
「お?言ったな?んじゃあ当日楽しみにしてるわ」


そう言ってその日はマンションを後にした。


「珍しいわね。黒羽くんが電話してくるなんて」
「オメーにも知らせておこうと思ってな」
「何かしら?」
「Xデーが決まったみてぇだぜ?」
「…じゃあ、」
「あぁ。恐らく来週末かその直後だ」
「そう」


ベルツリー号の事件。
殺人バクテリアがどう絡んでくるか知らねーが、もう時間がねぇ。


「あなたはどうするの?」
「普通さ。予告通り行動するだけだな。オメーは?」
「私も普通ね。いつも通り過ごすわ」
「後はオメーの薬の信憑性だな」
「そこは当日にならないとわからないことよ」
「…ま、一応オメーにも伝えたぜ?」


そう言って電話を切った。
後は工藤新一に、例の薬を飲ませるかどうか、だ。
いや違うな。
工藤新一に「どうやって薬を飲ませるか」だ。
今アイツに渡したら、恐らくそれで借りはチャラだとか抜かしやがるだろう。
それじゃあ意味がない。
時間のない中で考えるべきこと、やるべきことを脳内で整理し、来たるXデーを待つことにした。

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bkm

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