キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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カッコつけたい王子と嫌われたくない姫


答え合わせ


8月24日午後9時10分。
降り続いていた雨も止み、マンションの屋上からは見える空に薄っすら星が表れ始めた。
どうしてそうしようと思ったかはわからない。
でも聞かれたらきっと、来るような気がしたから、って答えると思う。


〜♪〜♪


そう言えば、いつもトランペットを吹きに来る時、現れたよな、とか。
そんなことを考えながら吹いていた。


「雨上がりの夜空にピッタリですね」


やっぱり、って。
音もなく降り立ったその姿を見ながら、そう思った。


「怪我、してないですか?」
「心配ですか?」
「そ、りゃあ、生死不明、って報道されてた、し、」


私の前でキッドでいる時は、快斗くんのいつもの声とは違っていて。
今も、やっぱり、快斗くんの声じゃない声で話している。


「の、わりに、」
「え?」
「あおい嬢。あなたは私がここに現れたことに驚きませんでしたね」
「…そ、れは、」
「まるで私が無事なことを知っていたかのようです」


キッドのモノクルはスコーピオンに撃ち落とされたはずだ。
でも今キッドは、いつものようにモノクルをつけている。
だからやっぱり少し、その表情がわかりにくい気がした。


「きっ、今日はどうしたんですか?」


ちょっと上擦る声は、仕方ないと思う。
慌てて変えた話題がそれだったことに、直ぐに後悔した。


「答え合わせをしようかと思いまして」
「答え合わせ?」


そう尋ねた私の方に、キッドはゆっくりと近づいてきた。


「様々な可能性を考えました」
「はい?」
「そうでなければいいとも思った。でもそれは巻き込まないようにという、あなたのためではなく、…あなたに嫌われたくない私の身勝手な思いだった気がしたんです」
「…え?」


そこまで言うとキッドは一瞬、視線を落とした。
と、思ったら真っ直ぐ私を見据えて、


「だから答え合わせしようぜ?あおいちゃん」


快斗くんの声ではっきりとそう言った。
そして白い服を脱ぎ捨て、


「俺の正体に、気づいてたよな?」


闇に溶けるような黒い服で、怪盗キッドとしてではなく、黒羽快斗として私の目の前に現れた。


「…っ」


咄嗟に言葉が出て来なかった。
確かにもしかして、と思った時はあった。
でも私に対してはっきりとそういう態度を取ったことはなかった、と、思う。
いつからだろう。
いつから快斗くんは、私が気づいてる、って、気づいたんだろう。


「わ、たし、は、」
 

どうしよう、どう答えよう、そんな思いが伝わったのかもしれない。


「別に責めてるわけじゃねーよ?」


快斗くんは、いつもの優しい快斗くんの顔をしてそう言った。


「責めてるとか、そういうことじゃなくて…」


そこで快斗くんは大きく1つ、深呼吸をした。


「これが俺があおいちゃんに隠してた秘密。…言えば巻き込むことになる。だから絶対に言うつもりはなかった。共犯者にさせるつもりは毛頭ないから」


真っ直ぐと、その星空色の瞳は私を映していた。


「でも、俺自身に秘密があったから、あおいちゃんに隠し事があるってわかってもそれを聞くことが出来なかった」
「そ、れは、」
「だってそうじゃねーか?自分は隠し事あるのに、あおいちゃんの隠し事は教えろなんて、聞けるわけねーだろ」


快斗くんは困ったように笑う。


「だから言うつもりもなかったし、あおいちゃんの隠し事も俺からは聞くつもりがなかった」


快斗くんが見上げた先には、雲がすっかり消え、夏の夜空に星々が輝いていた。


「けどやっぱり俺、あおいちゃんのことならなんでも知りたいし、教えてほしいし、もし困ってることがあるなら力になりたいって思ってる」


そりゃあ今はそんなこと言う権利ねーけど、と、自嘲めいて言う快斗くん。


「だから『俺』から真実を聞きたくて、こうしようと思った」
「…しんじつ、」
「そう。…怪盗キッドは俺だよ。あおいちゃんはそれを知ってたよな?それもたぶん、ずっと以前から。…あおいちゃんは、何を隠してるの?」


以前キッドが私に隠し事は何か聞く、って言ってたことがあった。
でも快斗くんは、私がキッド=快斗くんて知ってるならキッドとしてタイミングを待つんじゃなく、自ら聞こうって、そう思った、ってことだろう。
ならもう、私が出す答えは1つしかない。


「…言っても、信じないと思うよ、」
「ふはっ!」


私の言葉を聞いて、快斗くんが噴き出した。


「あおいちゃんさー、よく考えてよ」
「え?」
「普通、高校生のガキが怪盗キッドなんて信じねーだろ?…でもあおいちゃんはそれを受け入れてくれていた」
「だってそれは、」
「同じだよ」
「…同じ?」
「そう。だから俺も、他人が信じねーような話しをこれからあおいちゃんがしたとしても、俺はそれを受け入れるだけだ」

ーダイジョーブ。どんな俺でも、あおいちゃんは受け入れてくれた。だから俺もどんなあおいちゃんでも受け入れるし、運命も一緒に背負うからー


あれは、いつの、誰が言った言葉だっただろうか…。
それは思い出せないけれど。
でもきっとそれが誰の言葉だったかなんて、心が知っている。


「…あのね、私、」


きっと最期のその瞬間まで、言うつもりがなかった言葉を。
重く閉ざした言葉を。
ようやく口にした。

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bkm

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