キミのおこした奇跡ーAnother Blue


≫Clap ≫Top

カッコつけたい王子と嫌われたくない姫


本音の話し合い


8月24日午後9時15分。
何故ここに来たのか?と聞かれたら、いると思ったから、としか言えない。
俺の正体を知っていると言うのであれば、あの子はきっと、ここに来る。
そう思った。


〜♪〜♪


「雨上がりの夜空にピッタリですね」


ほらな、と思いながらその横に降り立った。
漆黒の瞳を揺らしながら、


「怪我、してないですか?」


そう聞いてきた。


「心配ですか?」
「そ、りゃあ、生死不明、って報道されてた、し、」
「の、わりに、」
「え?」
「あおい嬢。あなたは私がここに現れたことに驚きませんでしたね」
「…そ、れは、」
「まるで私が無事なことを知っていたかのようです」


紅子は「契約だから」と言った。
恐らくその紅子から、俺の無事を伝えたんだと思う。
だからこその今だと思うしな。


「きっ、今日はどうしたんですか?」


少し声を上擦らせて、あおいちゃんはそう話題を変えてきた。
だからたぶん、今の質問は図星、ってところだろう。


「答え合わせをしようかと思いまして」
「答え合わせ?」
「様々な可能性を考えました」
「はい?」
「そうでなければいいとも思った。でもそれは巻き込まないようにという、あなたのためではなく、…あなたに嫌われたくない私の身勝手な思いだった気がしたんです」


そう。
俺がキッドだと、…犯罪者だと言わなかったのは、あおいちゃん自身の安全よりも何より、犯罪者だと発覚した後に、あの黒曜石から拒絶の色を見たくなかったからだと、今にして思う。
でもそうやって保身に入ることで、

ーねぇ!俺はちゃんとあおいちゃんのこと幸せに出来てる?ー
ーいつか自分の目で確かめられるといいねー

あの姿を、自分の目で確かめられなくなる可能性があると言うのであれば、他の誰でもない「俺が」進むしかない。
だから…。


「答え合わせしようぜ?あおいちゃん。俺の正体に、気づいてたよな?」


あおいちゃんの目の前でキッドの衣装を脱ぎ捨て、黒羽快斗として現れた。


「…っ」


あぁ、やっぱり、って…。
そりゃあいきなりキッドが俺になったんだから、驚きはするだろう。
でも本当にそれだけ。
なんで?とか、どうして?とか。
当たり前に出てくるであろうはずの言葉を、あおいちゃんが口にすることはなかった。
だからやっぱり、この子は知っていたんだ。
それもたぶん、かなり前から…。


「これが俺があおいちゃんに隠してた秘密。…言えば巻き込むことになる。だから絶対に言うつもりはなかった。共犯者にさせるつもりは毛頭ないから」


漆黒の瞳は、不安そうに揺れていた。


「でも、俺自身に秘密があったから、あおいちゃんに隠し事があるってわかってもそれを聞くことが出来なかった」
「そ、れは、」
「だってそうじゃねーか?自分は隠し事あるのに、あおいちゃんの隠し事は教えろなんて、聞けるわけねーだろ」
「快斗くん…」
「だから言うつもりもなかったし、あおいちゃんの隠し事も俺からは聞くつもりがなかった」


見上げた夜空は、すっかり雨雲が消えていた。


「けどやっぱり俺、あおいちゃんのことならなんでも知りたいし、教えてほしいし、もし困ってることがあるなら力になりたいって思ってる。そりゃあ今はそんなこと言う権利ねーけど」


今は別に恋人ってわけでもなくて。
今さらそんなこと言われても、ってなってもおかしくない言葉なことに、自分で言って笑えてきた。


「だから『俺』から真実を聞きたくて、こうしようと思った」
「…しんじつ、」
「そう。…怪盗キッドは俺だよ。あおいちゃんはそれを知ってたよな?それもたぶん、ずっと以前から。…あおいちゃんは、何を隠してるの?」


あおいちゃんは俺の言葉に、目線を下に落とした。
口を開きかけては閉じてを幾度となく繰り返した後で、大きく1つ、息を吸い込んだのがわかった。


「言っても、信じないと思うよ、」
「ふはっ!あおいちゃんさー、よく考えてよ」
「え?」
「普通、高校生のガキが怪盗キッドなんて信じねーだろ?…でもあおいちゃんはそれを受け入れてくれていた」
「だってそれは、」
「同じだよ」
「…同じ?」
「そう。だから俺も、他人が信じねーような話しをこれからあおいちゃんがしたとしても、俺はそれを受け入れるだけだ」


俺の言葉に、漆黒の瞳を見開いてこちらを見るあおいちゃん。
その右手を、きつく握りしめたように見えた後、


「あのね、私、」


ようやく、カッコつけたい男と、嫌われたくない女の本音の話し合いが始まった。

.

prev next


bkm

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -