キミのおこした奇跡ーAnother Blue


≫Clap ≫Top

世紀末の魔術師


インペリアル・イースター・エッグ


事の発端はジイちゃんの一言。
何でも先日鈴木家の蔵から出てきたっていうロマノフ王朝のお宝が、正統な継承者の手に渡ってほしい、って話だった。
ジイちゃんはその昔、「正統な継承者」に当たる人間の世話になったことがあるんだとか。


「でもロマノフ王朝のお宝なら正統な継承者って、」
「ニコライ皇帝の娘マリアが日本に落ち延びて、日本人との間に子を成したんです」
「なるほど。その血筋ってわけね」


…て、ゆーか、その事実を知ってるって、ジイちゃんいくつだよ…。
あんま無茶ぶりしないように気をつけよ…。


「きっとぼっちゃまも驚かれると思いますよ」
「うん?」
「鈴木家の蔵から見つかったインペリアル・イースター・エッグを作られた方の名は、香坂喜市。世紀末の魔術師と呼ばれた日本が誇る細工師です」
「へー!世紀末の魔術師って、またすげー異名だな」
「その名に恥じない名細工を作られましたから」


ジイちゃんはベタ褒めする。
世紀末の魔術師、ね…。
ジイちゃんの話を聞きながら、件のイースター・エッグをサッと調べてみると、現段階にロシアに渡る可能性が高いようだ。


「たまには慈善活動でもしよーか?」
「はい?」
「返してぇんだろ?正統な継承者に」
「…よろしいんですか?」
「ジイちゃんが世話になった人の血筋なら、恩返ししねーとだしな」


一瞬驚いた顔をした後で、ジイちゃんは深々と頭を下げた。
そうと決まれば、インペリアル・イースター・エッグについてより詳細に調べる必要が出てくる。
その過程で正統な継承者は、ロマノフ王朝の血統というだけでなく、世紀末の魔術師、香坂喜市の血縁者だということがわかった。
…なるほどね、ジイちゃんがロマノフ王朝の関係者と関わりあったんじゃなく、こっち方面の知り合いなんだろう。
そしてその異名を使った古城地下へのパスワード。
なかなか謎を孕んだお宝じゃねーか。
…まぁどうであれ、やることに変わりはない。
ビッグジュエルじゃないとはいえ、ロマノフ王朝のお宝、狙われる可能性が高い。
ならば予告状は暗号のようにした方が良さそうだ。


「て、なると、あの名探偵も出しゃばってきそうだよな」


パープルネイルの事件の後、江戸川コナンは黒羽快斗に接触しようとはしなかった。
ぶっちゃけあおいちゃんに何か言うかとも思っていたが、それもしていないようだった。
それは恐らく、キッド=黒羽快斗となった時、あの子が傷つくようなところ、見たくないからじゃないかと思う。
俺が捕まった後、報道で見る方が堪えると俺は思うが、恐らくあの名探偵は、自らの口でそれを告げたことで、あの子を傷つけたくない、自ら傷つけたくない、ってところじゃねーかと思う。


「ますます候補Cとして有力じゃね?」


実際に何をどうする協力者なのか、現段階では全く予想がつかないが、あおいちゃんに対する思いとあの行動力は候補者としての資格は十分だ。


「うぉっ!?…おっまえ、音もなく近づいてくんじゃねーよ!」


そんなことを思いながら出した予告状から数日経った日、コンビニ帰りの俺の真横に紅子が立っていた。


「一応、忠告をしておこうかと思って」
「は?」
「右目、気をつけなさい」
「え?右目?」
「後はあなたの運次第よ」
「…はい?」


言うだけ言って、紅子は去って行った。
…え、待って、今の意味不明な発言のためだけに現れたのかよアイツ。
何だよ、右目って!
俺の右目になんかあんのかよ!
どーせ忠告すんならもっとわかりやすく言えよっ!


「ほんっと、意味わかんねー女だな…」


だからと言って、それを丸っとスルーできない程度には、俺自身もアイツの意味わかんねー魔法ってーのを目の当たりにしてしまったわけで。


「右目、ねぇ…」


このタイミングでの忠告って言うなら、やっぱりイースター・エッグのことだろうと、一応調べてみるかと調べ始めたわけだが。


「…おいおいおい」


直ぐに当たりを引いた。
ロマノフ王朝の財宝を狙うスコーピオンと呼ばれる正体不明なスナイパー。
好んで標的の右目を撃ち抜いてるらしい。
紅子が言ってたのは、恐らくこれのことだろう。
スナイパー、か…。


「あ、ジイちゃん?」
「どうしました?」
「急ぎの案件できたから、頼まれてほしいんだけど」
「何なりと」
「レンズの強化が必要なんだけどさ」
「強化、ですか?」
「そ。例えばどんな状況になっても割れないような強度にしてーんだけど間に合うかな?」
「直ぐにでも手配します」


ジイちゃんは今の会話だけで理解してくれたようで、モノクルのレンズを防弾にしてくれるようだ。
紅子の言葉通りなら、スコーピオンは暗号を解いたってことになる。
それだけ頭がキレる奴。


「…やり甲斐あるじゃねーか」


追い込まれるほど燃えるタイプの俺としては、俄然ヤル気出てきたわけで。
さらに入念に準備をし、予告日を待つことにした。

.

prev next


bkm

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -