キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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夢をみていた


もう1人の主人公


「はい!出来た!」


あおいちゃんに手当てされること数分。
不器用な子だなぁ、そこも可愛いんだけど。
なんて思っていたわけだけど、


「こんなにしなくてもさぁ、」
「念には念を、だよ!」


ここまで不器用な子だとは思わなかった…。
軽い擦り傷を包帯ぐるぐる巻きで治療された俺は、ものすげー重傷患者になった気分だ。


「それで快斗くんが聞きたいことってなに?」


救急箱をカバンにしまい終わり、あおいちゃんがおもむろに聞いてきた。


「あ、あー…、それ後で話すわ」


あおいちゃんが読んだ「俺が主人公の本」についての話だし。
いつの間にかすげー打ち解けたとはいえ、さすがにジイちゃんに聞かせるわけにはいかない。
なんて思ったわけだけど。


「これは気が利かなくて申し訳ありません」


何かを察したジイちゃんにそう言われた。


「気が利かないって何がですか?」
「隠さなくてもいいんですよ。ちゃんと聞いておりますから。あおいお嬢様はぼっちゃまの特別な宝せ」
「あー!ジイちゃん!俺ら米花町のあおいちゃんちで下ろしてもらおうかな!?」


さすがに本人に「オメーは俺の特別な宝石だ」なんて言えるわけもなければ、第三者にそんなこと言ってたなんて言われたくもない俺は話をすり替えた。
それが功を奏して、俺たちは米花町で下ろしてもらうことになった。
て、ゆーか、ジイちゃん俺たち(形だけとは言え)別れたこと知らなかったのか…。
だからこそあおいちゃんとあれだけ仲良くなったんだな…。
そして米花町についてあおいちゃんちにお邪魔させてもらうことになった。
飲み物と菓子を出してもらって、いつものようにソファに座った。
用意してもらった菓子に手を伸ばしたところで、


「それで聞きたいことってなにー?」


あおいちゃんが話しを切り出した。


「あー、それなんだけどさー。ほら、あおいちゃん俺が主人公の本って言い方したじゃん?これ美味ぇな!」
「うん、したね。こっちも美味しいよ」
「さんきゅー!…あれさー、俺はわかったけど、工藤新一ってなんなの?」


パリン

あおいちゃんが口にした堅揚げチップスが音を立てて割れた。


「なんなの、って?」
「アイツさぁ、脇役にしてはキャラ濃すぎじゃね?なんなの?この堅揚げも美味いね」
「…………………脇役…では、ない、かなぁ…?」


菓子を味わっていた俺に、ものすげー悩んで出した答えです、みたいな顔してあおいちゃんが言った。


「ダブル主人公、的な?」
「そ、そうそう!そんな感じ!」
「だよなぁ、じゃなきゃあのキャラおかしいもんな」


やっぱりアイツは「主人公」だったか。
それならアイツの周りの人間関係にも頷ける。


「な、何かあった?」
「あった、っていうか、アイツの周りが物騒すぎてただの脇役にしては設定詰め込みすぎじゃねーかと思っただけ」
「う、うーん…」
「あとさー」
「うん?」
「クリス・ヴィンヤードってなんなの?この堅揚げにコーラが合うな!」


あおいちゃん、自分は飲まねーのに、今だコーラを常備してくれてるあたり口元が緩む。


「な、なんなの、って?」
「んー…、あおいちゃんていうより、クリスは工藤新一のなんなのか知ってる?」


チラッと見たあおいちゃんはビビるくらい綺麗に顔面に「困惑」と書いてある。
気がするくらい、困惑した顔をしていた。


「なん、て、言ったらいいかわかんないんどけど、信じられないと思うけどただの女優さんじゃなくて、」
「あ!俺とりあえずクリスが物騒な輩ってのは知ってっから」
「……………」


今度は「顔面蒼白」って顔に書いてある。
いや、書いちゃいねぇけど、見るからに蒼い顔をした。


「もしかして言いたくない系?」
「え?あ、いや……………あ、あのね、」
「うん」
「私は快斗くんが、…キッドが命を狙われるようなこともあるって知ってるよ?」
「…うん」
「で、でもね、それとは別に新一くんも…なんて言うかな、狙われてるのね」
「それは工藤新一や哀ちゃんを小さくした奴らに?」
「待って!哀ちゃんのことも知ってるの!?」
「うん。知ってる」
「なんで!?何があったの!?」
「何が?うーん…、何が、って一言じゃ言えねーけど、早い話、蛇の道は蛇。命狙われてる者同士で手組めねーかな、ってとこ!だから気になるところは全て把握しときてぇんだよな」


そう言った俺の方を見ることなく、あおいちゃんは腿のあたりで両手で握りしめてる、その拳を見ていた。


「もし、」
「え?」
「もし、今この世界で『怪盗キッド』の力になれる人がいるとしたら、それは新一くんだと思う。それは私が『ここ』に来てキッドの話を聞いた時に思ったことだよ?」
「…うん」
「で、でもさー、新一くんは探偵なのね。そんな『怪盗』と手を組むなんて、」
「あー、言い方間違えたな。手組む、って言うか『もしもの時の協力者』になんねーかな、って話!」


最も「もしもの時」ってのは、まさに今なんだけど。
と、までは言う必要はない。


「あ、あぁ、うん。もしもの時の協力者ってことなら、うん。新一くんが1番だと思う」
「だよな」


やっぱりあおいちゃんから見ても俺の協力者は工藤新一で間違いない、ってことだ。
ここまでは順調だ。
でもここで予想外なことが判明。
あおいちゃんが語る、あおいちゃんが知っている物語の話し。


「クリス・ヴィンヤードが実はシャロン・ヴィンヤード本人!?」
「シャロンはそもそも歳を取らない、のかな?そんな感じに書かれてて、」
「でも世間的にそれはおかしいから自ら葬ったわけか…」


…あの女、何年生きてやがんだ。
そりゃあ「キッド」を狙ってる奴らからしたら纏う空気が違うわけだ。
…待てよ?
あのクリス・ヴィンヤードがシャロン・ヴィンヤード本人て言うなら…。


「シャロン、は、ニューヨークの時に、私と新一くんでちょっと…助けた?」
「助けた、って?」


あおいちゃんは躊躇いがちに話しを続けた。


「その時シャロンは通り魔に変装してたんだけど、撃たれて弱ってた時に、階段から落ちそうになってさ。そこを助けたことあって、」


シャロンの「変装」ってことは、やっぱり…。


「私たちは私たちで、蘭が熱出して倒れちゃったこともあったから、通報もせずにそのまま見逃したんだけど、」
「だから『私の小悪魔ちゃん』ね」


通報しなかったこと。
何より命を助けた恩を感じたわけか。
闇に生きてきたなら尚の事、無償で助けられるなんて考えられるわけがねぇ。
それはそれは強烈に心に残っただろうよ、工藤新一共々な。


「あおいちゃんたちとクリスの間で起こったことはわかったけど、もう1つ聞いてい?」
「え?な、なに?」
「クリスが言う『シルバーブレット』の意味はわかる?」


俺の言葉を聞いて、「空いた口が塞がらないという言葉を実際にやってみてください」って言われた人間かの如く、それはそれは綺麗に口を開けたあおいちゃん。


「だ、だめだよ!」


が、突如叫びながら立ち上がった。


「快斗くんは自分がやるべきことがあるでしょ!?それは新一くんがやらなければいけないことで、快斗くんまでそこに関わっちゃったら」
「命を狙われる?」
「っ、」
「俺たぶんもう狙われてっから!」


クリスからはまだ命、ってわけじゃないかもしれーが、狙われてんのは確かだ。


「どっちみち狙われんなら、状況把握しときてーんだよね」
「そ、れは、」
「教えてくれる?クリスが何で工藤新一を『シルバーブレット』って言うのか」


観念したかのように、あおいちゃんはもう一度腰を下ろしながら大きく息を吐いた。


「クリスは、…ベルモットはたぶん、組織を壊滅させたいんだと思う」
「ベルモット?」
「クリスのコードネームだよ」
「あぁ…。それでベルモットは自分のいる組織を壊滅させてぇの?」
「…はっきり書かれてたわけじゃないけど、それでもベルモットは組織を狼人間に例えて、狼人間を唯一倒せる武器の名前で呼んでるんだよ。…だから新一くんが小さくなったことも、組織のメンバーには隠してる」
「なるほど」


だから同じ幼児化した哀ちゃんが邪魔だったわけか。
工藤新一1人であるなら、隠し通せなくもないだろうが、2人となると必ず穴が出てくる。
だからクリスは工藤新一を選んで行動に移した、ってところだな。


「ごめんなさい」
「え?何が?」


脳内で考えがまとまった俺に、あおいちゃんは懺悔するかのように俯きながら言った。


「快斗くんがクリスと関わるようになったのはきっと私のせいだよ。私が『ここ』に来なかったら快斗くんが狙われることなかったもん!ただでさえキッドも狙われてるのに本当にごめ」


この子はいつも、俺の心配を真っ先にしてくれる。


「これだけははっきりさせときてーんだけど、あおいちゃんのせいなんかじゃねーからな?」


抱きしめたあおいちゃんは相変わらず小さくて、他の誰でもなく「俺が」守ってやるんだ、と。
そう思った。


「あおいちゃんのおかげで、今こうして全て話が繋がった」
「…私のおかげ?」
「うん。なんで『協力者』が工藤新一なのか、はっきりわかったよ」


アイツしかいないとは思ってはいた。
でも「本当にそうなのか?」という思いもなかったわけじゃなく。
だけど今の会話を聞いて、それは確信に変わる。
これはもう間違いない。
未来のあおいちゃんが言っていた「協力者をつくる」は、「あおいちゃんが読んだ世界のもう1人の主人公、工藤新一の協力を得ること」だ。


「アイツは共犯者にはならない。だけど俺にとっては誰より厄介で誰より信頼できる協力者だ」
「…そ、れは、」
「逆に聞くけど、あおいちゃんが俺の前で泣かなくなったのは俺のせいだよな?」


俺の言葉に、手の中の黒曜石が揺れる。


「あおいちゃん、すっげー泣き虫なのに、全然泣かなくなったよな」
「わ、たし、は、」
「まぁ俺としては?彼氏以外の男の前で泣かないってのは高評価でしかないわけだけど。…だからこそ、またあおいちゃんが俺の前で泣けるような男になるから」


ぐっ、と、泣かないように何もない空間を睨みつけるあおいちゃん。
工藤新一にどういう協力をさせるのかはまだわかんねーけど、それをさせた暁には、なんて。
そんなことを思いながら、久しぶりにあおいちゃんのおでこにクチビルを落とした。

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