キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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世紀末の魔術師


全てを懸ける


「では手筈通り、奴の狙うインペリアル・イースター・エッグは秘密裏に我々警察の者が…」


8月22日、犯行当日。
青子のオヤジに付けた盗聴器から聞こえる声に耳を済ませる。
当初の予定通り、エッグは美術館から出され、中森警部たち少数の警視庁の人間が「エッグが隠れているとは一見わからないような場所」に隠すことになった。
馬鹿みたいにセキュリティ強化されてるところよりも、警部曰く少数精鋭の警視庁の人間に守らせる予定だ。
でも少数精鋭とは言え、所詮は中森警部の部下たちだ。
敵じゃない。


「レディース!アーンド、ジェントルメーン!」


8月22日午後7時19分。
まだ熱の篭もる大阪の街に、どデカい花火を上げようじゃねーか。


「さぁ、ショーの始まりだぜ!」


午後7時20分。
大阪城から花火が上がる。
その直後、音に紛れるように、変電所にもデカい花火を仕掛けた。
通天閣から見下ろす大阪の街が一瞬で暗闇に包まれる。
そして1つ、また1つと闇の中に光が灯る。
それはまるで、漆黒の闇の中でも光を放つ、あの子の瞳のような世界だ。


「ビーンゴ!」


そんなことを思っていたら、自家発電のある病院やホテル以外で直ぐに明かりが着いた場所を見つけた。
位置的に雑居ビル建ち並ぶ、何の変哲もないビルの一角。
間違いなく、エッグはあそこだ。
中森警部もそんな付け焼き刃じゃあ、盗ってくれって言ってるようなもんだろ。
そんなことを思いながら、悠々とエッグを手に未だ暗闇の中にある大阪の街に羽を広げた。
こりゃ今回も楽勝だ。
そう油断した、ってのは確かにあった。


「ん?」


高度を下げ始め、埠頭に近づいた辺りで右目が赤い何かを捉えた気がした。
チラチラと見えたのはほんの一瞬で、俺がその赤い何かを見た瞬間、


「っ!?」


レイザーだと気づくのが早かったか、右目に受けた衝撃が早かったか…。
撃たれたと認識出来た時にはもう、地面に落下寸前だった…
…………
………
……



「いっ、ってぇ…」
「気がついた?」


身体中が痛い。
なんだこの痛み、って思ったけど、そうか俺どっかから撃ち落とされたんだ。
そこまで高度は高くなかったけど、ぶっ飛ばされて今の今まで意識を飛ばしてた、ってとこだ。
自分に起きたことを冷静に整理するのと同時に、今現在の状況に目が行き。


「!?…ってぇ!?」
「それだけ勢いよく起き上がれるなら大丈夫そうね」


これ車の中じゃね?って思った瞬間、起き上がったら、全身に鈍い痛みを感じて。
そんな俺の後ろから聞き慣れた声が聞こえた。


「…は?え?なんで紅子がいんの?」


最悪、警察に連れてかれててもおかしくない状況で、ワンボックスカーの2列目シートを倒して寝かされていた俺は、3列目シートに優雅に座っているクラスメイトの姿を捉えた。


「撃ち落とされたあなたを助けてあげたのに、随分な言い方ね」


紅子はドアに腕をかけ、頬づえをつきながらそう言った。


「あなたは回収出来たけど、盗った物は別のところに落ちたみたいでなかったわよ」


紅子は冷静にそう言う。


「てゆーか、なんでオメーここにいんの?この前の忠告ってのも、また邪神だか魔神だかのお告げって奴か?」
「…そういう契約だからよ。けど、忠告が効いたようね。あなたの顔、無傷よ」
「あー、モノクルを防弾にしてもらったからな。一応礼言っとくぜ?ありがとな」


自分の顔を触るとモノクルが外れていた。
あの衝撃でふっ飛んだか…。
銃撃を受けた上、空から落ちたんじゃあ、さすがに割れちまっただろうな…。
…ん?てゆーか今…、


「オメー『契約』って言ったよな?」
「そうね」


紅子からおかしな言葉を聞いた。
契約ってなんの?
撃ち落とされた俺を助けることが契約?
だいたいそれ誰とした契約か、なんて、思い当たるのは、紅子と引き合わせたあの日聞いた「契約成立」の言葉だ。


「あおいちゃんと何の契約した?」
「…あら、契約相手をあなたに言ってないけど?」
「んなの少し考えればわかることだろ。『俺を助けろ』とか言う契約でもしたのか?」


けどあの子はなんのためにそんな契約をした?
普通に生きてりゃ、わざわざ「彼氏を助けろ」なんてお願いしねーだろ。
それこそ俺が探偵でもない限り、そんな「助けられる」なんて状況そうそうないはずだ。


「『あなたの生命の危機もしくはそれに準ずることが起きたらあなたを助けること』」


本来は言わないけどあの子と守秘義務の契約を結んだわけでもないしね、と紅子は言った。
………いやいやいや。


「待てよ、待ってくれ」


俺の言葉に、紅子は横目で俺を見てきた。


「俺の生命の危機?なんだそれ、オメーだってそれじゃあまるで」
「『俺の正体に気づいてるみたいだ』って、ところかしら?」
「っ、」


俺が飲み込んだ言葉をそっくりそのまま、紅子は紡いだ。


「言ったはずよ。あの子は『知っている』のよ」
「知ってる、ってオメー、」


それは俺の運命どーのの話しじゃねーの?
だいたいその運命ってのもあおいちゃんが「俺と青子が結ばれる未来がある」って言う思い込みなんじゃなかったのかよ?
俺がキッドだと知ってる?
いつから?


「あなたの言い分によると、覚悟も力もあるようだけど、引き返すなら今よ」
「え?」
「あの子の分岐点はその魂の特性からかいくつも存在したけど、あなたの分岐点は今」
「分岐点?」


紅子は一瞬俯くように下を見た後で、


「あるいは私に協力を持ちかける契約をしていたら、そのように動いたかもしれないわ。でもあの子は『あなたを助けること』を契約条件にした。…ひと欠片とは言え存在したかもしれない未来を自ら諦めたあの子のために何かを差し出す、その覚悟と力があなたにはある?」


真っ直ぐ俺の目を見てそう言ってきた。


「前も言ったはずだぜ?簡単に開く扉には興味ねーんだよ。難攻不落っつーなら、こっちも全てを懸けてやろうじゃねぇか」
「…」


俺の言葉に紅子は呆れた顔をした後で、あからさまにため息を吐いた。


「今回の件が終わったら、本人に聞いてみなさい」
「何を?」
「彼女が何を隠しているのかを」

ーいつか時が来たら、他の誰でもない『あなた』が『私』に聞いて。『私が何を隠しているのか』をー


今の俺とあおいちゃんの関係は、例えるなら穴だらけなジグソーパズルのようだと思う。
お互いが隠してることがあって、でもその隠しているというピースがなくても全体像はなんとなく理解できる。
歪でどこか掴めみどころがないような、そんな関係。
でも今、この空いていたピースが1つ、ハマったような気がした。


「紅子」
「何?」
「オメーと知り合えて良かったぜ。ありがとよ」


俺の言葉に紅子が目を見開いた。


「言っておくけど、次からは対価をもらうわよ」
「おー、いつでも欲しい本盗ってきてやるよ」
「安い対価ね」
「……あ、ジイちゃん?俺、俺。おー、大丈夫大丈夫!でも予定変更プランCで!そこで会おうぜ」


どこかスッキリした頭で、ジイちゃんに電話をした俺に紅子が盛大にため息を吐いた。

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