キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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世紀末の魔術師


浪速の探偵とおみくじ


犯行前のいつものパターンで、快斗くんからの連絡は主にメールで電話をするとしても10分くらい、って日を数日過ごしていた。
…今迂闊に話すとスコーピオンに気をつけてとか言っちゃいそうで、ぶっちゃけ私からみてもすごいちょうどいい距離感になっていた。
そして犯行予告の出た日、蘭、コナンくん、おじさんの3人と共に大阪入りをすることになった。


「インペリアル・イースター・エッグって、ロマノフ王朝時代の工芸品なんでしょ?どんなのかなぁ!コナンくん見たことある?」
「写真でならあるよ。…ロシアの皇帝がイースターのときに皇后に送るために作らせた工芸品で、今まで50個発見されていて、鈴木財閥の蔵から見つかったのは51個目の貴重な文化遺産なんだよ。…本物なら、ね」
「ほんとコナンくんていろいろ詳しいよねぇ!」
「えっ!?…って、新一兄ちゃんが言ってたんだ!」
「…あの探偵ボウズは余計なことばっか知ってやがるな!」


快斗くんもさぁ、犯行前に連絡減るって言うので気づく人気づくんじゃないかな?とか思ったけど、こっちもこっちで、それ毛利家の皆さんだからまかり通ってるだけで、明らかに苦しいよ…ってのを繰り広げてる人がいた。
なんでこれでバレないの…。
蘭て新一くんのこと好きって言ってたくらいだし、新一くんの幼い頃に似てる(本人だけど!)コナンくんに甘いんじゃないのかって、薄っすら思い始めていた。


「でも私たちはお父さんたちの邪魔になるから、園子やと合流してみんなで大阪観光しようね?」
「私、当たるって噂のおみくじある神社行ってみたいんだよね」
「あおい姉ちゃんて、そういうの調べるのだけは得意だよね…」
「い、いいじゃん!別に!」


あなた(コナンくん)の前でこんなの調べたことないですけどっ!なんて思いながらも、図星を刺される私。
でもさ、映画でも「当たるおみくじ」って言ってたし、行ってみたいじゃん。
あ、でも「あなたに未来はありません」とか出たらどうしよう…。
それはそれでちょっとどうなのって思っちゃって


「らーん!あおいー!」


そんなこと思ってたら、あっ!という間に大阪に着いてしまった私たち。
大阪駅で園子のお出迎えで、みんなでリムジンに乗ることになった。
なんでリムジンなのか、なんて、


「今日は特別なんですもの!憧れの怪盗キッド様に会うには、これ位でないとね!」


って、ことらしい。
でもさ、私知ってるんだ。
園子、私が記憶無くした時、快斗くんの学校まで黒塗りベンツで迎えに行ったらしいじゃん…。
快斗くんアレ、ビミョーに嫌がってたんだよ…。
学校の前まで来られてみんなの視線が痛かった、って…。
そして本日の運転手をサラッと紹介されたりしてるうちに、現場となる鈴木近代美術館に到着した。


「す、すごい警戒だね…」
「まさに蟻の這い出る隙もねぇって感じだ」
「あったり前よ!相手はあの怪盗キッド様!なんたって彼は」
「神出鬼没で変幻自在の怪盗紳士。堅い警備もごっつい金庫もその奇術まがいの早業でぶち破り、おまけに顔どころか声から性格まで完璧に模写してしまう変装の名人ときとる。…ほんまに、めんどくさいヤツを敵に回してしもたのぉ、工藤?」


…浪速の高校生探偵、服部平次!
実物初めて見た!!
てか、肌黒っ!!


「もー!なんで服部くんコナンくんのこと工藤、って呼ぶの?」
「あはは!すまんすまん!コイツの目のつけどころが工藤によぉ似とるんでな!ついそない呼んでしまうんや」
「ほーんま、アホみたい!今日も朝早よから工藤が来る、工藤が来る言うていっぺん病院で見てもろた方がいいんとちゃうのぉ!?」


そして服部平次がいるってことは、遠山和葉もいるってわけで。
やっぱりペアで動いてる仲良しさんだ!


「そういえばあおいは初めてだよね?こっち、遠山和葉ちゃんと、幼馴染の服部平次くん。服部くんは新一と仲良いんだって。和葉ちゃん、この子同じ学校の同級生で芳賀あおい」
「はっ、はじめまして…!」
「こんにちはー!あおいちゃんでええ?アタシのことも和葉って呼んで」
「う、うん!和葉ちゃん!」
「んー…?」


和葉ちゃんと私が挨拶を交わしていたら、一緒に紹介された服部くんが唸り出した。


「何?平次。どーかしたん?」
「んー…、この姉ちゃんの名前、どっかで聞いた気する思てな…」
「そりゃあそうだと思うよ。あおいは新一と仲が良いから、新一から聞いてるんじゃない?」
「…あー!あのマヌケなちっさい姉ちゃんのことか!」
「まぬ」
「せやせや!スキー合宿で行った瞬間に骨折ったっちゅう、」
「折ってないよ!捻挫ですっ!!しかも行った瞬間じゃない!午前は持ったっ!!」
「ほんで毎回テストも赤点スレスレで勉強合宿とか言うのに参加せなっていう、勉強も運動もあかん子ぉやんな?」
「今はもう違うしっ!今年は勉強合宿行ってないしっ!!」


なんで出会い頭でまぬけとか言われないといけないの!?
新一くん何ベラベラ喋ってくれちゃってんの!?


「ま、まぁほら、平次兄ちゃんが盛って話てるだけだからさ、」
「ねぇ、コナンくん」
「うん?」
「なんで新一くんあることないこと、こんな関西人にベラベラ喋ってんの?なんなの?どういうつもりなの?」
「えっ!?…ぼ、僕わかんないなぁ…」
「は?わかるでしょ?私より頭良いって前言ってたでしょ?なんなのどういうつもり?」
「ち、ちょっと、あおい、落ち着いて、」
「ガキ相手に怒ってんじゃないわよ」


コナンくんに詰め寄る私に、蘭と園子が止めに入った。
…小学生な見た目だけで庇われるなんてズルい!!
新一くんなんて、ドアに小指挟んじゃえ!!
なんて私が新一くんに念を送っていたらいつの間にか話は進み、


「は、8億ぅぅ!!?」


メモリーズ・エッグの商談の話になっていた。
みんな俺が俺がって感じに、園子のお父さんに話しかけていた。
…その中にいた。
スコーピオン、キッドの右目を狙う人。
こんなちょっとお綺麗なお姉さんの姿だったら、誰も凄腕スナイパーとか思わないって。
でも綺麗さに騙されちゃだめ。
この人は快斗くんを狙う人だから。


「会長、エッグをお持ちしました」
「ああ、ご苦労さん。テーブルに置いてくれたまえ」
「はい」
「…さぁ、みなさんどうぞ」


そう言われてみんなでメモリーズエッグを囲むように座る。
これが、世紀末の魔術師が作ったエッグ。


「…これが、インペリアル・イースター・エッグ?」
「なんやパッとせぇへんなぁ」
「せやなぁ。ダチョウの卵みたいやな」
「これ開くんでしょ?」
「そうなんだよ!よくわかったね」


パカッと卵を開く園子のお父さん。
中から皇帝一家が出てきた。


「中はニコライ皇帝一家の模型でね。全部金で出来ているんだ。…このエッグには面白い仕掛けがあってね」


そう言いながら園子のお父さんが持っていたネジをエッグに差し込み回すと、ニコライ皇帝一家がせり上がってきた。


「ファベルジェの古い資料の中に、このエッグの中身のデザイン画が残っていてね。これによって本物のエッグ、と、認めれたんだよ」
「…メモリーズエッグ、というのは、ロシア語を英語にした題名なんですか?」
「ああ、そうだよ。ロシア語ではボスポミナーニエ。日本語に直すと思い出だそうだ」
「ねぇ。なんで本を捲ってるのが思い出なの?」
「バーカ!皇帝が子供達を集めて本を呼んで聞かせるのが、思い出なんだよ!」
「エッグの蓋の裏で光ってるのは宝石ですか?」
「あぁ、そりゃただのガラスなんだ」
「え?」
「皇帝から皇后の贈り物なのに?なんか引っかからない?」
「うーん…。ただ51個目を作る頃はロシアも財政難に陥っていたようだがね」


私も知っている「物語」が、ほんとにそのまま進んでいて。
なんだかスクリーンの中に迷い込んだような、不思議な気分だ。


「引っかかる言うたら、キッドの予告状。光る天の楼閣。…なんで大阪城が光るんや?」
「アホ。大阪城建てた太閤さんは、大阪の礎築いて発展させはった、大阪の光みたいなもんや」
「その通り!キッドが現れるのは大阪城の天守閣。それは間違いない!だが…」
「秒針のない針が12番目の文字を刻む時。この意味がどうしてもわからんのだ!」


そう言いながら会長室に入ってきた茶木警視と中森警部。


「ソレって、あいうえおの12番目の文字とちゃうん?」
「あいうえおの12番目の文字、って…し?」
「じゃあ4時ってこと!?」
「いや!キッドの暗号にしては単純すぎる!」
「…わかりましたよ、警視!あいうえおではなく、アルファベットで数えるんです!」
「アルファベット?」
アルファベットの12番目の文字はL!つまり」
「3時か!!」
「さすが名探偵!お見事ですな!」
「あーはっはっは!!!」


どこか納得できていないような顔をしているコナンくん。
…コナンくんは、狙撃直後からキッドの姿を見ていない。
ならキッドはどうやって助かったのか、本当にわからない。
助かるはずだし、紅子ちゃんていう保険もかけた。
…快斗くんならきっと大丈夫。
それはまるで呪文を唱えるかのように、ずっと心で言い続けていた。


「じゃあさ!暗号も解けたみたいだし、私達大阪観光しに行こうよ!」
「そう言えばあおいが行ってみたい神社あるって言ってたよ」
「神社ぁ?」
「当たるおみくじって、有名なとこあるんだって」
「それもしかして難波布袋神社のことやろか?」
「そ、そうそう!そんな名前だったよ!」
「あー、確かにあっこは当たるて有名やな」
「で、でしょー?ほら、行ってみたくない?」


大阪って言ったら食い倒れだろう、みたいなノリだった園子は神社って言葉に不服げだった。
でも「当たるおみくじ」ってのはやっぱり気になるみたいで、


「んじゃあ、そこ行きましょー!」


園子の号令の元、難波布袋神社に向かうことになった。
別にさ、すごい信じるとかじゃないんだけどさ。
でもやっぱり占いとかおみくじって気になっちゃう、だって私は女子高生。
変なこと書いてないといいなぁ、なんて思いながら、鳥居を潜った。


パンパン


とにかく先に参拝を済ませて、園子、蘭、私、和葉ちゃんの順でおみくじを引いた。
どきどきどきどき…


「あ!私大吉!」


カサカサ、と紙を開くと目に飛び込んで来たのは「大吉」の文字。
…良かった!ほんとに!


「あおいはなんて書いてあったの?」
「あ、うん。ええ、っと…、」


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当たるって言われてる難波布袋神社のおみくじ。
そのおみくじでそんなことを書かれていて。
そんな、この「彼」が誰か、なんて…。


「なになにー?なんて書いてあったのよ?」
「あっ、あー…、出会いはない的な?」
「え?それ大吉なんちゃうの?」
「大吉、だけど、」
「はっはーん、私わかっちゃったわ!出会いがあるはずないわよねー、もう出会ってんだもん!」


園子がニヤッと笑いながら言った。


「出会ってるって何?思い当たる人おるん?」
「いるのよ1人!あおいのこと身体張って守ってく」
「園子!その話はまたあとでじっくりだよっ!!」


ハッ、として、園子を静止した後でちらりとコナンくんを見ると、


「…」


すごく何か言いたそうな顔でこっちを見ていた。
…変な汗出てきた!


「そ、園子は!?園子はどうなの!?」


居心地の悪いコナンくんの視線から逃げるべく、園子に話しを振ったら、黙っておみくじを渡された。


「え?なになに?…『離れていても諦めないで』…諦めないで」
「煩いわよ!」


親指を立てながら励ましたらキレられた。
なにそれ理不尽!


「蘭は?」
「私は『時間を味方につけましょう』って」


苦笑いしながら、蘭はそう言った。
蘭は、10年かけて新一くんに好きになってもらうと言った。
時間を味方につけるって、きっとそういうことなんだと思った。


「当たるわね、ここ…」
「せやから言うたやん、当たるんやって!」


園子のことも蘭のことも、当たってると思う。
…だからやっぱり私のおみくじの「彼」って言うのはきっと…。


「和葉!お前その3人案内したれや!」
「え?平次は?」
「俺は、このちっこいの案内するから!」
「どうしてー?一緒に行こうよ!」
「男は男同士がええんやて!なぁ?コ、コ、…コナン、くん?」
「うーん!」


そう言って、去って行く2人に、


「コナンくん!服部くんも、」
「うん?」
「なんや?」
「気をつけてね」


手を振った。
2人の姿が完全に見えなくなったら、


「んじゃあ、ここから、浪速の食い倒れ女子会始まりよー!」


園子が再び声を上げ、神社を後にした。

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