キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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世紀末の魔術師


そういう人だから


キッドのテレポーテーション、パープルネイルの事件が終わって数日経った8月のある日のこと。
ニュースを見ない私の目にも、キッドの次の予告状が飛び込んで来た。


黄昏の獅子から暁の乙女へ
秒針のない時計が12番目の文字を刻む時
光る天の楼閣から
メモリーズ・エッグをいただきに参上する

世紀末の魔術師 
怪盗キッド


これは疑いようもない。
予告状に書いてある通り、世紀末の魔術師の事件だ。
…快斗くんに、コナンくんの正体がバレるお話だ。
この事件が本当に起こるなら、ずっと考えていたこと。


「紅子ちゃーん!ごめんね、急に呼び出して」
「本当よ。あなたが契約について話があるなんて言うから来たけど、くだらないことだったら帰るわよ」


どこかムッとしつつも、相変わらず美人な紅子ちゃんは、綺麗な長い髪を靡かせていた。


「くだらなくなんてないよ」
「くだらないかどうかは私が決めるわ。それで何よ?」
「契約、守ってもらおうと思って」
「…どういうこと?」


少しずつ、私の知ってることが事件になってきて、1番最初に思ったのはこの映画のことだった。


「快斗くんの生命の危機に、助けてくれるんでしょ?」
「黒羽くんがどうかしたの?」
「狙われるの。これから」
「…本で読んだのね」
「本、とは、ちょっと違うんだけど…、8月22日午後7時20分、怪盗キッドが通天閣からメモリーズ・エッグを盗みに向かう」


あの映画で、キッドは右目を狙われた。


「盗んだ後、ハンググライダーで逃げてる時に、…スナイパーに右目を狙われそれでバランスを崩して地上に落ちた」
「右目…」
「助かりはするんだけど、どうやって助かったかまでは出てなかったし、」
「少しずつ話が変わってきているから、助かるとも限らない」


私の言いたいことが伝わったみたいで、紅子ちゃんは考え込むような仕草をした。


「ただ具体的な場所がわからなくて…」
「え?」
「通天閣からメモリーズ・エッグが隠されている場所を見つけて、そこから大阪湾を目指して飛ぶっていうのはわかるんだけど、大阪湾って言っても広いから、」
「…わかったわ」


少し考えるような沈黙の後、紅子ちゃんは口を開いた。


「あなたが言うことの証明にもなるし、大阪湾とだけわかれば十分よ。詳しい場所は私がどうにかするわ」
「じゃあ」
「言っておくけど、契約は『生命の危機かそれに準ずることが起こったら手を貸す』と言うものだから、私が見て大したことなさそうなら何もしないわよ」
「そ、それでいいよ!それで十分」


だってそうでしょう?
紅子ちゃんが手を貸さないってことはつまり、生命の危機でも何でもない、ってことなんだから、そうならそれが1番だもん。
でももしものことが起こったら…。
紅子ちゃんという保険はあって損はないはず。


「あなたたち別れたって言ってなかった?」
「あー…、うん、そうだよ」
「でもその契約は続行するのね」


紅子ちゃんがあからさまに呆れた顔をして私を見てきた。


「そ、りゃあ、そうだよ。そうじゃない?」
「さぁ?私にはわからないわ」


快斗くんとは恋人ではなくなったけど、それでも友達なんだから、友達を心配するのは当たり前なことだ。
そう思うけど、紅子ちゃんには、ふぅん?そんなもの?て感じだった。


「と、とにかく、お願いしたからね!」
「あおいさん、あなたは?」
「え?」
「その日、あなたはどうするの?」
「あ、あー…。園子に誘われてるから、私も大阪には行くよ。でも『私が』大阪湾に行くのは、ね…」
「…確かに、何故知っているのかという話になるものね」


紅子ちゃんは私の言葉に頷いた。
何故か?と聞かれたら、それは全てを答えないといけないわけで…。
それはさすがにどうかと思うから、私が現場に行くわけにはいかない、と、思う。


「やっぱり言うつもりはないのね?」
「ん?んー…、聞かれたら言うかもしれないけど、自分からは、ね…」
「例えそれで消滅しようとも?」
「…聞いたところで何も出来なかったら、きっと快斗くんは自分を責めちゃうよ…。そう言う人だもん」


紅子ちゃんは、そう、と、だけ言って、それ以上は何も言わなかった。
言わなくていい事実を隠して話すことは出来る。
でも、そのことを聞かれたら、私はきっと隠し通せない。
だけど言ってしまったことで快斗くんが自分を責めちゃうとか、そういうことになるくらいなら、やっぱり黙っていた方がいいと思う。
黙ったまま、いなくなった方が、いいと思う。
今の友達のままならきっと、それが出来るから…。
もう1度紅子ちゃんに念を押して、その日は別れた。

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bkm

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