■協力者
「コナン君!大丈夫かい!?」
俺の言葉に、驚いたような顔をした名探偵。
…これは「今の俺」の正体に気づいたな。
「さあ、ここから脱出するんだ!」
まぁ長居するわけでもねーし。
とにかく今オメーに何かあったら、それこそあおいちゃんが悲しむだろうが。
だからコイツと、それからスコーピオンも無事に城の外に連れ出さなきゃなんねー。
スコーピオンは見事に伸びてて当分起きないだろうし、俺を撃ってきた奴だけど仕方ねぇ。
担いで逃げるしかねーな。
なんて思ったところで「運良く」名探偵と引き離されるが如く、崩れた建物に隔てられた。
「白鳥刑事!!そっちから逃げてっ!僕たちはこっちから外に出るからっ!!」
「わかった!外で会おう!」
まぁ、アイツ1人ならどーとでもなるだろ。
俺もこうしちゃいられねーと、スコーピオンを背負って城の外に出た。
「コナンくん!」
目が覚めたスコーピオンがおかしなことしないよう身体をロープで縛り上げ、車に乗り込もうとしたところで名探偵を見つけた。
「僕はこのままスコーピオンを警視庁へ連行します!キミ達はそのエッグを持って毛利さん達と合流してください!」
とりあえず2度とコイツが右目を狙うようなことがないように、警視庁に向かい途中で高木刑事に連絡。
無事スコーピオンを回収してもらうことになった。
「せっかくのお休みなところすみません」
「いや、一警察官として当然だ」
後のことを高木刑事に任せ、俺もようやく仕事を終えた。
「…ふーぅ…」
一息吐いたものの、一番デカい仕事が残っていたと、もう一度気を持ち直した。
そして8月24日午後8時50分。
雨の米花町にやってきた。
名探偵、オメーに恩を売りつけるためにな!
「新一…」
探偵事務所では、案の定蘭ちゃんによる尋問が行われていて。
我ながらナイスタイミングだった。
「ホントに新一なの!?」
「あんだよ、その言い草は…!オメーらが事件に巻き込まれたって言うから、様子を見に来てやったのによ!」
「どうしてたのよ!私に、…ううん、あおいにも連絡してないんでしょ!?」
「悪ぃ悪ぃ!事件ばっかでさ…。今夜もまた直ぐに出掛けなきゃならねえんだ…」
「え!?…待ってて!今、拭くもの持って来るから!!」
そう言って自宅に駆け上がる蘭ちゃんの後ろ姿を見送り、探偵事務所を後にした。
「待てよ、怪盗キッド。まんまと騙されたぜ。まさかあの白鳥刑事に化けて船に乗ってくるとはなぁ!」
ピーー、と指笛で事務所にいた鳩が飛んできた。
「お前、わかってたんだな。あの船の中で何か起きること」
「…確信はなかったけどな。一応、船の無線電話は盗聴させてもらってたぜ?」
「お前がエッグを盗もうとしたのは本来の持ち主である夏美さんに返すためだった。お前は、あのエッグを作ったのが香坂喜市さんで世紀末の魔術師と呼ばれていたことを知っていた。だから、あの予告状に使ったんだ」
「ほーぅ。他に何か気づいたことは?」
「夏美さんの曾おばあさんが、ニコライ皇帝の三女マリアだった、ってこと言ってんのか?」
やっぱり気づいたか。
「マリアの遺体は見つかっていない。それは、銃殺する前に喜市さんに助けられ日本に逃れたから。2人の間には愛が芽生え、赤ちゃんが生まれた。しかし、その直後彼女は亡くなった。喜市さんはロシアの革命軍からマリアの遺体を守るため、彼女が持ってきた宝石を売って城を建てた。だが、ロシア風の城ではなく、ドイツ風の城にしたのは彼女の母親であるアレクサンドラ皇后がドイツ人だから。こうして、マリアの遺体はエッグとともに秘密の地下室に埋葬された。そしてもう1個のエッグに城の手がかりを残した。子孫が見つけてくれることを願って、な」
ほんと、オメーだけだよ、俺が名探偵と認める探偵は、な…。
だからこそ、だ。
「今回の件でオメーは俺に借りが出来たぜ?」
「借りだと?工藤新一の姿で蘭の前に現れたことなら、」
「それだけじゃねーよ。スコーピオンからも助けてやった」
「…あれはオメーがいなくとも、」
江戸川コナン、いや、工藤新一は、どこかムッとした顔で俺を見上げた。
「なぁ、名探偵。俺は決めたぜ?」
「は?何を?」
「俺はオメーを協力者にする」
「……は?」
名探偵が訝しむように片眉を上げたのがわかった。
「俺は盗みの手伝いなんざする気はさらっさらねーからな」
「だーれが盗みの手伝いしろって言ったよ。それは共犯者だろ?俺が言ってんのは『協力者』だぜ?」
「…何の協力だ?」
「さてね」
「あ?テメーふざけてんのか?」
「時が来ればわかるさ」
あからさまに呆れたような顔で俺を見る名探偵。
仕方ねーだろ、俺自身、「何の協力者なのか?」がわかってねーんだから。
…けど、あの子を助ける協力者っつーことなら、コイツしかいねぇ。
「よく聞けよ、名探偵」
「なんだ?」
「俺はこれからお前にありとあらゆる恩を売りつけるぜ?『通報しないことで貸し借りなし』なんて言えねーほどの恩をな」
「…」
「その恩は、いつか必ず返してもらうから心しておけよ」
「捕まった時の担保にでもしよーってのかよ?」
「んなことじゃねーよ。こうすることできっと、オメーも俺に感謝することになるはずだ」
「は?なんで?」
「それが『あの子』のためだからな」
「…それ、って、」
「新一ぃ!」
「おっと、タイムオーバーだ。んじゃあ、またな、名探偵!」
「あ、おい!」
指を1つ鳴らして、その場から立ち去った。
…これでようやく本当に、今回のインペリアル・イースター・エッグの事件が終わった。
「て、ことは、だ」
今回の事件が終わったとなると、することは1つ。
そう思い、あの子のいるであろうマンションへと向かった。
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bkm