■あなたは私の
放課後、直ぐにマンションに戻って快斗くんに電話。
そしたら今から米花町に来るって言って。
「い、いらっしゃい…!」
「おっ、じゃまっ、しまーす!」
快斗くんがうちに来たのは5時を過ぎたくらいの頃だった。
「快斗くんが次郎吉さんのベルツリー急行に乗るって聞いて、」
「あー、園子ちゃんから?そうそう。今朝返事したんだよな」
快斗くんにお茶を出してソファに座った後で、すぐさま本題に入った。
「あ、あのね、」
「うん」
「私、」
「うん」
「その話知らない!!」
「…うん?」
どう伝えてみようもなくて、快斗くんにそのままを伝えたら、快斗くんがちょっと裏声で返事した。
「知らない、って、」
「だ、だからね、キッドの犯行でしょ?でも私が知ってる中にベルツリー急行での犯行なんてないの」
私の言葉に快斗くんは一瞬目を伏せた。
「じゃあここからはあおいちゃんすら知らない物語、ってわけね」
そしてニヤリ、と笑ってそう言った。
「そう言われるとそうなんだけどさ、」
「なるほどなるほど。何が起こるかは蓋を開けてからの…いや、列車が動き出してからのお楽しみ、って奴だな」
顎を擦りながら、どこか楽しそうにも見える顔で快斗くんはそう言った。
「あ、あと、ね、」
「うん?」
「転校生が来たんどけど、その子がなんか…怪しい」
ついでだし、関係ないかもしれないけど、世良さんのことも伝えておこうと思った。
「怪しいって何が?」
「んー…、女の子なんだけど僕ッ子で、中性的な綺麗な顔立ちしてる、…蘭の話だと、真剣に勝負したとして蘭が勝てるかどうかわからない子で、」
「は?蘭ちゃんと互角かそれ以上の女の子ってヤバくね?」
「そうなの!しかもその子、女子高生探偵してて、」
「うわぁ、しかも探偵かよー…」
私の言葉に、快斗くんは頭を抱えた。
「やたら私たちに絡んでくるし、新一くんと仲良いのかとか聞いてきたりするし…。ベルツリー急行のこともだけど、世良さんもたぶん、」
「あおいちゃんが読んでいないストーリーに出てくる人物」
最後まで私が言う前に、快斗くんは感づいてくれた。
快斗くんが言った言葉に、大きく1つ頷いた。
「おもしろくなってきたな」
呟くようにそう言った快斗くんの顔は、私の知ってる「快斗くん」の顔というより、「キッド」の顔だと思った。
「あ、あの、さ、」
快斗くんは、新一くん同様、物語の主人公だから死んじゃうなんてこと、ないと思う。
でも、「死んじゃう」ってことがないだけで、大怪我をしてしまうかもしれない。
元々、私の知っているお話から少しずつズレが生じていた。
しかも今回はもう、私が知らないお話だ。
だからいつ何が起ころうが、誰にもわからないし、不思議じゃないと思う。
「無理しちゃ、ダメだよ?」
だからなのか、そんなことを口にしていた。
「俺のこと心配してくれるの?」
「あ、当たり前じゃん…!」
「えー、嬉しい!それだけで百人力だぜ?」
あははー、なんて快斗くんは爽やかに笑うけどさ。
でも快斗くん…キッドの命を狙うような組織を相手にしてるんだからほんとのほんとに「大丈夫」なんて言えないと思う。
「あ、じゃあついでに、聞きたいことあんだけど聞いてい?」
「聞きたいこと?」
快斗くんを見ると、それはそれは爽やかな、快斗くんとおつきあいする前はよく感じていたマイナスイオンを放つ笑顔で、
「あおいちゃんさー、全部初めから知ってたんでしょ?なんでキッドと初めて会った時あんな話したの?」
「あんな話?」
「キッドに言ったでしょ?俺が初恋だ、って!」
そう聞いてきた。
「………………」
「………おーい、起きてるー?」
「ハッ!」
目の前で手をひらひらさせた快斗くんに止まりかけた思考が強制的に戻ってきてしまった。
「快斗くんそろそろ帰る時間じゃない?」
「そういうすっとぼけ方するの?」
さすがにあからさますぎだって、と快斗くんが笑う。
…だってあの時は快斗くんが先にすっとぼけたから私もすっとぼけてしまえってなったんだし何より私から言うつもりなんてなかったからまさかこんな全部包み隠さず話すようになるなんて思いもよらなかったから別の人として考えて話したわけだしそんなだって私バカじゃないの初恋の人にあなたが初恋ですってバカじゃないのだってそんな初恋だなんて言うつもりなんてそんなそんなバカじゃないのバカじゃ
「ふはっ!」
突然快斗くんの柔らかい笑い声が響いた。
「ごめんごめん、困らせたかったわけじゃねーんだけど、いろいろ気になったんだよな。あれ?そういえばあの時、みたいな感じで!」
だから気にしないで、なんて快斗くん言うけどさ。
でも別れた元カレに本人に言ったつもりないのに(厳密には本人て知ってたけど!)「私の初恋なのって言ったよね?」って聞かれた私の身になって!
気にしないなんてできないから!!
「だからごめん、て。もう聞かないから。ね?」
「んぐっ」
ね?なんて柔らかく笑いながら言う快斗くんを見て変な声が出た。
おつきあいして慣れてしまっていたのか、当たり前に思ってしまっていたけど、快斗くんにこんな風に柔らかく微笑まれながら、ね?なんて言われて反論できる子いるの!?
いねーよな!?(昨日見た暴走族アニメの影響)
「じゃ、まぁ、俺は俺でミステリートレインに乗るけど、あおいちゃんも気をつけてね」
「…今回はコナンくんたちと別行動なんだ」
「そうなの?」
「うん。私たちは一等客室で、コナンくんたち少年探偵団はちょっとランク下げた客室を抑えた、って園子言ってたよ」
「なるほど。ま、俺は俺の仕事をしましょう?」
そう言って快斗くんは帰って行った。
ミステリートレイン…、大丈夫だとは思うけど、一応、念のために紅子ちゃんに連絡しておくことにした。
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bkm