キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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探偵たちの鎮魂歌


未来を書き換える


あおいちゃんの話は確かに手放しで信じられるものではないと思う。
けど「そうだ」と思って過去を振り返ると、どれも腑に落ち納得出来る数々の出来事があるわけで。
あおいちゃんを信じないわけじゃなく、その事象が信じられるかどうかの問題だとしても、俺はやっぱり信じてしまうんだと思った。


「帰る前に1つだけ確認してい?」


じゃあ全て「そうだ」と考えて気になるのは「怪盗キッド」が唯一「名探偵」と呼ぶアイツの存在。
それはあおいちゃんの言う「怪盗キッドが主人公の本」に登場しているのかどうか…。
それが知りたかった。


「あおいちゃんもしかして、工藤新一がどこにいるかも知ってんの?」
「えっ、な、なんのこと?」


あからさまにキョドり出したあおいちゃんに、これは…、と思った。


「知ってんだな」
「…しっ、知らないよぉ、やだなぁ、新一くんはたぶんどこかで推理してるんじゃない?ってことしか、」


スーッと俺から目を逸して言う姿がもう、全てを物語ってる。


「あおいちゃん」


ドン!


「工藤新一がどこにいるか、知ってんだよな?」
「………わっ、わわわわ私っ、」


なんで壁ドンしたか、って聞かれても、なんとなく?としか言えないけど、俺の壁ドンにそれまで以上に動揺しだしたあおいちゃんの姿が、すげー可愛く見えてしまった。


「俺確か前に聞いたよね?『江戸川コナンと何か関わりあるの?』って」
「…………やっ!ほらっ、それはコナンくんのことを聞かれてるわけで、」
「あー、そういうこと言っちゃうの?」


だからちょっとした出来心で追いつめてったわけだけど。


「何じゃあ今度から俺はあおいちゃんに『何を知ってるか全部話して』って言えばいいわけ?」
「…っ、いやいやいや、落ち着いて、だってそんな」
「だって、何?」


そーいや、あおいちゃんにこういうことしたことねーな、とか。
床ドンされたことあっても、俺がこんな風に追いつめてどうこうって、したことねーよな、とか。
こんな風に追いつめるなんてこと、早々ないと思うし、これはこれでいい機会だ。
この体制じゃ逃げられねーだろうし、気になってたこと聞いてみるかっていう、そんな軽い気持ちだった。


「ねぇ、あおいちゃん。ずっと聞きたかったんだけど、」
「な、なななななななにっ!?」
「俺と工藤新一、あおいちゃんの中では工藤新一の方が大切なの?」


そう聞いた俺に、


「そんなわけないじゃん!快斗くんの方が大切でっ、」


あおいちゃんははっきりとそう言った。
…あ、ヤバい、にやける。


「それ聞けて安心したー!んじゃあ、また連絡すっから!」


ニヤける顔を隠すかのように、足早にマンションを後にした。
…あぁ、なんだ、俺ちゃんと大切に思われてたんじゃん。
工藤新一は「ここでの家族」って言われてたけど、俺は俺でちゃんと「恋人として」思われてたんじゃねーか。
そんなことを思ってその日は帰宅したんだが…。
その翌日、あおいちゃんから会って話せないかと連絡が来た。
そりゃあ俺的にはそんな誘い受けたら、二つ返事でOKなわけで。
だから夏休みってこともあるし、んじゃあ明日そっち行く、なんて伝えたわけだけど。


「現金輸送車襲撃事件の真相…」


予想もしていなかった話をされた。
別れてから初めて、部屋に入ることを許されたから何ごとかと思っていたら、それは確かにかつて俺が、厳密にはキッドが目撃した事件の話だった。
しかも以前深山美術館に盗みに入った後から命を狙われるようになった。
その後ちゃんと宝石も返したってのに、狙われてるもんだから、ぶっちゃけ狙われ続けてる意味がわからずおかしいとは思ってたことが、ここで繋がった。


「それの依頼がおじさん、てゆうか、…新一くんのところに着て、」


でもそれはあおいちゃんには当然話していなかったことで。
この子は本当に、「知っているんだ」と。
紅子から聞いていたし、何より本人から真相を聞いたけど、この時に本当に、心の底から、信じたんじゃないかと、後にして思う。


「だからね、快斗くんも気をつけてほしいってのと、」
「その前に1つ、聞いてもい?」
「え?な、なに?」


だからだろう。
あおいちゃんが何をどこまで知っているのか、きちんと把握する必要があると思った。


「この前の話に戻るんだけどさ」
「うん?」
「あおいちゃんが読んだって言う本。その中で最後俺はどーなんの?」
「…え」
「パンドラのことも当然知ってんだろ?あれがどうなった、とか、そういうこと」
「あ、あー…」


俺の言葉を理解したあおいちゃんは、どこか気まずそうに目を逸らした。


「実は、ね、完結してないんだ」
「え?」
「もしかしたら私が事故にあった後に完結したかもしれないけど…、私は最後はわからないのね」


ごめん、とあおいちゃんは言う。
でもそれは、どうとでも取れるんじゃないかと思う。
あおいちゃんは「本の中の世界」に来たと言う。
そしてその本で起こっていた事件をなぞるように、俺もキッドとなり、犯行を繰り返している。
その犯行もやっぱりあおいちゃんがかつて読んだことのある、知っている物なわけで。
ならば1つの仮説として、ここは「あおいちゃんが読んだ本の中の世界」で、あおいちゃんが読んだ通りに話は進んでいくとも考えられる。
だからあおいちゃんですら知らない、読んでいない部分の、未来の可能性。
それはほんの僅かな可能性かもしれないが、結末はここにいる俺が書き換えられる、とも、受け止められる。


「それだけ気になったから悪ぃな」
「う、ううん!あんまり役に立たないけど、」
「いやいや、そんなことねぇって!で、なんだっけ?深山商事がヤベーって話?」
「そ、そうなの!きっとその人、キッドを殺すつもりで準備してるから、」


未来が書き換えられる。
なら俺は俺が望む未来に書き換えるだけだ。
工藤新一が呼ばれてるってーならちょうどいい。
アイツに恩を売るチャンスだ。
そう思いながら、あおいちゃんから与えられる情報を整理していった。

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bkm

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