■私の知らない物語
ミラクルランドの事件が無事解決し、夏休みも終わり、新学期が始まる。
「席つけー。今日は転校生を紹介する」
私のクラスに転校生がやってきた。
「僕の名前は世良真純だ。よろしく」
蘭と園子の話だと、この世良さんを痴漢と間違えた園子に反応して撃退しようと蘭が空手を繰り出したら、びっくりするくらい華麗に避けられたらしい。
つまり、空手で都大会優勝する蘭と同レベルかもしくはそれ以上の実力者ってことなわけで。
「てゆーか、女の子じゃん!痴漢と間違えるとか園子酷くない?」
「違うんだって!あの子、私服がめちゃくちゃ男っぽい服装なの!」
「ふーん…」
確かに顔は、まぁ、男顔、だけど、すごく綺麗な顔だと思う。
蘭と同じくらいの強さ。
女子高生探偵って言う頭の良さ。
自分を「僕」って言うキャラの濃さ。
何より、
「なぁなぁ、蘭くん」
「園子くんはそう思うのかー」
「なるほど、君たちは、」
やたらと私たち、特に蘭(ここポイント)に絡んでくる謎の中性的美少女転校生。
…私の(なんちゃって)女子高生探偵の感がピカーン!て光った。
この人、絶対私が読んでないところに出てきたメインキャラだと思う!
キッドが出てくる話はそれはもう何度も繰り返し熟読したけど、それ以外はパラパラっと読んだり飛ばしたりしてたから…。
て、なると、その部分に出てきた人でもおかしくないと思う!
女子高生、ってことは、敵じゃないと思うけど、探偵ってことなら、新一くんにとって邪魔にならないかが問題なわけで。
…ううーん、これは本人に聞いてみた方がいいのかな?
でも何を…?
そもそも世良さんのことより、まず快斗くんとどうなの、って話で。
快斗くん=キッドって気づいた?気づいたよね?気づいたんだよね??
でもまぁ、久しぶりにメールしてみるのは、ありかもしれない。
「あおいくんは、工藤新一くんと仲が良いのかい?」
そんなことを考えていたら、世良さんが話しかけてきた。
「仲が良い、って言うか…まぁ、うん、仲が良い、かな?」
「ふぅん。もしかして工藤くんの彼女とか?」
「それはない」
世良さんて何か…、探るように話す人だと思う。
探偵だからと言われたら仕方ないかもしれないんだけど、それがちょっと、壁を作らせるような…。
「あおいにはもう心に決めてる彼がいるからねー」
スッ、と私と世良さんの間に入ってきて園子がそう言った。
「あのねー、園子。私たち今はそういうんじゃなくて、」
「『今は』ってことは、前に何かあったんだな?」
「えっ?」
「そうなのそうなの。この2人今も両想いなくせに、何故かあおいが頑なに拒否してるのよ」
「ちょ、園子!」
「じゃああおいくんの元カレってところか」
「そそ。江古田高にいるんだけど、まーこれがおもしろい男でさぁ、マジックも上手いんだけどね。何より身体張ってあおいを守ってくれるなかなか根性ある奴で、」
「園子!あんまりベラベラ喋ってると、本人に言うからね!?」
もう!と思って園子に注意したんだけど、
「あ、大丈夫大丈夫。アイツ今ホトトギス作戦遂行中だから!」
「ほ、ほととぎす?」
意味不明なことを言われた…。
「なんだい?ホトトギス作戦て?」
「ちょい耳貸して」
世良さんの質問に園子が耳打ちして答えた。
「あー、なるほど。あおいくんは押しに弱そうに見えるし効果ありそうだな」
「な、なんの話?」
「こっちのことよ、こっちのこと!」
ニシシ、と笑う園子。
ホトトギス作戦…ホトトギス…ホトトギスって言ったら、鳴かぬなら、のアレが出てくるけど。
前に授業でその雑談を聞いた後で新一くんから「あおいは鳴かぬなら焼いて食べようホトトギスじゃね?」って言われたんだよね、失礼しちゃう。
いくらなんでも食べないよ、ホトトギス。
なんて思ったことを思い出した。
そしてその日の放課後、
「ベルツリー急行?」
「そそ!その一等席!」
蘭と園子の3人で帰ってる時に、園子から電車乗らない?ってお誘いをされた。
なんでも年一で走らせてる電車を、特別に今回走らせるって。
「なんで今回特別に走らせるの?」
「ベルツリー急行って目的地までノンストップなミステリートレインなんだけど、そのノンストップな電車に次郎吉おじ様がビッグジュエルを乗せるって言ったのよ!」
「ビッグジュエル、ってまさか、」
「そう!キッド様もそれに乗ってきて、盗みに来るって!だからおじ様に即頼んで一等客室取ってもらったの!」
「そんなの知らないっ!!」
園子が教えてくれた情報に思わず反応した。
「そりゃあそうでしょうよ。昼におじ様からメール着て直ぐ席取ってって言ったばかりだもの!で、さっき確認したらおじ様から確保したってメール着てたのよ」
「そう言うことじゃなくて、」
世良さんのことだって、おかしいって思ったんだ。
そして今回のことも…。
私の知らない話が進んでいってる。
「あれっ?スタバ寄らないの?」
「ち、ちょっ、と、快斗くんと電話を、」
「いってらっしゃいっ!!」
これ一応、快斗くんに報告した方がいい気がする。
それも早めに。
そう思った私は、放課後スタバ行こうぜって言ってたけど、急遽1人で帰ることにしたら、園子が親指立てて見送ってきた。
「家に帰って電話するだけだけど、」
「してこい、してこい!!」
チラッと蘭を見たら苦笑いしながら、
「じゃあ、あおいはまた明日ね」
そう言われた。
手を振る2人に私も軽く手を振り、快斗くんに連絡すべく足早にマンションへと向かった。
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bkm