キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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夢をみていた


籠絡


爆風から逃れてハンググライダーで飛ぶこと少し。
近くの人気のなさそうな川辺に降りた。
速攻でジイちゃんに連絡(回収してもらわねーとだし!)
ジイちゃんが駅で降りたらレンタカー借りて回収してくれる手はずになった。
現在地を確認して、ジイちゃんが拾いやすい場所に移動するため森を突っ切ることにした。
…ところで、あおいちゃんから、すっっげぇぇ心配してる、逆に俺が心配になるようなメールが着た。
とりあえず無事を伝えることと、聞きたいことあるとメールした。
それから2〜3分後、あおいちゃんから電話がかかってきた。


「はいはーい、快斗くんですよー」
「無事!?」


出た直後、すげー食い気味に安否確認してくるあおいちゃんに笑いが出た。


「ケガは!?ない!?」


爆発時の熱風で少しのやけどと、粉々に大破し飛んできた列車の残骸に、切り傷やらはあるっちゃーあるけど許容範囲内の傷だ。


「まぁ大丈夫大丈夫」
「ケガしたの!?今どこ!?」


でも俺のニュアンス的にケガしたと感づいたあおいちゃんは食いついてきた。


「え?今?こ、こはー…、山の中?」
「どこの山っ!?」


あおいちゃんは口調も穏やかなポーッとしてる子だ。
の、わりに語気が強い。


「なんで怒ってるの?」
「怒ってるんじゃないの!ケガしたなら手当てしなきゃでしょ!今どこ!?」


疑問に思って聞いたら、あー、俺のためかー、なんてのん気に思った。


「大丈夫、大丈夫」
「大丈夫じゃないでしょ!?救急箱持ってきてるから、私そっち行く!!だから今どこ!?」


救急箱持ってきてるからって言った?
は?救急キットじゃなく、救急「箱」?


「あおいちゃん、もしかしてあの大荷物、救急箱入ってたから?」
「そーだよ!何があってもいいように、包帯や消毒液もあるし、熱冷まシートも胃腸薬もあるから!だから今どこ!?」

ピッ

「あはははは!!!」


思わずミュートにして爆笑してしまった。
マジかー!
あの子のあの大荷物、ナニゴトかと思ったら箱ごと持って来てたからかよ!
普通コンパクトにまとめた救急キットだろ!
俺がケガしなかったり合流できなかったら持って来損じゃねーか!
なのにあの大荷物!!
もー、ほんっと、俺の癒やしだ。


「快斗くん?」

ピッ

「あー、ごめんごめん。あおいちゃん今駅でしょ?」


ミュート解除して、話を続けた。


「園子ちゃんたちのところから抜けれそ?」
「それは大丈夫、じゃないかなぁ?」
「じゃあさぁ、俺のツレが今その辺でレンタカー借りてるはずだから、あおいちゃん回収してもらうように言うよ」
「わ、わかった…!」


そう言ってあおいちゃんと電話を切り、ジイちゃんに連絡した。


「芳賀様、ですか…」
「うん。あおいちゃんは全部知ってっから大丈夫」


渋るジイちゃんにそう言うと、納得してくれたようだった。
あおいちゃんは青子こそ駄目だけど、他の人間にはコミュ力も普通にある子だし大丈夫だろう。
ただジイちゃんがあおいちゃんをあんまりよく思ってないのが気にかかるが…。
そんなこと思いながら、沿道近くの木の影に身を潜めてジイちゃんの車を待ったわけだけど。


「快斗くーん!!」
「ぼっちゃま!」
「おー、こっちこっち!」


2人に回収され、車の後部に滑り込んだ。
俺が後ろに着たことで、あおいちゃんも後ろに乗りそのままケガを見せる流れになった。


「ほら、大したことねーだろ?この程度なら治療するまでもねーって!」


腕を少し捲って擦り傷を見せた。


「ですがぼっちゃま。きちんと確認して、」
「だーから大丈夫だって!」
「快斗くん」
「うん?なに、いってぇぇえっ!!?はっ!?今殴った!?なんでっ!?」


隣に座っていたあおいちゃんが俺の顔面を殴ってきた(しかもグーで!)


「痛いに決まってるでしょ!?ケガしたんだよ!?バカじゃないのっ!?ケガしたら痛いんだよっ!!」


いや、今痛いのは完全に君に殴られたせい…。
なんて言えない俺(だって初めてあおいちゃんに殴られた。しつこいようだけどグーで!)


「ちゃんと治療して!痛いの我慢するとかバカじゃないの!?」


あ、あおいちゃん泣きそう。
そう思ったらもう俺が折れる一択なわけで。


「うん、ごめん。でも次から殴るならパーにして」


何度でも言うけど、グーパンは痛ぇって話で(しかも顔面)
折れはするけどそこだけはきちんと伝えた。


「でも『話してわからない相手には、拳の中に消しゴムを持ってるイメージのまま顔面パンチ』って言われたから」
「それ誰に?」
「蘭と京極さん」


嘘だろ。
この子にグーパン教えたの米花の女拳士と襲撃の貴公子かよ…。
どーりで良いパンチなわけだ…。


「それ俺以外に使おっか」
「でも話してわからないなら、」
「いやうん、わかる。わかったから、俺以外にしよ」
「ほんとにわかった?」
「わかったわかった」
「寺井ちゃん!快斗くんわかったみたいです!」
「えぇ、言質取りましたね」
「え?」
「うん?」
「………『ジイちゃん』?」
「はい?どうしました?」


…おかしいと思うの俺だけか?


「あおいちゃんとジイちゃん、面識あったっけ?」
「え?駅からここに来るために初めて会ったんだけど?」
「…でも今ジイちゃんて、」
「あぁ!『ぼっちゃまにはそう呼ばれてます』って言ったから私もそう呼びます!って!ねぇ?寺井ちゃん?」
「えぇ、先ほどお嬢様と話していてそうなりました」


…待って?
お嬢様?
あおいちゃんは俺からしたらむしろお姫様だけどな?
ジイちゃんが「お嬢様」??


「何の話ししてここまで来たの?」
「そんなこと言えるわけないじゃん!」
「そうですよ、いくらぼっちゃまと言えども、そんなこと」


ねー?みたいに仲良く言い合う2人。
…おい、ほんとに待ってくれ。
まさかあんな言い方して反対してたジイちゃんまで籠絡されたとか言うのか?


「ジイちゃん、あおいちゃんは」
「いいんです」
「え?」
「寺井は誤解しておりました。こんなに素晴らしい方とは知りもせずに、」
「やめてくださいよー!恥ずかしいなぁ!」


ちょっと顔を赤くしてるあおいちゃん。
…怖い。
この子怖い。
違う世界からやってきたって、まさかほんとはこの世界の人間1人残らず籠絡させるためにやってきたわけじゃねーよな?


「とりあえず治療するから、腕出して!」
「え?あ、あぁ、うん」


戸惑う俺を他所に、実に良い笑顔のあおいちゃんに包帯ぐるぐる巻きにされるのは数分後のこと。

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bkm

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