キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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カッコつけたい王子と嫌われたくない姫


変わらないあなた


「あのね、私『ここ』に来る前に、トラックに轢かれたんだ」


雨雲はすっかりどこかに消えて、真夏の星空がキラキラと降り注いでいた。


「あおいちゃんの親が事故った時のこと?」
「あー…、それもちゃんと、言わないとだね」
「うん?」
「生きてるんだ、私のお父さんもお母さんも。…『ここ』ではないところで」
「…え?」


快斗くんは本当に驚いた顔をしている。
だってそれは、私が快斗くんに初めて吐いた嘘で、そもそも快斗くんが私と仲良くしてくれるようになったきっかけだから。


「生きてる、って、どゆこと?だってあおいちゃん、」
「…ちゃんと話すよ。初めから、全部」


私の言葉に、何度か瞬きをした後で快斗くんは真剣な顔つきをした。
…今からもう5年近く前のことになるけど、あの日のことは、今でも覚えてる。
あの日は本当についてなくて、イヤホンがんがんに音楽を聴いて歩いていたから、跳ねられる直前まで気づかなかった。


「快斗くんてさ、走馬灯って知ってる?」
「…死ぬ前に見るっていうアレ?」
「うん…でも実際はさ、悔いたり、思い返したりすることがない人間は、走馬灯なんて見ないんだよ。走馬灯なんかじゃなく、…できることなら『次はこう生きたい』って思いが駆け巡るだけなんだ」


だから私は、死ぬ直前に見た映画のポスターの『彼』に逢いたいって、願った。


「そこはね、どっちが上でどっちが下かもわからないような空間だったんだけど、声が聞こえたの」
「声?」
「『最期の願いを叶えてあげる』って言う、声が聞こえた」
「最期の、願い」
「うん。だから私は願ったんだ。…『怪盗キッドがいる世界に行って、彼と恋がしたい』って」
「それ、って、」


快斗くんが、本当に、本当に驚いた顔をしていて。
やっぱり言わない方が良かったかも、とか。
そんなこと思いながら、大きく1つ、息を吸った。


「…ほんとはずっと、知ってたんだ。『私がいた世界』で快斗くんは、…『怪盗キッド』は、私が小さい頃から本で描かれて、テレビアニメにもなっていたし、映画化もされてた。幼稚園、とか、小学生くらいの私の、大好きな人、だったんだよ」


私の言葉に、


「ちっ、ちょっと待って!は?え?ごめん、整理させて。何?キッドの映画化?なんてしてねーよな?だいたいテレビアニメって何?俺そんなん知らねーんだけどっ、」


すごく動揺した。
自分が生きて、生活してる世界が、誰かに取っては紙の中の世界だったんだ、なんて。
信じられるわけないし、こうなって当然だと思う。


「『ここ』にはないよ、テレビアニメや映画化されたキッドのお話なんて。でも『私がいた世界』では怪盗キッドである快斗くんが、…幼馴染の中森さんのことが好きな快斗くんが主人公の本があったんだよ」
「………待って、本当にちょっと理解が追いついてないんだけど、青子が何?」
「…本の主人公は怪盗キッド。神出鬼没の大怪盗。でも実際は殺された初代・怪盗キッド、彼のお父さんの仇を討とうとしてる、マジックが得意な高校2年生の男の子のお話」
「…親父のことも知ってんの?」
「全部、読んだから」


快斗くんは頭がいい。
たぶん私が話してることは、普通では理解されないし、そんな簡単に状況整理なんてできるわけがない話だ。
でも直ぐに、私の言っていることを理解したようで、


「その中の俺は、青子が好きだって?」


一番、認めたくない質問をしてきた。


「…快斗くんだけじゃないよ。お互いがお互いを好きって、描かれてた」


私の言葉に、なるほど、と小さく呟いた後で、快斗くんは考えるような素振りをした。


「全部、知ってた。快斗くんがキッドなことも、…中森さんを好きなことも。…でも、最期の願いが叶うって言うなら、逢ってみたかった。だからお願いしたの。『この世界に来させて下さい』って」
「…だから『キッドに逢えて本当に嬉しかった』?」
「え?」


快斗くんは真っ直ぐ私を見てそう聞いてきた。


「今のところまでを整理すると、俺とあおいちゃんは生まれてきた…世界?つーかが違って、あおいちゃんのいたところでは『俺』がエンタメになってて、その『俺』は青子を好きってことになってる、でOK?」
「…ま、まぁ、そん、な、感じ、かなぁ?」


だよね、と快斗くんはうんうん頷きながら言う。


「う、疑わない、の…?」
「え?」
「だ、って、信じられないと思う、よ?」


私の言葉に、快斗くんは一瞬目を見開いたけど、


「だから言ったでしょ?どんな話しでも、俺は受け入れるよ」


いつものように、柔らかく、優しい笑顔を見せた。

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bkm

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