キミのおこした奇跡ーAnother Blue


≫Clap ≫Top

世紀末の魔術師


8月22日午後8時


「あ、あれ!私知ってる!!」


お好み焼き食べたーい、ってことでお好み焼き食べたら、大阪のイケメン見たーい、って園子が言い出して、ならひっかけ橋行こかー、って言われてついてきたわけだけど(この間、たこ焼きも食べたまさに食い倒れ!)
テレビでよく見るグリコサインが目に入ってきた。


「ここに来た観光客は、グリコのポーズせなあかんねん」
「ほんとに!?私やるよ!ちゃんと撮ってね!」
「あおいちゃん、ノリいいなー」


和葉ちゃんが笑いながらケータイを構えたから、張り切ってグリコポーズした私と、ちょっと恥ずかしそうにグリコポーズしてる蘭、グリコポーズしてる私の足をさらに上げようとしてる園子って言う写真が撮れた。
めちゃくちゃ観光してる、私たち!


どーーん どーん どーん


そんな感じに盛り上がっていたら、いつの間にか午後7時20分、キッドの犯行時刻になっていて。
大阪の街に大きな花火があがった。


「おっかしいなぁ。今日は花火の日とちゃうんやけど…」


和葉ちゃんがそう言った直後、


「え?」
「停電…?」
「やっぱりこんなんおかしいで!」


夜の道頓堀が真っ暗闇に包まれた。


「どうする?」
「どうする、って言ってもここらへん停電になってるっぽいし、お店に入るどころじゃないよね…」
「ちょお待ってみる?」
「原因がわかんないから、待ってて復旧しなかったら最悪よね」
「ほな場所変えよか?」
「だねー」


そう言って歩き始めたんだけど、やっぱりどこもかしこも真っ暗で。
街頭はもちろん、信号機もダメで、明かりと言えば車のライトくらいだ。


「な、なぁ…。もしかして大阪中が停電しとるんちゃう?」
「…そんな感じするね」
「どないしよ…」


こんな中で明かりがつくのは、ホテルや病院。
…そう言えば、服部くんはどこの病院に運ばれるんだろう。
そこまではわからないから、ここからどう動けばいいのか…。


「ホテルって自家発電ないかな?」


私が頭を悩ませていたら、蘭がそーいえば、って口にした。
…さすが蘭。
無駄におじさんやコナンくんに、現場に連れ回されてるだけある。


「蘭ちゃんたちどこに泊まってるん?」
「私たちは関西ホテルワールドだよ!」
「うーん、ちょっと遠いけど歩いていけんこともないな!いつ復旧するかわからへんし、ホテルまで歩いて行こか?」


真っ暗でタクシー拾ったところで国道危ないし、ってことで、歩いてホテルに向かうことになった。


「ほんでそん時になぁ、」
「あはは!服部くんらしい」


歩道を歩いていると、自然と和葉ちゃん、蘭が並んで歩き、私は園子と並んで歩くことになった。


「さっきのおみくじさー、」
「うん?」
「ほんとはなんて書いてあったのよ?」


暗闇の中でも、園子がチラッとこっちを見て言ったのがわかった。


「んー…、『彼を信じて心を開け』ってさ」
「……その彼って、」
「言わないで」
「もうさー、ヨリ戻しなよ。おみくじにまで言われてんのよ?」
「ヨリ戻せとは言われてないし、」
「でも彼を信じて心開けって言われたんでしょ?信じていろいろ話し合ってみれば?つきあってる時にあんたが思ってたこと、今思ってること、話してみるのいいと思うけどねー」


んー、と伸びをしながら園子は言った。
…でもさぁ、その「話してみる」っていうのが、私には、もしかしたら快斗くんにも、ハードル高めなわけで。
言ってないこと、言ったら嫌な気持ちにさせそうなこと、あるわけで。
ならこのまま黙って友達で、って思っちゃうわけで…。


ピリリリリ


モヤモヤ考え始めたら、誰かのケータイが鳴った。


「和葉ちゃんじゃない?」
「え?アタシ?ほんまや、誰やろ?…あれ?平次んとこのおばちゃんや」


その独り言とも言えない言葉を聞いた時、どくん、と心臓が鳴った気がした。
少し離れた場所に和葉ちゃんが行って電話に出た。


「ごめん、蘭ちゃん」
「あ、電話終わった?」


通話が終わった和葉ちゃんは、私たちのところに戻りながら謝ってきた。


「平次が事故ったって…」
「え!?服部くん大丈夫!?」
「バイクで走ってるところ車とぶつかったって、おばちゃんから連絡着て…」
「ち、ちょっとそれほんと!?コナンくんは!!?」
「…わからん。おばちゃん平次の話しかしてへんかった…」


呆然と立ち尽くす蘭と和葉ちゃん。
…私は私にできることをする。


「和葉ちゃん、こんなことしてる場合じゃないよ!病院行こう!ね?私も一緒に病院に行くから!」
「じ、じゃあ私タクシー拾ってくる!」
「あかん!どっこもこの状態やから走った方が早いわ!!」


私の言葉に園子が続いたけど、和葉ちゃんが大きい声で否定した。


「堪忍、蘭ちゃん園子ちゃんあおいちゃん。アタシ行かなあかんねん!」
「…も、もちろん私も行くよ!」
「え?」
「蘭も行くよね?コナンくんもいるかもしれないし!」
「うん、そうだね!行こう!」
「え、じゃ、じゃあ私もついてくから!」
「みんな…。おおきに、ほなこっちや!」


そう言って駆け出した和葉ちゃん。
…そう、駆け出した。
待って、行くって言ったけど、ここからどこまで駆け出さないといけないの!?
行くけど!!
私も行くんだけど!!


「あおい、手!」
「ゼェ、ゼェ、あ、ありが、ゼェゼェ」
「もうちょっと頑張って!」


途中、私の足の遅さに気づいた蘭が手を引っ張ってくれたんだけど、私明日きっと寝込む。


「あおい!…気をつけてね」


足がもつれて倒れそうになった私に、蘭がサッ、と身体を引っ張って腰を取ってくれた。
…今一瞬、蘭が王子様に見えた…!!
私が新一くんなら、今ので蘭に惚れる!!
蘭てば可愛いのになんでこんなにカッコいいの!?
そこら辺の男の人よりカッコいいよ!?(快斗くんには負けちゃうけどね!)


「おばちゃん!平次は!?」
「あー、和葉ちゃん!来てくれたん?おおきに」


なんて、うっかり蘭にときめいていたら、病院に着き、服部くんのお母さんと合流した。
…また「お母さん」て呼ばれる美人さん!!
やっぱりこの世界、美人じゃないとお母さんになれないんだ!!


「か、軽い捻挫だけーー!?」
「そうなんよ。ほんま、頑丈な子やで」
「すみません、一緒に男の子いませんでした?」
「うん?ああ、毛利さんところの男の子やろ?なんや平次の話やと、キッド追ってった、言うとるで?」
「え…?」
「で、でもキッドって夜中の3時に来るって」
「なんや大阪城の花火もキッドで?エッグがどうの言うてたからもしかしたらもう盗られたのかもしれんなぁ」
「ええっ!?」
「あのガキンチョ、1人でキッド様に会いに行ったの!?」


服部くんのお母さんの言葉に、園子が心底悔しそうな顔をした。


ピロン


私のケータイが、メールの受信を告げた。
相手は紅子ちゃんからで、たった一言「回収完了」とだけあった。
…紅子ちゃんが動いてくれたんだ!
なら、怪我をしてるかもしれないけど、もう大丈夫なはずだ。
そして鳩を抱えたコナンくんが、私たちと合流した。
キッドが撃たれたっぽいと私たちに軽く説明した後で、蘭が警察に連絡することになった。


「あおい姉ちゃん」
「うん?」
「…撃たれたみたいだよ、キッド」


コナンくんはジーッと私を見ながらそう言ってきた。


「あ、ああ、うん。さっきそう言ってたね」
「何も思わないの?」
「え?…無事だといいな、って思うよ?」
「それだけ?」
「それだけ、って?」
「……ううん、なんでもない。疲れたからホテルに戻ろう」


コナンくんはそう言うと、軽くあくびをした。
こうして、長い長い、8月22日が終わろうとしていた。

.

prev next


bkm

×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -