キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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探偵たちの鎮魂歌


貸し


YOU CRY。
横浜海洋大学横浜犯罪研究会。
あおいちゃんの前情報で俺が横浜海洋大学に着いたのは午後2時を優に過ぎた頃。
午後5時前には名探偵がここに辿り着く、らしい。
予定通り俺は「白馬探」としてここでアイツらと合流する。


「の、前に、だ」


まずこの大学を簡単に下調べ。
一応、迅速にアイツらを誘導出来るようにしておきたい。
そう思った俺は早めに大学を訪れ、構内を歩いて回った。
4時には下調べも終わり、ちゃっかり構内のカフェでケーキなんて食ってるわけだけど。
…そーいやあおいちゃんて、進学志望とかなのかな。
その前に半年後をクリアしなきゃなんねー、ってのはわかってるけど、それはクリアさせる気満々だし?
てなったら、その後のことも考えるわけで。
かなり前に聞いた将来の夢の「一生懸命生きる」って言ってたのも、今となっちゃー納得がいく。
期限が決まってる分、その時まで懸命に、ってことだったんだろう。
でもそれがクリアになった先は?
俺はプロマジシャンになるつもりでいるから、進学する気はない。
けどあの子は、どーしたいのか、そんなことを考えていた。


「それも全部、俺だけじゃなく協力者くんの頑張りあっての未来だけどな」


テーブルに置かれていたケーキを食べ終わった午後4時45分。
協力者である名探偵と合流すべく立ち上がった。
そしてあおいちゃんの情報通り、掲示板の前には江戸川コナン=工藤新一と西の高校生探偵服部平次がいた。


「横浜犯罪研究部」
「え?」
「あ?」


突然声をかけられたことで、名探偵と西の高校生探偵は俺の方を振り向いた。


「Crime Research of Yokohama。僕はこのクラブが限りなく正解に近いと思います」
「…なんや自分?」
「僕は白馬探。キミと同じ立場の人間ですよ。…いろいろな意味でね」
「同じ立場やと?」
「警視総監の息子で、高校生探偵やってるんだよね?」
「あぁ。小学生探偵のキミには負けるけどね」


そう言って笑ったら、明らかに「俺」には見せないような顔を見せたコナン。
…俺ももし探偵だったら、なんて一瞬思ったが、俺が探偵なんてあり得ねーし、その考えは脳内から消した。


「オヤジが大阪府警本部長の俺と同じ、っちゅうわけか」
「それだけじゃないさ」


そう言って2人に(園子ちゃんからパクッた)IDを見せた。


「僕の大切な人もミラクルランドにいてね。ま、無駄話は歩きながら。時間の浪費はそれこそcry!泣く羽目になる」
「は、はは…」


嘘は言ってねーけどな。
あおいちゃんには当初ミラクルランドに行かないことを薦めたが、それを振り切り行っただけじゃなく、まんまとIDまで着けちまったようだからこっちも前情報通りに分刻みでこなしてくしかない。
そうして3人で横浜犯罪研究会を尋ねた。


「おい!誰かいぃひんのか?…おーい!」


服部が何度かノックしても返事がない。
だがノブに手をかけるとあっさりとドアは開いた。
室内に入り電気をつけ辺りを見渡すと、


「大した資料やなぁ…」


ところ狭しと事件ファイルが並べてあった。
壁にはあおいちゃんから聞いてた通り、歴代の部長と思われる人物の写真と、メンバーの写真が飾られていた。


「なぁ、見ろやこの写真」
「研究会のメンバーのスナップらしいね。撮っといた方がいいね、この写真」
「せやな」


…いいぞ、順調に聞いていた通りに話を進められている。
そして服部のケータイが鳴り、犯人と会話。
ここからはノーヒント、って話だったな。


「あれ?キミたち…」


服部の電話が終わったタイミングで、部室に部員らしい、男女2人組がやってきた。


「何か、用かい?」
「いやー、俺たちはそのぉ、」
「来年この大学を受験するつもりなのでちょっと見学を」


名探偵を見てたせいか、探偵ってもうちょい口達者じゃね?って思ってしまったが、こういうサポートも「俺」の役目なんだろう。


「ねぇねぇ、お姉さん!あそこに並べてある写真なぁに?」
「え?あぁ…。左から、歴代の部長の写真よ」
「じゃあなんで3代目の部長さんの写真を外しちゃったの?」
「「え?」」
「だってほら!1番最後の写真の横に止め金具がついてるし、3番目の写真より後ろの写真の横からちょっとずつ日焼けしてない壁が見えてるじゃない?これってなにかの理由で3代目の部長さんの写真が外されて、後の写真を順番にズラしてかけた、ってことだよね?違う?」
「「…」」


名探偵の言葉に2人が顔を見合わせた後、困惑した表情のまま、口を開いた。


「除名処分になったんだ。伊藤さんは」
「あーぁ!確か伊藤次郎さんでしたっけ?」
「いや、伊藤末彦さんだけど知ってるの?」
「えぇ、まぁ…。確か、この人ですよね?」
「違うわ。この人よ」


さり気なーく、犯人の情報を聞き出す俺はめちゃくちゃ役に立ってると思う。
これは貸しだぜ?名探偵。
白馬として警視庁の人間に電話で聞き込みをしている、というフリをした。
…だってこれ、とっくに調べ上げて手帳に書き込み済な内容なんだから当然だ。


「どう?学食で食事でもしないかい?血糖値が下がるとどうにも頭の回転が…」


あおいちゃんの話だと、この後いろいろバッタバタになるみたいだし?
さっきケーキ食ったけど、それはそれだ。
これから身体を張ったバトルアクションが待ってる身としては腹ごしらえってのは必要だと思う。


「アホゥ!そんな暇あるかい!こっちは電話待ってんねん!『武士は食わねど高楊枝』っちゅうしな」
「でも、『腹が減っては戦は出来ぬ』とも言いますよ?それにキミが調べようとしてることはもうわかりましたし」


伊藤末彦についてすでに書き込まれてる手帳を見せ付けたことで観念したようで、3人で学食に行き腹ごしらえをすることにした。


「で?伊藤末彦ってどんな人?」


文句言ってたわりに、服部もガッツリ食うようで。
まー、食べ盛りだしな、俺たち。
ってことで一時休戦。
メシ食いながら話を進めた。
伊藤は馬車道で起きた現金輸送車襲撃の犯人として指名手配されているから部室から写真を外された、と。


「興味深いのはそれだけじゃない。彼は大学を卒業後、投資顧問会社を経営していたんだが、その会社『Far East Office』でも殺人事件が起きているんだ」
「なに!?」
「どうだい?興味深いだろ?」
「よっしゃ!!早速行ってみようやないか!その『Far East Office』っちゅう会社にな!」


腹も膨れたことで、伊藤末彦の会社「Far East office」へと向かった。
当初時短のためにバイクで、とも思ったが、白馬っぽくねーし、何より「3人で移動」が厳しくなるため公共交通機関で大学に来ていた俺。
他2人もそうだったようで、ここから3人でタクシーに乗り込むことにした。
現在時間は6時27分。
…恐らく、スーパースネークは運行休止され、そろそろゲート付近でひったくり犯と格闘、ってあたりだろう。
向こうには蘭ちゃんがいるからそこら辺は心配してねーけど、問題は「うっかりゲート外に出た」なんてオチにならねーかってとこだ。
こればったかりは無事を祈るしかねーな…。


「あ、ここですね」


伊藤末彦のオフィスに着くと、玄関前には「関係者以外の立ち入りを禁ずる」の張り紙がしてあった。


「禁じられると、」
「入ってみたなるんが、」
「探偵の性」


俺探偵じゃねーけど、なんて心の中でツッコミつつ、中へ入っていった。
…ここからが正念場だ。


「殺害されたのは西尾正治。Far East Officeの営業部長。ライフルで狙撃されたらしい。社長の伊藤とは大学時代の同級生」
「てことは、」
「西尾も犯罪研究会におったんとちゃうか?」
「…ご明察。来たまえ」


そう言ってケータイを取り出したら、


「おい!それ俺のケータイやないか!」


すかさずツッコミ入れられた。
だってこうすることで名探偵に白馬を怪しませる必要があるみてぇだし?


「お前いつの間に!!」
「見たまえ。この写真の最前列。中央にいるのが当時部長だった伊藤末彦。その右隣が殺害された西尾だよ」
「ねぇ…。伊藤さんの左隣の女の人は?」
「あぁ…。その女性は清水麗子。彼女もこのオフィスに勤めていたらしいけど、すでに自殺しているよ」
「え!?」
「自殺やて!?」
「警察から任意の事情聴取を受けていた期間中にね」
「西尾の射殺事件のことでか?」
「かなりキツク取り調べられたらしいよ?」


そしてこのお姉さんが、実は生きてて、凄腕スナイパーだ、と。


「ここがその狙撃事件の現場」
「少し埃を被ってるけど…」
「事件当日のまんまみたいやな」
「まぁその時はこのブラインドも窓も開いてたらしいけどね」


そう言って閉まっていたブラインドに手をかけた。
西日が差し込んだことで、死体があった位置がはっきりと見えた。


「あのビルのトイレだよ。犯人が西尾を撃ったのは。使用した銃はチャーターアームスAR−7。スコープ、そしてサイレンサーつき。そのトイレに落ちていたらしいよ?8発分の薬莢がね。…犯人は装弾数である8発の弾丸を撃ちつくし、その中の1発が西尾の後頭部に命中、即死だったらしい。…その後、西尾の机から伊藤が書いた現金輸送車襲撃の計画書が出てきたため、生き残った伊藤が指名手配された、ってわけさ」
「ほんで、清水麗子はなんで取り調べられたんや?」
「さぁ?そこまでは」


俺の説明を聞いて現場検証を始めた名探偵。
…しっかり働いてくれよ?
あおいちゃんの命は、オメーにかかってんだから。


ピリリリリリ


その時再び、依頼人からのケータイが鳴った。


「次のステップに進んだようだね、服部くん」
「あぁ、なんとかな」
「解決してほしい事件がわかったかな?」
「西尾正治さん射殺事件やろ?」
「あぁ…」
「おい、まさかあんたの正体、」


そこで電話が切れた。
直後、


ガシャーーン!!


「なんや!?」
「バイク!?」


階下からガラスが割れる音とともに独特なエンジン音が響いてきた。


「良い展開じゃないことだけは、確かだね」


これが清水麗子とそのお仲間のお出ましってわけね。


「なんやコイツら!」


部屋から飛び出し走り出した時、バイクがちょうど俺たちの階にたどり着いた。


「ゲームをおもしろくする、って奴なんじゃないのかな?依頼人が言ってた」
「このままじゃマズイ!二手に別れよう!!」
「よっしゃ!」
「わかった!」


名探偵の指示で服部が途中の部屋に飛び込んで1台消えたのが見えた。
俺と名探偵はそのまま走り続け、服部とは別の部屋に飛び込む。
名探偵があのオバケサッカーボールを蹴り飛ばし、両サイドにあったダンボールに当たり、中にあった缶が犯人めがけて降っていった。
…おいおいおい、俺にもペンキ着いたじゃねーかよ。
容赦ねーな、相変わらず。
名探偵はバイクを引き連れスケボーでビルから飛び出した。


「ちょっとお借りしますよー」


たまたま近くに止めてあったバイクに飛び乗って、その後を追うと、


「マジかよ」


スケボーのまま橋の上、鉄のアーチ部分を走ってる小さな影が目に飛び込んできた。
そして銃声と、名探偵の短い叫び声。
数秒後、川に落ちる音。
…それを見届けたとでも言うかのように、バイクはあっという間に走り去った。


「これも予定通りとはな!」


そう言って川に飛び込む。
これで貸し2つだぜ?名探偵。

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