キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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カッコつけたい王子と嫌われたくない姫


「だから」あの時


「あのね、私『ここ』に来る前に、トラックに轢かれたんだ」


ぽつりぽつりと、一言一言を噛み締めるようにあおいちゃんは語り出した。


「あおいちゃんの親が事故った時のこと?」
「あー…、それもちゃんと、言わないとだね」
「うん?」
「生きてるんだ、私のお父さんもお母さんも。…『ここ』ではないところで」
「…え?生きてる、って、どゆこと?だってあおいちゃん、」
「…ちゃんと話すよ。初めから、全部」


俺の顔を見ながらそう言うあおいちゃんは、すでに泣きそうな顔をしていた。
それは今から5年近く前に起こったことで、今でもその日を覚えてると言う。


「その日は本当についてなくて、学校帰りにイヤホンがんがんに音楽聞いてたから、直前までトラックが近づいてることに気づかなかったんだ」


思い出しながら語るあおいちゃんは、ここではないどこかを見ているようだった。


「そこはね、どっちが上でどっちが下かもわからないような空間だったんだけど、声が聞こえたの」
「声?」
「『最期の願いを叶えてあげる』って言う、声が聞こえた」
「最期の、願い」
「うん。だから私は願ったんだ。…『怪盗キッドがいる世界に行って、彼と恋がしたい』って」
「それ、って、」


あおいちゃんが言う言葉を、脳がすぐに理解するのは難しかった。


「ほんとはずっと、知ってたんだ。『私がいた世界』で快斗くんは、…『怪盗キッド』は、私が小さい頃から本で描かれて、テレビアニメにもなっていたし、映画化もされてた。幼稚園、とか、小学生くらいの私の、大好きな人、だったんだよ」
「ちっ、ちょっと待って!は?え?ごめん、整理させて。何?キッドの映画化?なんてしてねーよな?だいたいテレビアニメって何?俺そんなん知らねーんだけどっ、」


確かに「怪盗キッド」は人気がある。
でもだからってキッドを題材にした映画やましてテレビアニメなんて聞いたことがない。
そもそもあおいちゃんの言い方は…。


「『ここ』にはないよ、テレビアニメや映画化されたキッドのお話なんて。でも『私がいた世界』では怪盗キッドである快斗くんが、…幼馴染の中森さんのことが好きな快斗くんが主人公の本があったんだよ」


ここでまた1つ、パズルのピースがハマったような、そんな錯覚が起こった。


「本の主人公は怪盗キッド。神出鬼没の大怪盗。でも実際は殺された初代・怪盗キッド、彼のお父さんの仇を討とうとしてる、マジックが得意な高校2年生の男の子のお話」
「…親父のことも知ってんの?」
「全部、読んだから」


あおいちゃんは、そして紅子も言っていた。
「俺がいるから」ここに来たのだ、と。
俺はそれを「米花町」のことだと思っていた。
けど「怪盗キッドがいるこの世界」のことで、あおいちゃんはそれこそ出逢う前から、キッドの正体を知っていた、ってことだ。


「その中の俺は、青子が好きだって?」
「…快斗くんだけじゃないよ。お互いがお互いを好きって、描かれてた」


だからだ。
だからあおいちゃんは、青子のことを初めから警戒していたんだ。
俺がした表面上の対応だけじゃ、納得ができなかったんだ。
あおいちゃんの言葉に、今までの全てが腑に落ちていくような、そんな気がした。


「全部、知ってた。快斗くんがキッドなことも、…中森さんを好きなことも。…でも、最期の願いが叶うって言うなら、逢ってみたかった。だからお願いしたの。『この世界に来させて下さい』って」
「…だから『キッドに逢えて本当に嬉しかった』?」
「え?」


俺の言葉に、真正面から俺を見据えた黒曜石は、少し潤んでいるように見えた。


「今のところまでを整理すると、俺とあおいちゃんは生まれてきた…世界?つーかが違って、あおいちゃんのいたところでは『俺』がエンタメになってて、その『俺』は青子を好きってことになってる、でOK?」
「…ま、まぁ、そん、な、感じ、かなぁ?」
「だよね」


ぶっちゃけ手放しで信じられるか?って話だけど。
そこはもう、奇想天外な魔法を見たし、どういうカラクリか高校2年生が小学生のガキになった姿も見ちまった俺としては、「そういうことが起こったとしても今さら驚かない」ってのが正解だと思う。


「う、疑わない、の…?」
「え?」
「だ、って、信じられないと思う、よ?」
「だから言ったでしょ?どんな話しでも、俺は受け入れるよ」


そう言った俺に、あおいちゃんは泣きそうなほど顔を歪めた。

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bkm

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