キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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カッコつけたい王子と嫌われたくない姫


心から


「今の段階で気になったのは『最期の』願いって奴かな」


快斗くんは本当に、冷静に私の話を聞いて、分析しようとしていた。


「その前が『トラックに轢かれた』ってのと、『走馬灯』って話だったから、『最期』ってーのはやっぱり、」
「…うん。その人が息を引き取る直前のお願いのことだよ」
「だよな」


快斗くんは普通に話してるように見えて、脳内フル回転ですっごい考えているんだろうと思った。


「じゃあ元々いた世界のあおいちゃんは、」
「あ、あー…、まだ生きてる、って。今は…」
「『まだ今は』?」


私が話す言葉の1つ1つにアンテナを立てて、より自分が理解できる方へと会話を広げていってる。
そんな感じがした。


「『ここ』にいる私と、あっちの世界の私は、へその緒みたいなので繋がってるんだ、って」
「へその緒…」
「あっちの世界の私が『ここ』の私にエネルギーを与えてる、みたいなこと言われたんだ」
「…それ誰に?」
「『ここ』に連れて来てくれた人に」
「会えるの?ソイツに」


俺も会いたい、なんてノリで快斗くんは聞いてきた。


「ううん、会えないよ。ただその時は『ここ』の私に、生命の期限を教えに来てくれただけで」
「……………もしかして、」


私の言葉に快斗くんは片手で口元を覆いながら、


「それがあと1年、…いや、あと半年ってやつ?」


そう聞いてきた。


「な、んで、それを快斗くんが知ってるの?」
「やっぱりそのことだったのか…」


そう言う快斗くんの顔つきが、どこか変わった気がした。


「ね、ねぇ!なんで快斗くんがそのこと知って」
「ごめん、それは後で答えるから、先に俺の質問に答えてくれねぇか?」
「え?」
「…半年後、あおいちゃんはどうなるの?」


顎に片手を当てながら、快斗くんは私を見てきた。
…ここまで話したなら今さら秘密にすることもない。
そもそも快斗くんは期限のこと、知っていたし…。


「はっきり半年ってわけじゃなくて、だいたいそれくらい、ってだけなんだけど、」
「うん」
「あっちの世界にいる私の身体が、そのくらいで機能停止する、って言われて…」
「そうなったらここにいるあおいちゃんはどうなる?」
「…消滅する、って言われた」
「消滅…」


快斗くんは何かを考えるかのように俯いた後で、


「なるほどなぁ。それが半年後、ってことか」


呟くようにそう言った。


「で、でもさ、」
「うん?」
「…そんなに考える必要、ないよ」
「え?」
「だって、さ、…どうせ私は『消滅』するんだから…」


それは悲しいとか、そういうことじゃなくて。
ただ「そうなんだ」と受け入れるしかないことで。


「私にはよくわからないけど、新一くんに前に『消滅するってどういうことだと思う?』って聞いたことあったの。そしたら新一くんは『その存在自体がなくなることだから、周りの記憶からもなくなる』って言ってたんだ」
「だから俺に全部忘れるって言ったの?」


そう聞いてくる快斗くんの顔を、見ることが出来なかった。


「その時が来たらね、きっと快斗くんも、私とのこの会話すらも全部忘れられるから、そんなに考える必要なんてないよ」


俯いた私に、快斗くんがどんな表情をしているのかはわからない。
でも快斗くんが小さく笑ったような気がした。


「俺の意思でもなんでもねーところで、勝手に記憶操作されるなんてゴメンだね」


そう言う快斗くんを見たら、月明かりの中でもはっきりとわかるほど、ニヤリと笑っていた。


「あおいちゃん曰く?俺は何かの物語の主人公、ってことだろ?しかもアニメや映画にまでなっちまうくらいのイケメンな王子様だった、と」
「え?」
「あれっ?もしかしてイケメンじゃなかったの!?」
「あ、いや、イケメンだよ、うん」
「だろっ?その主人公してる俺が、勝手に記憶操作されるがままなわけねーじゃん」


自信たっぷりに言う快斗くん。
それはいつかの新一くんのようで…。


「きっと俺だけじゃねーよ。工藤新一も、その話を聞いたら黙ってねーと思うけどな」


あの時の新一くんも確か、快斗くんはそれを嫌がると言っていた。


「でもこれではっきりしたな」
「うん?」
「俺はあおいちゃんをこのまま黙って消滅させるようなことしねーよ」


目の前の快斗くんは夜空に浮かぶ星よりも輝いて見える。


「その顔は信じてねーな?」
「わ、たし、は、」
「俺は『不可能を可能にする世紀の大怪盗』だぜ?その俺が一世一代の奇跡ってーのを起こしてやるから、大船に乗ったつもりでいてよ」


ね、と、快斗くんはウィンクしながら言ってきた。
…本当はずっと、ここに来たこと間違いだったんじゃないか、って思ってた。
中森さんを好きになる快斗くんや、快斗くんを好きになる中森さんの邪魔してるだけなんじゃないか、って、思ってた。
「ここに来たい」じゃなくて「中森青子になりたい」って言えば良かったんじゃないか、って、思ってた。
快斗くんの言葉は、叶うわけない、って思う。
いくら快斗くんが「主人公」でもそんなことできるわけがないもの。
でも…。
他の誰でもない、今こんなあいまいな関係なのに、それでも他の誰でもなく快斗くんが私のためにそう言ってくれたことが、何よりも嬉しくて。
やっぱり、最期に『ここ』に来れて良かったんだ、って。
本当に、心から、そう思えた。

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bkm

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