キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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漆黒の特急


あの子のために


「こちら月下の奇術師。『悪い奴ら』に狙われるレディのお名前を伺っても?」


変装を終わった頃合いを見計らったかの如く、ケータイに電話がかかってきた。
本来名前表示されるはずの画面には「この電話には必ず出ろ」とだけ表示されていたあたり、工藤新一の圧を感じた。


「彼らは私を『ヘルエンジェルの娘』と呼ぶかもしれないわ」
「ははっ!」
「なに?」
「私の知り合いにも、天使とサキュバスのハーフがいるんですが、案外天使は多いんだと思いましてね」
「…」


名探偵のあの言い方、命狙われてそうな雰囲気あったけど、哀ちゃんの声は案外落ち着いていた。


「あなたには義理も義務もない」
「うん?」
「逃げるなら今よ」


哀ちゃんははっきりとそう言ってきた。


「阿笠博士のところのお嬢さんでしょう?」
「っ、」


俺の言葉に、ケータイ越しに息を飲んだのがわかった。


「確かに私には義理も義務もないですが、あなたに何かあったら、それこそ私の天使が悲しむんですよ」
「…」
「理由はそれで十分だ。違いますか?」


俺の言葉に少しの沈黙の後で、


「あおいお姉ちゃんは、聞いてたほど男を見る目がなかったわけじゃなさそうね」


もう一度はっきりとした口調でそう言った。
…まぁ、以前の事件でも思ったことだ。
けど本当に、アイツは哀ちゃんに話してたんだと確証した。
最も哀ちゃんのことで俺に縋らなければいけないほど、江戸川コナンと一蓮托生な幼児化した人間だからこそ、って考えれば不思議じゃねーしな。


「名探偵よりは良い男だと自負してますが?」
「さぁ?それはどうかしらね」


少しの談笑ののち、今回の作戦の復唱をした。
敵さんが8号車に発煙筒をいくつも用意していたらしい(名探偵からの情報)
列車内を煙で包み火事と錯覚させた一般客と哀ちゃんを隔離しようとしてるから、そこに乗っかって直接敵さんと話しつけるのが俺の役目だそうで。


「大概危ねー橋渡らせようとすんなー、アイツも」


その作戦内容に思わず本音が漏れた。


「だから下りるなら今だと、」
「貸し1つじゃ足りないですよね?やっぱり貸し2か3くらいだとあなたから名探偵に伝えてください」
「…後悔しても知らないから」
「『あの子』を悲しませる以上の後悔はないですから大丈夫ですよ」


そう言った俺に、哀ちゃんは聞こえるか聞こえないかくらいな声で、ありがとう、と言ってきた。


ピロン


通話中、預かっていたメール受信音が響いたから念のためケータイ見てみたら、たった一言「準備は?」とだけ来ていた。
誰から、なんて考えるまでもない。
…アイツ、人に物を頼むっつーことしたことねーのかよ?
まぁ俺は?
俺はね?
優しいし、それもこれも全てあおいちゃんのためだと思えばこのくらいなんてことねーけど??
でも世間一般じゃあ、これはアウトだろ。
なんてことを思いながら「いつでも」とだけ送った。


「…始まったわ」


イヤホンから哀ちゃんの声が聞こえたと同時くらいに、通路から叫び声が響いてきた。


「私のショーの開幕ですね」
「今は別れていたとしても、」
「はい?」
「あなたに何かあったら、悲しむどころじゃないと思うわ」
「…あの子はそういう子だからな」
「気をつけて」
「えぇ。…それでは、イッツ・ショータイム!」


通路に出ると、煙ですでにパニックになってる乗客でごった返していた。
…この人混みを掻き分けて、最後尾まで行け、ってか。
ったくよー、人遣い荒すぎじゃね?


「ゲホッ、ゲホッ!」


煙にまみれて誰もいない8号車に来たはいいけど、だいぶ煙くて普通に咳が出た俺の真後ろから、


「さすがヘルエンジェルの娘さんだ。よく似てらっしゃる」


声をかけてきた男がいた。
振り返るとそこには、


「はじめまして。バーボン、…これが僕のコードネームです」


もう1人の新キャラ探偵、安室透が立っていた。
…まさか哀ちゃんの敵がオメーかよ。
まだなんか隠してるとは思ってたけど、これはさすがに想定外すぎるだろ。
インカムから聞こえてくる哀ちゃんの言葉を、成長した哀ちゃんの声で安室に向かって話す。
この男との会話から、FBIも噛んでるような案件だと知る。
そりゃあ、名探偵も休学っつーことにして姿くらまし続けねーとなわけだ。
ここで素朴な疑問が1つ。
あおいちゃんは江戸川コナンの正体も知っていた。
でもこんな濃い設定の組織に絡んでる奴が「俺が主人公の本の脇役」なのか?って話しで。
これ後々本人に確認してみねーとだな…。


「では手を上げて移動しましょうか?8号車の後ろにある貨物車に」


なんて考えてる間に、安室に銃を突きつけられた。
…クリス・ヴィンヤードといい、なんだって日本で銃を、なんて思った時にフッと過ぎったのは、コイツもしかしてクリスの仲間なんじゃねーのか?ってこと。
て、なると、クリスと工藤新一はガッツリ関わってるってことになるわけだし、いろいろ話が繋がってくる。
今までの全部が全部、ここに来てタネ明かしされてる気分だな。
そんなこと思いながら、貨物車まで歩いた。


「さぁ、その扉を開けて中へ」


俺が貨物車の中へ入ったのを確認し、


「ご心配なく。僕は君を生きたまま組織に連れ戻すつもりですから。この爆弾で連結部分を破壊してその貨物車だけを切り離し止まり次第、僕の仲間が君を回収するという段取りです」


連結部分に爆弾を置いた。
…けど、この貨物車は…。


「でも大丈夫。扉から離れた位置に寝てもらいますので、爆発に巻き込まれる心配は」
「大丈夫じゃないみたいよ」
「え?」
「この貨物車の中、爆弾だらけみたいだし。どうやら段取りに手違いがあったようね」


予めジイちゃんに貨物車にハンググライダー仕込んでもらった時にわかったこと。
この大量の爆弾は、確実に哀ちゃんを殺すためのものだろう。


「仕方ない。僕と一緒にきてもらいますか」
「悪いけど断るわ」


そう言い勢いよく扉を閉め、すぐ逃げる準備をした。
合図は連結部分の爆発音。
直後この貨物車も爆発するだろう。
先にハンググライダーを広げたら爆風で羽をヤラれる。
タイミングがキモだ。
貨物車の1番後ろの扉に駆け寄り、その瞬間を待った。
直後、後ろの連結部で爆発音がした。
3…2…1…今だ!


「っ!?」


あの名探偵のことだ。
タイミング的に橋の中央で爆発させるだろうと思った通り、俺が列車から飛び出した直後、貨物車が爆発。
爆風が収まってからハンググライダーを広げた。


「ケホッ」


確かに貸し作りに行こうとは思ってたが、こんなデケー爆弾用意してる連中だとか先に教えろっての!


ピリリリリ


ハンググライダーで飛び始めて直ぐ、着信音が鳴った。


「悪い、悪い!何か超ヤバかったらしいな?」


出たらオメー俺の命なんだと思ってんだよ?って言う軽い口調の名探偵で。


「おい、聞いてねぇぞ!何なんだ、あの危ねー奴らはよぉ!ハンググライダーを貨物車に隠してなかったら、今頃黒焦げだぞ!?」
「オメーのことだから、そんぐれぇ用意してると思ってよ」


当たっただろ?なんて言う名探偵。
…ったく、俺の評価高いのか低いのかはっきりさせろよな。


「んじゃまぁ、オメーの言う貸し1ってことで」
「バカ言ってんじゃねぇよ!命救ってやったんだからケチくせーこと言ってねぇで、貸し3くらいにはしろ!」


なんて言う俺の言葉に答えることなく、


「あ、そのケータイ。ちゃんと探偵事務所に送り返してくれよな」


あのクソヤロー、一方的に言って切りやがった…。
あの俺様男…覚えてやがれ…!
そう思いながら、自分のケータイに手を伸ばした。

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bkm

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