キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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カッコつけたい王子と嫌われたくない姫


一世一代の奇跡をキミに


「今の段階で気になったのは『最期の』願いって奴かな」


泣くかもなー、なんて思ったものの、あおいちゃんは涙を流すことはなく、話しを続けていた。


「その前が『トラックに轢かれた』ってのと、『走馬灯』って話だったから、『最期』ってーのはやっぱり、」
「…うん。その人が息を引き取る直前のお願いのことだよ」
「だよな。じゃあ元々いた世界のあおいちゃんは、」
「あ、あー…、まだ生きてる、って。今は…」
「『まだ今は』?」


最期って言葉といい、今の「まだ」って言葉といい、辛うじて生きてる、ってだけの状態、ってところか?


「『ここ』にいる私と、あっちの世界の私は、へその緒みたいなので繋がってるんだ、って」
「へその緒…」
「あっちの世界の私が『ここ』の私にエネルギーを与えてる、みたいなこと言われたんだ」
「…それ誰に?」
「『ここ』に連れて来てくれた人に」
「会えるの?ソイツに」


むしろそんな奴に会えるなら一番手っ取り早ぇじゃねーか、って思ったものの、


「ううん、会えないよ」


まぁ、そうだろうなって返事をされた。


「ただその時は『ここ』の私に、生命の期限を教えに来てくれただけで」
「……………もしかして、それがあと1年、…いや、あと半年ってやつ?」


俺の問いに、


「な、んで、それを快斗くんが知ってるの?」


あおいちゃんは明らかに動揺した。
あの期限がこの事、ってことは、ただ俺の元を、米花町を去るってだけの話しじゃねー、ってことで。


「ね、ねぇ!なんで快斗くんがそのこと知って」
「ごめん、それは後で答えるから、先に俺の質問に答えてくれねぇか?」
「え?」
「…半年後、あおいちゃんはどうなるの?」


そこだけは絶対に、確認しておかなければいけないことだった。


「はっきり半年ってわけじゃなくて、だいたいそれくらい、ってだけなんだけど、」
「うん」
「あっちの世界にいる私の身体が、そのくらいで機能停止する、って言われて…」
「そうなったらここにいるあおいちゃんはどうなる?」
「…消滅する、って言われた」


そう言えば、いつかの工藤新一も言ってたな…。
あおいちゃんが死ぬってことと、消滅するってことはどう違うのか聞いてきた、って。
あれ確かニューヨークの時に聞かれたって言ってたよな?
て、ことは、この子は少なくともその時から、このことを1人で抱えていたことになる。
…まぁ厳密には紅子も知ってたけど。


「…どうして?」
「うん?」
「どうして快斗くんはそのことを知ってたの?」
「あー…、紅子にちょっと、な、」


俺の言葉に、あおいちゃんはそっか、と俯いた。


「あ、でも紅子がベラベラ喋ってるわけじゃねーから、そこは勘違いしないでやってくれ」
「え?」
「俺がアイツに聞き出すためにいろいろ…、まぁアイツのお願い事聞いてやった、ってとこ!」


そうなんだ、と、消え入りそうな声であおいちゃんは呟いた。


「私にはよくわからないけど、新一くんに前に『消滅するってどういうことだと思う?』って聞いたことあったの。そしたら新一くんは『その存在自体がなくなることだから、周りの記憶からもなくなる』って言ってたんだ」
「だから俺に全部忘れるって言ったの?」


あおいちゃんは俯きながら言う。


「その時が来たらね、きっと快斗くんも、私とのこの会話すらも全部忘れられるから、そんなに考える必要なんてないよ」


この子は泣き虫だ。
そこも可愛いと思う。
でも、この子は俺に別れ話をしてから、俺の前で、泣かなくなった。
俺の前で、涙を堪える仕草をするけど、涙は見せなくなった…。
知らなかったとは言え、そう追いつめていたのは、他の誰でもない俺自身だ。
そう思い至ったら、愚かな自分自身がなんだか笑えてきた。


「俺の意思でもなんでもねーところで、勝手に記憶操作されるなんてゴメンだね」


そう言った俺の顔を見てきたあおいちゃんの目尻はやっぱり少し、濡れてる気がした。


「あおいちゃん曰く?俺は何かの物語の主人公、ってことだろ?しかもアニメや映画にまでなっちまうくらいのイケメンな王子様だった、と」
「え?」
「あれっ?もしかしてイケメンじゃなかったの!?」
「あ、いや、イケメンだよ、うん」
「だろっ?その主人公してる俺が、勝手に記憶操作されるがままなわけねーじゃん」
「でも…」
「きっと俺だけじゃねーよ。工藤新一も、その話を聞いたら黙ってねーと思うけどな」


あおいちゃんは大きな目を何度も忙しなく瞬きさせた。


「でもこれではっきりしたな」
「うん?」
「俺はあおいちゃんをこのまま黙って消滅させるようなことしねーよ」


え、とも、何言って、とも、とれるような、そんな表情をしたあおいちゃん。
かつてあおいちゃんが「ここに来たことは自分にとって奇跡のようなこと」って言っていた意味がようやくわかった。
あおいちゃんが奇跡を起こしてここに来たって言うのなら、今度は俺がそうするまでだ。


「その顔は信じてねーな?」
「わ、たし、は、」
「俺は『不可能を可能にする世紀の大怪盗』だぜ?その俺が一世一代の奇跡ってーのを起こしてやるから、大船に乗ったつもりでいてよ」


俺のその言葉に、


「…っ…」


俯いたあおいちゃんが、嗚咽のような声を漏らした。


「ダイジョーブ。俺が必ず、あおいちゃんが望む奇跡を起こしてやる」


そう言って抱き寄せた。
…ものの、胸の辺りをグッ、と押され、


「とっ、友達、は、そういうことしない…!」


はっきりとノーを突きつけられた。


「待って、今の流れは元サヤ戻る流れだったでしょ!?」
「もっ、戻るつもり、ない、し、」
「なんで!?俺のこと嫌いになっちゃった!?」
「そんなことあるわけないじゃん!」
「じゃあいいだろ!?もう1回つきあお」
「だ、だめだって!あと半年、もうそういうことしないって決めたの!」


頑なにノーと言うあおいちゃん。


「…わかった」
「うん?」
「その半年後って奴、クリアしたら初めからやり直そう。もう1回コクるから、そん時つきあお」
「えっ!?」


あおいちゃんから聞きたいことは聞けた。
後はこの情報をどう活かすか、だ。


「ほら、帰るぞー。玄関まで送ってくし」
「いやいや、1人で帰れるし、」
「どーせ俺も下まで行くんだからついでだって!ほら、帰ろうぜ?」


友達はこういうことはしない、と、言いつつも、俺が差し出した手は取るんだから、つまりはそうなんだと思う。
消滅ってのが引っかかって俺とヨリ戻せねーなら、それごと俺が問題解決させてやるしかないわけで。
あと半年。
今まで以上に慌ただしくなる予感がした。

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bkm

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